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スナックかすがい第22夜「地域を沸かす舞台監督〜人を惹きつけるモールと学校の作り方~」体験記

Text by 真下 智子|Satoko Mashimo
Photo by 野村 優 | Yu Nomura

関西初進出&初リモートで配信!

 グリーン豆が食べ放題!ビールが飲み放題!で2時間1000円ポッキリ!
こんな超太っ腹な世にも珍しいスナック。その名も「スナックかすがい」。
このスナックでは、マスターが毎回2人の個性的なトークゲストを迎え、ここだけでしか聞けない、あんな話やこんな話を実に巧妙に引き出してくれる。観客はその話をグラス片手に、豆を頬張りながら楽しむという、ちょっとイカした大人が集う、粋な社交場だ。

この「スナックかすがい」を主催するのが、春日井製菓。
店名の“かすがい”は、もちろん春日井製菓の“かすがい”でもあるが、もう一つ重要な意味がある。
「鎹」(かすがい)=二つの材木を繋ぎ合わせるためのコの字の釘のことで、人と人、物と物、想いと想いを繋ぎ合わせる、という意味も込められている。さらに繋ぎ合わせることで「成果」(製菓)を作っていく。
それこそが春日井製菓の「スナックかすがい」なのだ。

早いもので開店から5年目を迎え、来店したトークゲストは延べ42人。
東京からスタートし、その人気ぶりから名古屋へも進出。毎回100人ほどの観客が飲みながら、つまみながら、見知らぬ者同士で笑い合う。常連客が新規客を誘い、その連鎖で会を重ねるごとに来客数は増えていった。

2019年12月開催の乾杯シーン!


しかし、一昨年の春から世の中が激変。大勢で集うことが難しくなり、臨時休業やむなしか……とマスターの豆彦さんもどこか元気がなかった。そんな時、常連さんからの「ぜひ開店してほしい!」という熱い声に背中を押され、マスター豆彦さんが持ち前の企画力と行動力で継続が決定。
2020年4月には、スナックでトークを繰り広げるゲストとお客さんを、初めてオンラインで繋いだ。画面越しではあるが、ビール片手に豆をポリポリというスタイルは変わらず。新しい時代にマッチした形での「かすがう」場が生まれたのだった。
 

2020年4月。初めてのオンライン配信で開催

その後、オンラインで4度開店。以前は会場に満席で入れなかった観客も、オンラインなら人数制限なし!しかも家族で視聴できるという楽しさも新たに加わった。人数だけでなく、年齢層の幅も大きく広がっている。個人的にもこれから世の中に羽ばたいていく若者たちにこそ、ゲストの生き方や想いに触れてほしいと密かに思っていただけに嬉しい限り。
家族で楽しめる「スナックかすがい」。
いいじゃないいいじゃない。家族で「スナックかすがい」。
 
確かにライブの温度感を肌で感じることはできないが、鋭く斬り込むマスター豆彦さんと、ついつい本音をポロリと話してしまうゲストが掛け合うことで生まれる、予測不能、奇想天外な脚本のないストーリーに、画面を通してグイグイと惹きつけられる。
 
そして今回、第22夜にして、ついにトークの本場、関西に初進出!
しかも初めてゲストをリモートで繋いで、オンラインで配信。さらにリモートで繋ぐ先は校長室?そう、校長先生がスナックに初登場するというのだ。
いつものことながら、マスター豆彦さんの発想は、想像を遥かに超えていく。そんなマスター豆彦さんに振り回される(笑)のも、もはや心地良い。これは現場に行かねば!と私は大阪府箕面市にある「みのおキューズモール」へと名古屋から向かった。 

きっかけは新商品「女王のミルク」の夢を叶えるキャンペーン

 
今回のトークゲストは、みのおキューズモールの総支配人・志村敦史さんと、箕面自由学園の学園長であり、中学高等学校長でもある田中良樹さん。
大型ショッピングモールの支配人と校長先生。どんな繋がりが?
 
