藤原慎也、日本人で二人目のカールズダイナー通過! エルズベルグロデオ2024
「世界一難しいハードエンデューロ」として知られるエルズベルグロデオに、藤原慎也が3度目の挑戦。見事チェックポイント14まで進み、決勝参戦500台中62位のリザルトを残しました
What’s Erzbergrodeo?
オーストリアのアイゼンナーツという街にある鉱山でおこなわれるハードエンデューロ。世界で最も難しいエンデューロと言われており、1300台もの予選参加者が決勝で500台まで絞られ、最終的な完走者は10名程度しか出ない究極のレース。日本のTV番組でもその厳しく激しいレースシーンは幾度も放映されており、藤原も挑戦者として『有吉のお金発見 突撃! カネオくん』に出演。藤原は2022年から完走を目指して参戦を続けており、今年で3年目の挑戦となる
完走に近づくための大事な予選に、全集中
エルズベルグロデオのレースフォーマットは、予選であるアイアンロードプロローグ2本に、決勝のRedBullヘアスクランブル1本。スピードが問われるコースでおこなわれる予選で上位へ進出できないと、完走は遠ざかってしまいます。その理由は予選順位で並べられるスタート順。決勝は50台ずつ横1列に並び一斉スタートするのですが、1列ごとに3分以上の間隔が空けられてしまいます。さらには、幅の狭い決勝のコースでは渋滞が至るところで起きるため、後列からのスタートでは非常に不利なのです。トライアルの国際A級スーパークラスライダーである藤原は、テクニックは抜きんでているものの、2022年、2023年と予選でのスピードが不足していたため好順位を獲得できませんでした。
今年はこの予選に対応するため、藤原は1ヶ月前に渡欧。フランスのスピードレースに参戦して感覚を研ぎ澄ませ、さらにはダカールラリーへのトレーニングも兼ねてイタリアのラリーイベントにも参加。「タイヤを滑らせる感覚をそこで養いました。この感覚をトレーニングすることで、相当スピードを上げられたと思います」と藤原が自信を覗かせていました。緊張を振りほどくためか、まわりの応援に丁寧に応えながら藤原は予選をスタート。前日に2時間をかけて歩いて下見をしただけあり、走行ラインやブレーキ・アクセルのタイミングは的確。予選1本目を走り終えた藤原は「しっかり実力を出し切れたと思います。これだけ走れれば、いい順位になったと思いますよ」と余裕の笑顔を見せていました。その結果、2022年は303位、2023年は226位だったところ、今年は108位まで大幅にジャンプアップ。スタート順を3列目まで前進させることができたのです。
余裕のできた藤原は、予選日の夕方にあるアイゼンナーツでのパレードに参加。初年度から続けている藤原の参戦スタイル「SAMURIDER」として模造刀を背負いながら、ウイリー走行を披露。ヨーロッパのハードエンデューロ仲間たち、そして地元住民たちと親交を深めました。
決勝62位までコマを進めて藤原は……
いよいよ迎えた決勝ステージ、藤原はスタートの1時間前から入念にスタート直後のファーストヒルをチェック。例年よりもぎゅっと狭くなったファーストヒルは、このレースのために数百トンの岩を壁面から落として上り坂にしたもの。岩もまだ落ち着いておらず、脚で歩いてもころころと岩が動いて転びそうになるようなコンディションでした。「一度止まったら、僕らでも再発進できないと思います。50台が一気になだれ込むので、おちついて一呼吸とって入るくらいのほうがリスクが少ないと思うんですよね」と藤原。その言葉どおり決して急ぎすぎることなく、自分のペースでファーストヒルへ。少し岩に引っかかりながらも、130番手くらいで山の中に消えていきました。
