Text by 真下 智子|Satoko Mashimo
Photo by 野村 優 | Yu Nomura
関西初進出&初リモートで配信!
グリーン豆が食べ放題!ビールが飲み放題!で2時間1000円ポッキリ!
こんな超太っ腹な世にも珍しいスナック。その名も「スナックかすがい」。
このスナックでは、マスターが毎回2人の個性的なトークゲストを迎え、ここだけでしか聞けない、あんな話やこんな話を実に巧妙に引き出してくれる。観客はその話をグラス片手に、豆を頬張りながら楽しむという、ちょっとイカした大人が集う、粋な社交場だ。
この「スナックかすがい」を主催するのが、春日井製菓。
店名の“かすがい”は、もちろん春日井製菓の“かすがい”でもあるが、もう一つ重要な意味がある。
「鎹」(かすがい)=二つの材木を繋ぎ合わせるためのコの字の釘のことで、人と人、物と物、想いと想いを繋ぎ合わせる、という意味も込められている。さらに繋ぎ合わせることで「成果」(製菓)を作っていく。
それこそが春日井製菓の「スナックかすがい」なのだ。
早いもので開店から5年目を迎え、来店したトークゲストは延べ42人。
東京からスタートし、その人気ぶりから名古屋へも進出。毎回100人ほどの観客が飲みながら、つまみながら、見知らぬ者同士で笑い合う。常連客が新規客を誘い、その連鎖で会を重ねるごとに来客数は増えていった。
しかし、一昨年の春から世の中が激変。大勢で集うことが難しくなり、臨時休業やむなしか……とマスターの豆彦さんもどこか元気がなかった。そんな時、常連さんからの「ぜひ開店してほしい!」という熱い声に背中を押され、マスター豆彦さんが持ち前の企画力と行動力で継続が決定。
2020年4月には、スナックでトークを繰り広げるゲストとお客さんを、初めてオンラインで繋いだ。画面越しではあるが、ビール片手に豆をポリポリというスタイルは変わらず。新しい時代にマッチした形での「かすがう」場が生まれたのだった。
その後、オンラインで4度開店。以前は会場に満席で入れなかった観客も、オンラインなら人数制限なし!しかも家族で視聴できるという楽しさも新たに加わった。人数だけでなく、年齢層の幅も大きく広がっている。個人的にもこれから世の中に羽ばたいていく若者たちにこそ、ゲストの生き方や想いに触れてほしいと密かに思っていただけに嬉しい限り。
家族で楽しめる「スナックかすがい」。
いいじゃないいいじゃない。家族で「スナックかすがい」。
確かにライブの温度感を肌で感じることはできないが、鋭く斬り込むマスター豆彦さんと、ついつい本音をポロリと話してしまうゲストが掛け合うことで生まれる、予測不能、奇想天外な脚本のないストーリーに、画面を通してグイグイと惹きつけられる。
そして今回、第22夜にして、ついにトークの本場、関西に初進出!
しかも初めてゲストをリモートで繋いで、オンラインで配信。さらにリモートで繋ぐ先は校長室?そう、校長先生がスナックに初登場するというのだ。
いつものことながら、マスター豆彦さんの発想は、想像を遥かに超えていく。そんなマスター豆彦さんに振り回される(笑)のも、もはや心地良い。これは現場に行かねば!と私は大阪府箕面市にある「みのおキューズモール」へと名古屋から向かった。
きっかけは新商品「女王のミルク」の夢を叶えるキャンペーン
今回のトークゲストは、みのおキューズモールの総支配人・志村敦史さんと、箕面自由学園の学園長であり、中学高等学校長でもある田中良樹さん。
大型ショッピングモールの支配人と校長先生。どんな繋がりが?
きっかけは、春日井製菓が2021年の秋に発売したキャンディ「女王のミルク」にちなんで行った「#たった一度でいいから~叶えたい夢キャンペーン」だった。
応募の中から選ばれたのが、「演奏する機会がなくなってしまった箕面自由学園高校の吹奏楽部の生徒たちの、演奏会を開きたい!という夢を叶えてほしい」というもの。
この演奏会の会場となったのがみのおキューズモールで、志村総支配人と田中校長先生と、そして春日井製菓とのご縁が始まったというわけだ。
2021年10月に開催された青空の下での演奏会は大盛況!みのおキューズモールにとっても、箕面自由学園高校にとっても、その後の「経営」や「教育」についての方向性に大きな影響を与えることになったのでは?そして経営も教育も変化を余儀なくされている今、現場の最前線にいるお二人が何を想い、何を実現させようとしているのか?
好奇心旺盛で情熱的なマスター豆彦さんが、なぜ大阪でスナックかすがいを開催したかったのか、コトンと腑に落ちた。
撤退するテナントと減り続ける来客で発想を大転換
みのおキューズモール内の会議室の一室を借りての「スナックかすがい」。恒例のカンパ〜イ!からスタート。
田中校長は校長室で濃いめの烏龍茶。会場の志村さんとマスター豆彦さんは、熊本の高橋酒造様提供の米焼酎「KAORU」で。画面の向こうのゲストは、各々お好きなドリンクで。
まずは志村さんのご紹介から。
東京に本社を構える東急のグループ会社が運営する、みのおキューズモール。副支配人の志村さんはゴリゴリの関西人で、この日のネクタイもなかなか派手。これがまた似合ってしまうのが関西人!