きっかけは、春日井製菓が2021年の秋に発売したキャンディ「女王のミルク」にちなんで行った「#たった一度でいいから~叶えたい夢キャンペーン」だった。
応募の中から選ばれたのが、「演奏する機会がなくなってしまった箕面自由学園高校の吹奏楽部の生徒たちの、演奏会を開きたい!という夢を叶えてほしい」というもの。
この演奏会の会場となったのがみのおキューズモールで、志村総支配人と田中校長先生と、そして春日井製菓とのご縁が始まったというわけだ。
 
2021年10月に開催された青空の下での演奏会は大盛況!みのおキューズモールにとっても、箕面自由学園高校にとっても、その後の「経営」や「教育」についての方向性に大きな影響を与えることになったのでは?そして経営も教育も変化を余儀なくされている今、現場の最前線にいるお二人が何を想い、何を実現させようとしているのか?

好奇心旺盛で情熱的なマスター豆彦さんが、なぜ大阪でスナックかすがいを開催したかったのか、コトンと腑に落ちた。 



撤退するテナントと減り続ける来客で発想を大転換
 

みのおキューズモール内の会議室の一室を借りての「スナックかすがい」。恒例のカンパ〜イ!からスタート。

田中校長は校長室で濃いめの烏龍茶。会場の志村さんとマスター豆彦さんは、熊本の高橋酒造様提供の米焼酎「KAORU」で。画面の向こうのゲストは、各々お好きなドリンクで。
 
まずは志村さんのご紹介から。

 東京に本社を構える東急のグループ会社が運営する、みのおキューズモール。副支配人の志村さんはゴリゴリの関西人で、この日のネクタイもなかなか派手。これがまた似合ってしまうのが関西人!

志村さん:これは勝負ネクタイです。キューズモールは4カ所あるんですが、それぞれのキャラクターがプリントされているネクタイで、男性社員は全員持っているんです。 

志村さんが、東急不動産SCマネジメントに中途入社したのが2011年。2018年からみのおキューズモールの担当になる。
 

志村さん:元々2003年に開業した「箕面マーケットパーク ヴィソラ」が前身で、農地だったところに作られました。当時は商業施設の急増期。ただ、大きな箱があちこちにできても少子高齢化は確実に進んでいます。
現在、3000近い商業施設が、今後20年でおよそ半分になってしまうというデータもあるそうです。来客数が減れば、当然事業としては成り立ちません。会社全体としての危機意識がどんどん高まっていました。

実際2015年に、日本最大級の大型複合施設「エキスポシティ」が車で20分のところに登場し、みのおキューズモールの多くのテナントが撤退した。来客数が減り続ける現実を突きつけられた志村さん。ここで発想を大転換する。 

志村さん:人が増えないなら、何度も来てもらう施設になればいい。施設のファンになってもらえたら、足繁く来てもらえるのではと考えました。食事もできて、買い物もできて、壊れたものを修理できるといった生活の困り事も解決できる。それが全部叶えられたら、何度も来てくれます。それが商業施設の魅力です。
ただ、我々だけでそれを実現させることはできません。テナントがあるからこそ成立することです。しかしテナントもどの商業施設に出店するか、選ぶ時代になりました。加えて通販もあります。リアル店舗はゼロにはならなくても、どこかに1つか2つあればいい。このショッピングセンターなら出店したい!そう思ってもらえる存在にならなくてはいけないんです。 

マスター豆彦:商業施設のファンになるとは?
 
志村さん:テナントにもファンになってもらわないといけないですし、もちろんお客様にも。実は夢がありまして。このショッピングモールで子どもの時に過ごした人が、20年後に自分の子どもと一緒にまた訪れて、ここでこんな趣味を見つけて、こんなに楽しい時間を過ごしていたんだよ!と語り継いでもらいたいんです。
 
マスター豆彦:特定のテナントではなくて、みのおキューズモールでってことですかね? 

志村さん:そうです。ほしい商品が見つかって、食べたい料理が食べられる。そこにプラスα何か出会いがある。例えば自分の新しい趣味を見つけるとか。
箕面自由学園高校の吹奏楽部の皆さんに演奏してもらいましたが、普段はコンサートホールで演奏しますから、興味のある人だけが聞きに来るわけです。しかし、こういうショッピングモールの屋外なら、ふらっと買い物に来た人が音楽を聞けるわけです。昔サックスをやっていたおじいさんが、久々に生の演奏を聞いてまたサックスをやってみよう!ということだってあるわけです。それだけではなくて、この演奏を聞いて、箕面自由学園に行きたいと思う学生さんも出てくるかもしれません。そういう何か偶然を見つけられる場所にしたいんです。