RedBullヘアスクランブルにはいくつも名セクションがあり、マニアなら名前を聞くだけでその映像が頭に浮かぶほど。そのセクションごとにチェックポイント(CP)として数字が割り振られており、全部で27CPがライダーを待ち受けています。最初のCP1は森を抜けたところにある、ロングヒルクライム“ウォーターパイプ”。何台も打ち上げ花火のように失敗したバイクが散っていく中、藤原は一発で成功させてライバルたちをごぼう抜きしていきます。この時点で110番手。
今年の決勝レースで最大のトピックは、CP19からCP11〜13に名セクション“カールズダイナー”が移動したことでした。日本人では完走経験者の田中太一選手以外いまだに走ったことがないカールズダイナーが、向こうからレース前半にやってきてくれたのです。カールズダイナーは、直径1.5〜2mほどの大岩が3.7kmも続く地獄のようなセクションで、RedBullヘアスクランブルを完走するにはこのカールズダイナーをいかに時間を使わずに走り抜け、その後のセクションに時間を余らせるかが大事なのです。CP6では91番手、CP8で82番手とCPごとにジャンプアップしていく藤原は、2時間38分でこのカールズダイナーの入り口CP11へ到達(70番手)。いよいよ日本人二人目のカールズダイナー入りを果たしました。
ここに待ち受けていたのは、藤原の家族でした。日本のトライアルIBチャンピオンの経歴を持つ藤原の兄は、カールズダイナーの脇を歩きながら応援するだけでなく、先を読みながらアドバイスを叫び続けました。「カールズダイナーは、ライダー目線ではどのラインがいいのかわかりづらいんですよ。あみだくじみたいになっていて、間違えると岩と岩の間の大穴にすっぽりはまってしまって、そこから抜け出すのに大変な体力を使うことになる。だから、兄たちのアドバイスは無ければならないものでしたね」と藤原。とはいえ、無酸素運動の連続でタフな藤原さえもハンドルバーの上になんども突っ伏すほど、体力を奪われていきます。持ち前の判断力の速さで、初見ながらカールズダイナーの攻略法を編み出しつつ、いよいよレース終了16分前にセクションのゴール地点CP13へ到達。残り時間も体力を振り絞って飛ばし、わずか13秒を残してCP14を62位でクリア。ここで藤原の3年目はタイムアップしました。カールズダイナー目前でタイムアップした昨年は、悔しさを露わにしましたが、今年は笑顔でガッツポーズ。
ロマンを共有したい
藤原は「オフロードにロマンを」を合い言葉に活動しており、このエルズベルグロデオこそロマンに溢れたレースなのだ、と言います。
「例年より大幅に順位を上げて、カールズダイナーも走りきることができて、さらにこのエルズベルグロデオの難しさを知りました。映像や写真では伝わらないと思うんです、このレースの凄さは。規模も何もかも、凄いレースだと思っていますし、自分の掲げた言葉以上にエルズベルグを完走するということは、人生のロマンなんだと思っています。僕は、人生を賭けてこのエルズベルグを完走したい。挑戦をやめるなんて考えてもいないんですよ。
今、あらためて思うのですが、本当にエルズベルグロデオに挑戦するって1年目に決めてよかったなって。主催者もサムライライダーだってウェルカムモードで迎えてくれるし、エルズベルグも僕の居場所なんだ、ここで僕を待ってくれている人がいるって思うんです。今回ヒルクライムを登ってる最中に岩が目の下に直撃したんですが、それでもアクセルを開け続けて登り切れました。そのあと腫れてカールズダイナーでは片目が見えなくなったくらいで、カールズダイナーを終えてCP13に来た時も、普通ならもう残り時間がないからそこでやめると思うんですが、僕は1mmでも前に進みたくて前進したんです。結果的にそのスピリットを理解してくれたのか、中継のテレビでも映してくれたんですよね。CP14で見てるお客さんも、ものすごく応援してくれて。
自分自身が感じるロマンを遂行することで、いろんな人にこのオフロードのロマンを伝えられるはず。ロマンを共有できたらいいなと、思います」