この占い師ね、めちゃめちゃ当たるのよ。

2、3年前にある占い師に会った。あれはコロナ前だったと思う。
その場にいる人に言わせれば「めちゃくちゃ当たる人」らしい。

40代くらいの男性でスキンヘッド。顔の皮が薄く、綺麗に整えられた眉毛。
両指にたくさんの指輪をしていて、すごい高そうな車に乗っていた。

「ねえ、この人芸人なんだけど見てあげてよ」

その場にいた知り合いの人に言われて気怠そうに僕を見た。

「いいですよ」
そういって姿勢を正し、僕の頭の右上あたりの空中を見た。

「この人すごいんだよ。めちゃくちゃ当たるし、本当はすごいお金取るんだから。」
知り合いの人は自信ありげに言った。

「そうなんすね!うわー!すごそう!」
僕は大袈裟に答えた。その場の空気を良くしようとして自然と「嬉しいですわ〜こんな機会ないですわ〜」と子犬が飼い主を見るような顔が出来た。

その手の顔には自信がある。絶対に相手が気分悪くならない顔。

そんな顔とは裏腹に僕は全く信用していなかった。
数年前にすごい除霊師がいると言われ見てもらった。
胡散臭いおっさん。僕のスマホを見て「悪いの溜まってる」って言いながら息吹きかけて「はいこれで大丈夫」って言って返してきたおっさん。
スマホに臭い息を吹きかけるだけで平然と僕から1万円奪っていったおっさん。
僕はそれ以来、占いアレルギーになっていた。

「あ、なるほど・・・でもね、芸人として食いっぱぐれる事ないよ」
顔皮薄スキンは言った。
「ほんまですか!?」ちょっと喜びの感情を出しながら答える。
心の中では(いや俺今バイトしてんねんけど。それはどうなん?)を必死で堪えた。

続けてこう言った。
「あと・・・相方なんだけど・・・もっと気を遣っていくべきだと思うよ」
え?と思った。思わず
「あの・・・僕去年解散したんです・・・ピンなんです・・・」
顔皮薄スキンはギョッとしながらも
「え?嘘・・・?・・・あ、待って待ってもうすぐコンビ組むよ。うん」
無理あるだろう、それは流石に。急ハンドルすぎる。
「そ・・・そうなんですね・・・誰やろう〜?」
うまく切り替えせた。いやうまく切り返すことが正解なのかもわからなくなった。

「あと子供には公園連れて行ってあげて。で、奥さんにもっと水飲むように言って」
という謎の家族へのアドバイスも頂いて、もうお腹いっぱいとばかりにその場を後にした。

「なんやねん最後・・・水って投げやりのアドバイスしてきたやん」
と帰り道に笑いを堪えた。

家に着くと流石に気になって調べてみた。
占い師の名前で検索すると確かに「人気占い師」と出ていた。

数年前に電気に打たれるように開眼し、全てが目に見えるようになり、有名人もみてるとか・・・とか。へ〜そうなんやな。とその時は思っていた。

そして現在
なんとなくふと思い出してその名前で検索かけてみた。すると

「詐欺師です。気をつけてください」

と出ていた。はっきりと。大きく。
あまりにはっきり出てるので笑ってしまった。
占い学校を開いて生徒にワークショップやグッズを売りまくっていたらしい。

僕は後悔した。あの時の
「そうなんですね!すごそう!」の犬の顔。
この世で1番に醜いご機嫌伺いの顔。
自然と出た自分を恥じた。

結局僕も詐欺してた。ご機嫌の詐欺をしていた。
謝りたい。あなたも詐欺してたけど僕も詐欺でしたって。
詐欺師×詐欺師だったって。
殴られるだろうけど。

あ、妻はあれからよく水は飲んでます。

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