新しい何かを見つけて、人が集まってコミュニティができて繋がっていく。知らなかった人同士が友達になる。そんなきっかけを作る場所にしたいんです。
 
マスター豆彦:志村さんたちは、言ってみれば施設の大家さんで、テナントから家賃をもらって運営されるわけですよね。商圏のメリットを考え、延べ床面積で競い、人気テナントを呼ぶ。そんな商売だと思っていたんですが。
 
志村さん:いいテナントが入っているからいい商業施設なのか、いい商業施設だからテナントが集まってくるのか、そうじゃないと思うんです。確かに今までは人気のテナントを入れることが重要だったときもありました。ただ、もう家賃が安いとか場所がいいだけではテナントも来てくれない時代になっています。テナントが出たい!と思える施設にしないといけないんです。それは場所や大きさではないんです。大幅なシフトチェンジが求められているんです。 

この考え方から生まれたのが「To-gather」というキーワード。
キャッチフレーズは「地域のために、地域とともに」だ。7つのテーマを掲げ、ギャザリング=交流する場を生み出すことを目指した。

志村さん:ただ、商業施設の一不動産会社が、さあ!企画を立ててやりましょう!と言ったところで結局は素人なわけです。そこで地域で活動されている人たちと一緒に、この場所を使ってもらったら、この考え方も広がっていきますよね。無料で場所を使ってもらうこともありますが、無料だからどうぞ!だけではダメなんです。「To-gather」、つまり私たちも一緒にやります。ここが大切なんです。

この活動を始めて軌道に乗ってきた頃、コロナ禍による先が見えない世の中となる。
確かに打撃はあったものの、地域に溶け込む取り組みを、コロナ前から地道に行っていたことにより、売上の落ち幅は少なかった。地域の人たちに愛される施設になっていた。
 
志村さん:なかなか思うように外に出かけられない中、買い物には行かなければならない。その時に、「みのおキューズモールがあってよかった」と言われたときは嬉しかったです。やろうとしていた方向性は間違っていなかったんだと思いました。
 
ここで、田中校長が鋭い質問を投げかけた。 

田中さん:コロナになって物販のスタイルが変わってきていますよね。通販は本当に便利。わざわざ買いに行かなくてもいいですし。これに立ち向かっていこうと思ったら、キューズモールも大変なのでは?どう戦っていくつもりですか?
 
志村さん:ライバル視はしていません。緊急事態宣言が出たとき、モールを閉めました。その間、通販が普及したことは間違いありません。もし本当に通販だけでやっていけるのであれば、そのままお客さんは戻ってこないはず。しかし宣言が明けて再開したとき、多くの人が来店してくれました。実際にものを見て買うという買い物文化はなくならないと思うんです。
 
田中さん:学校も似たところがあるなとお話を聞いていました。通信制の学校が増えています。学校も毎日顔を見て、触れ合うというのが大事ですが、一方では単位を取るためだけの別の形もあるわけです。ただでさえ少子化ですから、学校運営も厳しくなっていくことは明らかです。
みのおキューズモールはいいところに目をつけていると思いますね。
何と言ってもキューズモールは空が広い!梅田や難波では空が広いと感じることはありません。緑があって、空があって、そして我が校の生徒たちの音楽が聞こえて、カフェでお茶をする。最高です。命の洗濯ができると思います。
春日井製菓さんのイベントの時の動画も、空のブルーも最高ですよ。 

この演奏会で田中校長は、偶然にも懐かしい人と再会する。中学の同級生だ。中学卒業以来の再会で、友人から声をかけてくれたと。また、この演奏会を聞いて、箕面自由学園でみんなと一緒に演奏したいと入学してきた1年生がいたこともにも心が震えたと。
まさに志村さんがいう、「偶然が見つけられる場」になっていた。
 

志村さん:社風はチャレンジ&トライ。どんどんやってみろ!なんです。そんな中で考えたギャザリングの7つの重点テーマ。興味は人によって違います。社員がそれぞれ興味のある分野で取り組むことで、伸び伸び仕事ができますしイキイキと働けます。そこからお客さんとの対話も生まれ、盛り上がっていく。それがキューズモールの魅力になっていると思っているんです。

