東京医科歯科大学 川渕孝一教授に学ぶ 医療経済学入門(コロナ後の医療経済と日本)
2020年以降、社会を襲ったコロナ禍によって、医療を取り巻く社会システムに注目が集まっています。
そこで、東京医科歯科大学教授の川渕孝一先生の最新の著書をもとに、医療経済を学びたいと思います。
1.早速購入!
早速、大学生協の売店で購入しました。
『コロナ後の医療経済と日本-“40年の徒労と挫折”から占うヘルスケアの未来像』川渕孝一(2021年4月、薬事日報社)
ど素人の私がどこまで理解できるかわかりませんが、学生になった気持ちで読んでいきたいと思います。
2.なぜ川渕先生は、ハイパーインフレを一番懸念しているのか?
読み始めてすぐ、つまづきポイントがありました。
少し長いですが、第1章(p12-13)の記載を引用します。
特に今回の新型コロナ対策でわが国の借金はますます膨らんだ。経済協力開発機構(OECD)はこの点に注目して21年の日本の経済成長率は1.5%と予測。当初わが国だけ唯一▲0.5%だったが、修正後も中国8.0%、欧州5.1%、米国4.0%と比べて著しく低い。中国は何と21年の世界の経済成長の3分の1を担う。一番懸念されるのはハイパーインフレ。諸君らは経済学部の学生ではないので聞き慣れないと思うが、これは、物価水準が月ごとに1.5倍となり、それが毎年続くような事態だ。3年続けば物価は200万倍以上となる。1個100円のパンが3年すると2億円になっているイメージ。以前、JICA(独立行政法人国際協力機構)で訪問したチャウシェスク独裁政権後のルーマニアがそうだった。夫婦で贅沢三昧した挙句、崩壊したが、同国ではお金はただの紙っぺら。皆、現物に走った。病院も然り。日本から中古のMRIやCTスキャンの寄付を打診された。望むらくは、シーメンス社。医療機器はよく故障するのでメンテナンスに長けたドイツ製がベストだという。地理的にも近い。一番驚いたのは古めかしい医療機器が夜中も含めて年中無休で静かに稼働していたこと。貧すれば鈍する。やがて日本もこうなるのだろうか。「小さな政府」か「大きな政府」か国民一人ひとりが真剣に考え、一定の選択をしなければならない時代がやってきたと言える。
(『コロナ後の医療経済と日本』p12-13より)
正直、めちゃくちゃ難しいです。
なぜ川渕先生は、ハイパーインフレを一番懸念しているのでしょうか?
3.日本のインフレ率の推移
ここで、ハイパーインフレの定義を確認します。
【ハイパーインフレ】
経済学者フィリップ・ケーガンPhillip D. Cagan(1927―2012)による定義:「インフレ率が毎月50%を超えること」
国際会計基準の定義:「3年間で累積100%以上の物価上昇」
川渕先生は前者の定義を採用しているようです。
それをふまえて日本のインフレ率の推移を見てみましょう。
(『世界経済のネタ帳』より)
ちなみに、インフレ率というのは2〜4%ほどで維持されるのが正常の状態です。これは「マイルドなインフレ」と表現されます。
実際、政府・日銀のインフレ目標は2%となっています。
日本のインフレ率の推移を見てみると、ここ25年ほどはほとんど0%台で推移しているのがわかります。
年によってはマイナスとなっています。
これらは、正常な状態の「マイルドなインフレ」に至っておらず、「ディスインフレ」または「デフレ」と表現されます。
ここで初めの疑問に戻ります。
川渕先生がハイパーインフレを懸念しているのはなぜか?
素人目には、日本のこのグラフでインフレ率が「3年で累積100%」の急上昇を示したり、ましてや「毎月の50%」のスピードで跳ね上がるとは、とても思えません。
川渕先生は医療経済の専門家として、職人の目でグラフのコンマ数ミリの変化を捉え、ハイパーインフレの兆候を読み取っているのかもしれません。
我々素人にはそんなことは不可能なので、あくまで論理的に理解していきましょう。
4.ハイパーインフレが起こる条件とは?
経済産業省の官僚であり、元京都大学准教授の中野剛志先生の解説に照らしながら見ていきます。
どんな時にハイパーインフレが起きるか、その条件は以下です。
①財政赤字が拡大すること
②高インフレになっても中央銀行(日銀)が金融引き締め政策を行わないこと
③高インフレになっても歳出削減や増税を行わないこと(=国会が予算や税制を決める「財政民主主義」が機能していないこと)
ハイパーインフレが起こるためには、これら3つの条件が全てそろう必要があります。
①は普通に起こりそうです。
不況の時、デフレ・ディスインフレの時は財政赤字を拡大させて、政府支出を増やすことがスタンダードな経済・財政政策です。
難しいのが②と③です。
②は、日銀が機能停止でもしていない限り、「高インフレになっても金融引き締めを行わない」なんてことはないでしょう。
③も、国会が完全閉鎖でもしてなければ起こらないでしょう。
というか、日本の場合、これまでデフレ・ディスインフレであっても歳出削減や増税を行なってきた、歳出削減・増税の得意な国です。
日本が全く別の国にでもならない限り、③は起こり得ないでしょう。
ということは、どう頑張っても(?)この日本ではハイパーインフレは起こらなそうです。
しかし、上記の条件を満たさなくても、例外的にハイパーインフレが起こる場合があります。
A. 戦争・内戦・革命による破壊のせいで供給力が極端に失われた場合(例: 第一次世界大戦後のドイツ)
B. 独裁政権の下で狂った経済政策が行われた場合
C. 旧社会主義国が市場経済へと移行する過程で混乱が生じた場合(例: 1990年代の旧ソ連諸国)
この中に現代日本に当てはまるものはあるでしょうか?
日本で近い将来、戦争・内戦・革命が起こるとは思えませんし、クーデターなどが起こって独裁政権になるとも思えません。
川渕先生もそんな風には思ってないでしょう。
ということは、A、Bはありえません。
また、日本は社会主義国ではありませんから、Cもありえません。
5.医療経済学のハードル
ということは、ますます謎は深まるばかりです。
論理的に考えて、現代日本でハイパーインフレはまず起こり得ない。
なのになぜ川渕先生はハイパーインフレを一番懸念しているのでしょうか?
ここが非常に難しいポイントで、なかなか理解ができません。
医療経済を学ぶと意気込んでみたものの、第1章の最初でつまずいてしまい、医療経済学のハードルの高さを思い知らされました。
医療経済の基本の基も理解することができず、お恥ずかしい限りです。
医療経済にお詳しい方、ぜひ教えてください(泣)
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