志村さんが、東急不動産SCマネジメントに中途入社したのが2011年。2018年からみのおキューズモールの担当になる。
実際2015年に、日本最大級の大型複合施設「エキスポシティ」が車で20分のところに登場し、みのおキューズモールの多くのテナントが撤退した。来客数が減り続ける現実を突きつけられた志村さん。ここで発想を大転換する。
この考え方から生まれたのが「To-gather」というキーワード。
キャッチフレーズは「地域のために、地域とともに」だ。7つのテーマを掲げ、ギャザリング=交流する場を生み出すことを目指した。
この活動を始めて軌道に乗ってきた頃、コロナ禍による先が見えない世の中となる。
確かに打撃はあったものの、地域に溶け込む取り組みを、コロナ前から地道に行っていたことにより、売上の落ち幅は少なかった。地域の人たちに愛される施設になっていた。
志村さん:なかなか思うように外に出かけられない中、買い物には行かなければならない。その時に、「みのおキューズモールがあってよかった」と言われたときは嬉しかったです。やろうとしていた方向性は間違っていなかったんだと思いました。
ここで、田中校長が鋭い質問を投げかけた。
この演奏会で田中校長は、偶然にも懐かしい人と再会する。中学の同級生だ。中学卒業以来の再会で、友人から声をかけてくれたと。また、この演奏会を聞いて、箕面自由学園でみんなと一緒に演奏したいと入学してきた1年生がいたこともにも心が震えたと。
まさに志村さんがいう、「偶然が見つけられる場」になっていた。
偶然にも箕面自由学園の生徒さんとかすがう
ここで毎度おなじみの「かすがいタイム」。4人1組になり、自己紹介や来店の目的などを語り合う、ゲスト同士の10分間のフリートーキングタイムだ。
オンラインならではの便利な機能を使い、ランダムに4人グループが作られ、私のグループは、偶然にも箕面自由学園高校吹奏楽部のメンバーが3人!彼らから生の声を聞くことができた。
校長先生が出演するからと、吹奏楽部員がほぼ全員が「スナックかすがい」を視聴していたそう。残念ながら3人からの話をサラリと聞いただけでかすがいタイムは終わってしまったが、演奏を聞いて入学した1年生。引退して観客として楽しんだ3年生。そして部の中心的なメンバーである2年生が、あのステージをどう作り上げたのか。それぞれの立場からの話を聞くことができて、より立体的にキューズモールでの演奏会の魅力を感じることができた。
こういう生徒たちに囲まれて生きたい!
続いて田中校長のご紹介を。
大阪桐蔭高校で14年間、その後近畿大学附属高校で11年間、社会科の教員として教壇に立つ。2014年に箕面自由学園の副校長となり、翌年校長に就任。
箕面自由学園の校長として来てくれと言われ、一度は断ろうと思ったという田中校長。しかし周囲からは、せっかく声をかけてもらったんだから一度やってみたら?と言われる。悩んでいる時に出かけたのが、吹奏楽部の卒業コンサートだった。感動して涙が止まらなかったという田中校長は、こういう学校でこういう生徒に囲まれて生きていきたいと心を決める。
田中先生が校長として一歩を踏み出す。
その時に決めたことは、「校長先生の固定概念を振り払う」ことだった。校長はどうあるべきかなんて誰も教えてくれない。とにかく子どもたちがこの学校で学んでよかったと思えるような学校づくりをするために、校長として何をやればいいのかだけを考えた。
96年という歴史を持ち、地元で愛され続け、明るくいい学校だ。
そんな自分の学校にプライドを持って卒業してほしい。その想いでさまざまなアクションを起こしていく。
コロナ禍でのスタンスも一貫している。確かに生徒たちに我慢を強いらなければならない日々もあった。が、その中でも精一杯楽しむ努力をしようと、前向きに運営してきた田中校長。まずは学校を止めない。学校を休校にしても、子どもたちには行くところがない。学校にいる方が安心だ。学級閉鎖で対応し、学校全体は止めていない。
そして、新入生に向けてはこんな学校生活を送ってほしいと、校長が自ら熱く語る。1年生は全19クラスで756人。年に2回で合計38回。全員の感想文にコメントを書いて返しているという。その情熱には驚くばかりだ。
私自身も、私の子どもたちの学校もそうだが、校長先生の記憶などまるでない。名前はもちろん、誰一人顔も思い浮かばない。校長先生の存在感なんてそんなものだと思っていた。
「こういう学校で学びたかった!」というコメントがオンラインのチャット画面に書き込まれた。同感だ。こういう学校で学びたかったし、子どもたちを学ばせたかった。
大事なことは、本気になる!とことん楽しむ!
いよいよ今回のスナックかすがいも終盤に。ここでマスター豆彦さんからお二人にあらためて質問が投げかけられた。
「少子高齢化という流れの中で、集客に悩むという点で、お二人ともよく似たシチュエーションだと思うんです。ショッピングモールも学校も選ばれなければならないという時代で、大事にしていることは何ですか?」
ショッピングモールの屋外ステージで繋がった今回の二人のゲスト。
どんな困難にぶつかろうとも、世の中がどんなに大きく変わろうとも、決して後ろを振り返らず、前だけを真っ直ぐ見つめて、一歩一歩確実に歩いている。
固定概念に縛られることなく、揺らぐことのない確固たる信念を持って。
そしていつも笑いながら…。
そんなお二人が作り上げたステージだからこそ、その舞台に上がるお客さんや生徒さんたちは、心の底から楽しいと思える時間を過ごすことができているんだと教えてもらいました。
人生100年時代。実は思っているほど長い時間ではないのかもしれません。
できないことを時代や世の中のせいにするのではなく、今しかできないことはやらなくては!そう背中を押してもらったような気がします。
「演奏会を開きたい!」実は私も同じ夢を持っています。そろそろ本気で再開!こっそりここで宣言を……。
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この体験記を書いてくださった人
この体験記の写真を撮ってくださった人