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「1971年うまれのぼんやり音楽体験」 第4回 佐野元春

佐野元春のことをとんねるずの「Shikato」で知ったのか、それ以前に何かしら知っていたのかは、時系列はぼんやりしているものの、僕が10代の頃に衝撃を受けたミュージシャンの1人が佐野元春であることは間違いない。何しろ、テレビに出ないのだ。なのに、売れているらしい。そんなことってあるのか。「活躍している人は等しくテレビに出るはず」という、田舎の中学生の中にあった間違った常識は、彼の存在で打ち砕かれた。

あるとき、新聞に載っていたある記事を見て驚いた。佐野元春というミュージシャンのコンサートツアーが発表され、チケットの申し込み電話が殺到して電話回線がパンクしたというのだ。テレビにも出ていないにも関わらず、電話が颯爽するなんて。そんなに人気があるのか。そして、「電話回線がパンク」するってどういう状況なんだろう、とも思った。スキャナーズみたいな感じで派手に爆発するのだろうか。いまだにそれは想像でしかない。ただ、佐野元春という人がいて、すごく人気があるということだけはなんとなくわかった。

そして、僕はついにテレビの中で、初めて動く佐野元春を見た。テレビ出演したわけではなく、「ザ・ベストテン」か何かでランクインした「Young Bloods」のMVが流れていたのだ。路上でバンドを従えて歌う、革ジャンというか黒いジャンパーを着た短髪の人。「こういう人だったんだ」と思った。力強い鍵盤に華やかなホーン、指の出る手袋をはめた右手をギュッと握りしめてリズムを取りながら歌うその曲は、歌謡曲とは違う洗練された都会の音楽に聴こえた。

そして、中学生の心にズバリと突き刺さるストレートなメッセージ。今聴いてもすごく気分が高揚するし、「あらそってばかりじゃ人は悲しすぎる」って、まさに今じゃないか。「ザ・ベストテン」ではたぶんほんの一部が流れただけだろうから、後で深夜番組なんかでフルで曲を聴いたのだと思う。後年、あの2人組のあの曲にそっくりだ、などとよく目にしたが、そんなことはどうでもいい。僕はその日を境に、どんどん「電話回線パンク男」佐野元春にハマっていった。


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