介護が始まった日
母の在宅介護が始まって、今年で14年目になる。
今では、私の日常は介護と切り離せない。しんどいなと思う面はもちろんあるが、まあ、やってやれないことはない、とも思う。
介護が始まった日から今日までをざっくりまとめてみよう。
14年前、私は一人暮らしをしていて、6月のある日、夜中に電話が鳴った。
夜中の電話とか、まあ、いい内容の気がしないものだか、案の定、母が風呂で倒れたとのことだった。
もともと高血圧の持病があったにも関わらず、母は医者にかかっていなかった。いつかこんなことになるのではと危惧していたが、とうとう来てしまったか、やけに冷静に受け止めていた。
電話口の父も普段と変わらぬ口調で、あかるくなったら猫にごはんをやりに帰ってくれないか、と言っていた。
一見、二人とも淡白な感じだが、今思い返せばお互い気が動転していたのだなと感じる。私は実家からさほど遠くないところに住んでいたので、夜が明ける前に自転車に乗って実家へ帰った。座卓には食事をした後の食器がそのまま。風呂場は吐瀉物で汚れていた。怪我がなかった様子なのでその点は安心した。とりあえず、片付け物をして、父の帰りを待つしかない。
猫は私が帰ると、オロオロした様子で物陰から出てきた。風呂場の扉が開かず、救急とレスキューの要請をしたらしい。急に人がどかどか来たので、びっくりしていたのだろう。
明け方、医師からの診断書を持って父が帰ってきた。左脳視床出血、右半身麻痺。命に別条なし。
倒れた直後なのに、今後どう差し障りがあるかまでわかってしまうのに驚いた。
人生で一番、暗い夜明けだった。
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