偶然にも箕面自由学園の生徒さんとかすがう

ここで毎度おなじみの「かすがいタイム」。4人1組になり、自己紹介や来店の目的などを語り合う、ゲスト同士の10分間のフリートーキングタイムだ。
オンラインならではの便利な機能を使い、ランダムに4人グループが作られ、私のグループは、偶然にも箕面自由学園高校吹奏楽部のメンバーが3人!彼らから生の声を聞くことができた。

Aさん:尼崎のホールで初めて箕面自由学園の吹奏楽を聞いたんです。とにかくカッコよくて!それで入学したんですけど、コロナと同時に高校生活がスタート。イベントが全部なくなってしまった時に、キューズモールでの演奏会に出られることになりました。初めての演奏がキューズモールのステージだったんです。本当にやらせてもらえて嬉しかったです。
春日井製菓さんはキシリクリスタルを作っている会社だとは知っていたんですけど、今回「女王のミルク」のご縁だったので、お店で見つけたら絶対に買っちゃいます。なんか自分のお菓子のような気がしていて。吹奏楽部員はみんな女王のミルクが大好きです。
 
Bさん:3年生です。昨年の2月に吹奏楽部を引退。この春から大学に進学します。あのみのおキューズモールでの演奏会はとても印象に残っています。コロナで演奏会がずっとなかったので。初めて演奏する側ではなくて、聞く側として参加しました。正直コンサートホールの方が音響は良いのですが、偶然通りがかった人も聞いてくれたというのが一番嬉しかったです。すぐそばのお客さんから「この曲は何?」と聞かれて、そこから会話が始まったり、お客さんがどんな風に楽しんでいるか肌で感じることができました。
 
Cさん:実際にあのステージに立って演奏しました。ホールと違って360度お客さんがいるわけです。最初は前列のお客さんにしかパフォーマンスができなかったのですが、途中から後ろを向いたり、新しい演奏スタイルも取り入れるなど、みんなで工夫しました。
曲も幅広い年代のお客さんが楽しめるように、演歌や流行の曲を演奏するなど、これを機にレパートリーもめっちゃ増えました。現在部員は112名。練習したものを発表できる機会があるとやはり張り合いがありますし、練習も楽しいです。こうした活動の味方になってくれているのは?校長先生ですよ!

校長先生が出演するからと、吹奏楽部員がほぼ全員が「スナックかすがい」を視聴していたそう。残念ながら3人からの話をサラリと聞いただけでかすがいタイムは終わってしまったが、演奏を聞いて入学した1年生。引退して観客として楽しんだ3年生。そして部の中心的なメンバーである2年生が、あのステージをどう作り上げたのか。それぞれの立場からの話を聞くことができて、より立体的にキューズモールでの演奏会の魅力を感じることができた。

こういう生徒たちに囲まれて生きたい!


続いて田中校長のご紹介を。

大阪桐蔭高校で14年間、その後近畿大学附属高校で11年間、社会科の教員として教壇に立つ。2014年に箕面自由学園の副校長となり、翌年校長に就任。

田中校長:大阪桐蔭高校は進学校です。大学進学のための教育に携わっていましたが、自分の子どもが生まれてから何か違うなと思い始めました。次は受験とはまったく違う高校へ行き、野球部の部長を務めました。甲子園を目指していましたが夢は叶わず、そこから縁あって箕面自由学園に来ました。25年の教員生活を送ってきましたが、自分の子どもを行かせたいと思う学校を自分で作ろうと思ったんです。 

箕面自由学園の校長として来てくれと言われ、一度は断ろうと思ったという田中校長。しかし周囲からは、せっかく声をかけてもらったんだから一度やってみたら?と言われる。悩んでいる時に出かけたのが、吹奏楽部の卒業コンサートだった。感動して涙が止まらなかったという田中校長は、こういう学校でこういう生徒に囲まれて生きていきたいと心を決める。

マスター豆彦:これまでずっと子どもたちと向き合ってきた人が、なぜ今さら涙を流したんですか?
 
田中校長:人に感動を与えたいと思って演奏しているわけではないんです。自分たちが楽しんでいる。その結果として人を楽しませている。賞を取りたいとかそんな思いはないんです。無欲でただ人を楽しませることだけを考えている。それが心を打つんです。 

田中先生が校長として一歩を踏み出す。
その時に決めたことは、「校長先生の固定概念を振り払う」ことだった。校長はどうあるべきかなんて誰も教えてくれない。とにかく子どもたちがこの学校で学んでよかったと思えるような学校づくりをするために、校長として何をやればいいのかだけを考えた。
96年という歴史を持ち、地元で愛され続け、明るくいい学校だ。
そんな自分の学校にプライドを持って卒業してほしい。その想いでさまざまなアクションを起こしていく。

田中校長:学校を朝7時から19時まで開けています。人生たかだか100年です。楽しむときは思い切り楽しむ。高校生活にどっぷり浸かる。一人で家にいてはできないことも、みんなで一緒にやったら楽しいやん!そんな想いから、学校を思い切り利用してほしいんです。朝7時から9時までは、部活をやってもいい、自習をしてもいい、友達と語らってもいい。とにかく学校で活動しよう!言っています。授業が終わってからも、さっさと帰宅するのではなく、部活をやっても勉強をやっても何をやってもいい。閉門まで学校で楽しんでもらっています。 

マスター豆彦:ただ、学校が楽しくなくて行きたくないって生徒も多いと思うんです。そもそも楽しくなければ学校にはいませんし。開門時間を変えただけで、そんなに変わりますか? 

田中校長:1年生は年に2回、全クラスを回って、私が学校をどうしていきたいかを直接伝えています。それに対して、子どもたちには感想文を書いてもらって、私なりに答えを書いて返しています。もちろん担任にもやってもらっていますが、私がやることで学校に親近感を持ってもらえると嬉しいと思っています。正直、私立なので公立高校を不合格になって入学してくる生徒もいます。最初はネガティブになっていても、卒業するまでにはこの学校に来てよかったと言ってもらって卒業してほしいんです。

コロナ禍でのスタンスも一貫している。確かに生徒たちに我慢を強いらなければならない日々もあった。が、その中でも精一杯楽しむ努力をしようと、前向きに運営してきた田中校長。まずは学校を止めない。学校を休校にしても、子どもたちには行くところがない。学校にいる方が安心だ。学級閉鎖で対応し、学校全体は止めていない。
そして、新入生に向けてはこんな学校生活を送ってほしいと、校長が自ら熱く語る。1年生は全19クラスで756人。年に2回で合計38回。全員の感想文にコメントを書いて返しているという。その情熱には驚くばかりだ。
私自身も、私の子どもたちの学校もそうだが、校長先生の記憶などまるでない。名前はもちろん、誰一人顔も思い浮かばない。校長先生の存在感なんてそんなものだと思っていた。
 
「こういう学校で学びたかった!」というコメントがオンラインのチャット画面に書き込まれた。同感だ。こういう学校で学びたかったし、子どもたちを学ばせたかった。 

志村さん:そんなことをやっているとは初めて聞きました。他の学校を訪問することもありますが、誰も挨拶をしない。箕面自由学園に行くと、なんですかね。みんなピュアに挨拶してくれるんです。本当に気持ちがいい。こういう子どもになってほしいと思っていたので、なぜか伺いたかったんです。校長自ら講和をされているから、その想いは生徒たちにも先生たちにも伝わっているんでしょうね。
 
田中校長:そんなに大変なことじゃないんですよ。校長は授業をやりませんからね(笑)。
しっかりと伝えると、子どもたちも共感してくれます。人生100年なんだから、精一杯生きていこうよと。挨拶だってただすればいいのではなく、相手の目を見て挨拶をしようと伝えています。義務で挨拶されても誰も嬉しくないですからね。目に力を入れて、今日も頑張るぞ!と思ってもらいたい。もちろん我々教師もそういう想いで子どもたちと接しています。
今日は2年生に話をする機会があったのですが、3年生になると、新入生が入ってくるわけです。みんなの学校を作っていってほしいと伝えました。
 
志村さん:生徒たちが校長先生!と大きな声で呼んでいました。なかなか見ない光景です。距離が近ければ、想いも伝わるんだと思いました。
 
田中校長:それが日常の風景です。校長だからとお高く止まっているのは寂しいですよね。子どもの声を直接聞くのが一番!自分の学校の生徒たちと過ごす時間は最高に素晴らしい時間です。早く学校に行って、子どもたちとおしゃべりしたいと思うんです。 

大事なことは、本気になる!とことん楽しむ!

 
いよいよ今回のスナックかすがいも終盤に。ここでマスター豆彦さんからお二人にあらためて質問が投げかけられた。
 
「少子高齢化という流れの中で、集客に悩むという点で、お二人ともよく似たシチュエーションだと思うんです。ショッピングモールも学校も選ばれなければならないという時代で、大事にしていることは何ですか?」 

田中校長:自分が本気になること!自分が本気にならなければ人はついてきません。一人でできることなんてたかが知れています。先生たちについてきてもらわないと。そのためには自分が本気にならないとダメなんです。
 
マスター豆彦:本気とは?
 
田中校長24時間考え続けること。答えはないんです。学校を有名にして生徒を集めたいとか、チアや吹奏楽を使って生徒を呼びたいとか、そんなことは思ったことは一度もありません。この学校に来たいと思ってもらう学校にするためにはどうすれば良いかを考え続けています。それを先生にも生徒にも伝えていく。私がぶれてしまったら組織全体がぶれることになりますから。私自身の答えを探しながら、体現していく。それしかないんです。
 
志村さん:私が大事にしていることは、すべてにおいて楽しむことです。自分が楽しくなければ、楽しさは誰にも伝わらない。楽しい中には当然苦しみも悲しみもありますが、その先の楽しみを目指して動く。それが大事だと思っています。
 
マスター豆彦:テナントがどんどん退去してしまって、楽しめない状況になっちゃいましたよね?

志村さん:だからこそやってやろう!見返してやろう!とより強く思いました。発想を強引に切り替えて、苦しかったけどこれを乗り越えたらかっこいいんちゃう?楽しい未来が見えるんちゃう?とポジティブ思考で取り組んでいきたいと思っています。 

田中さん:似ていますね。先に生きている者として、後からくる人間には、時間がこんなに大事だということを伝えることができます。砂時計の砂が落ちるとき、最初はゆっくり感じますけど、最後は早く感じますよね。実は同じスピードで砂は落ちているんです。時間の流れも同じ。若い時の時間を大事にしてほしい。今しかできないことにたっぷりと時間を使ってほしい。そう子どもたちには話しています。

 
ショッピングモールの屋外ステージで繋がった今回の二人のゲスト。
どんな困難にぶつかろうとも、世の中がどんなに大きく変わろうとも、決して後ろを振り返らず、前だけを真っ直ぐ見つめて、一歩一歩確実に歩いている。
固定概念に縛られることなく、揺らぐことのない確固たる信念を持って。
そしていつも笑いながら…。
そんなお二人が作り上げたステージだからこそ、その舞台に上がるお客さんや生徒さんたちは、心の底から楽しいと思える時間を過ごすことができているんだと教えてもらいました。
 
人生100年時代。実は思っているほど長い時間ではないのかもしれません。
できないことを時代や世の中のせいにするのではなく、今しかできないことはやらなくては!そう背中を押してもらったような気がします。
 
「演奏会を開きたい!」実は私も同じ夢を持っています。そろそろ本気で再開!こっそりここで宣言を……。

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この体験記を書いてくださった人

真下 智子さん|Mrs. Satoko Mashimo
フリー編集者・ライター。同志社大学社会学科新聞学専攻卒業。
食品メーカーの社員として、社内報を担当したことからライター業へ。ブライダル、旅行、企業広報誌と紙媒体からウエブまで、幅広い媒体に執筆。心の声を聞き出すインタビューをモットーに、これまで300人以上の人にインタビューを行ってきた。あんこと温泉をこよなく愛する、二児の母。温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。
satchy@sc.dcns.ne.jp

この体験記の写真を撮ってくださった人

野村 優さん NOMY|Mr. Yu Nomura
昭和54年生まれ。岐阜県出身。人物、商品、建築、料理、映像などを撮影するプロカメラマン。大学でグラフィックデザインを学んだのち、レコード製作/販売会社、オンライン音楽配信会社、ECサイト運営会社を経て独立。野村優写真事務所を開設。2014年7月、「さぁ、みんなでカメラ楽しもう!」をテーマに「撮れる。魅せる。伝わる。カメラ講座」開始。岐阜、名古屋、東京、大阪、神戸ほか全国に展開中。
趣味は、ジャズのレコード収集、DJ、ハーブを使った料理、もうすぐ7歳の息子とカメラ散歩。
素敵、かっこいい、面白い。そう思った時がシャッターチャンス。
その気持ちが写真に写り込むように。
https://yunomura.net

好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場、それが「スナックかすがい」です。いっしょに乾杯しましょう!