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岡野昭仁の挑戦


2021年7月25日、岡野昭仁単独配信ライヴ
「DISPATCHERS vol.2」が行われた。
4月のvol.1から3ヶ月、冒険の途中経過を知らせるように2回のライヴを決行してくれた。
ポルノグラフィティの楽曲からの音楽探訪をテーマに、改めて歌を抱えて生きていくという決意表明。
固唾を飲んで見守った。
MC噛んだりしないかなー?って。

あまりしたことがないのだが、1曲1曲のレビュー(※個人の感想です)を書いてみた。

ギフト
なんだ自分の声じゃないか
この歌詞を聴いてハッとしたファンは多いと思うが、「なんだ」というところに、その「ハッ」という感情を込められるようになったのが彼の成長なのだと思う。
アレンジも2番に移るにつれてテンポが速くなっていく。ギターの胴をパーカッションのように叩きながら弾くのはバイオリンの名手NAOTO氏の影響だろうか。
大サビの前にブレイクを入れて演奏の間に素のような表情を見せるのも恒例になっている気がする。

リンク
ロック的な疾走感のある元曲の印象が強くて、こんなにポップな曲に様変わりすると思ってなかった。でもサビの転調から考えたらこういう解釈もあるかと思ったり。
Cメロから大サビの前のブレイクでテンポがスローになるかと思わせておいて、最後はチューチュルチューというフェイクというかスキャットでよりポップ感が増してしまった。

マリーゴールド
一昨年聴きに聴きまくった大ヒット曲なのに、昭仁バージョンを聴くとまた原曲を聴きたくなる不思議。
あいみょんさんは昭和感を漂わせる王道のポップスを聴かせてくれるが、昭仁の声でスコーン!と歌ってくれると、急にエバーグリーンな背景に少年少女が見えて来るから不思議。

HANABI
生と死や儚さ
と言われているのに、点っているのは花火なのか陽の光か分からない曲になっているのはなぜだ?もう1回どころかもう何回でも希望が見えそうな気がする
のに、やっぱり仄暗い寂しさも感じさせる。どういうことだ?

勿忘
初聞きです。申し訳ない。
調べたら映画「花束みたいな恋をした」のインスパイヤソングだそうです。
晴一さんがTwitterで褒めてらした映画、
まったくもう笑
前曲のHANABIと違い、浮遊感漂う歌い方をしたなと思って聴いていたら、これまた力強く忘れないと歌ってくださる。
シティポップスなのにシティがどっか行ってしもうたやないか笑

人として
混沌とした世の中だけに、負けない、進んでいくんだ、というメッセージソングが多くの人の心を掴むのは道理です。
弱音を吐きながらそれでも、それでも、と歌うのは昭仁のパーソナリティに沿うのだろう。一言一言がはっきりと響く彼の歌唱は容易く人の心に注がれる。
ラストのロングトーンもさすが。

ジュビリー
背景の絵というか、その空間を説明する歌詞を歌うのがまた上手いんですね。
「あなたがここにいたら」で晴一さんが使った「よこはま・たそがれ」(五木ひろしさんのヒット曲)的な、単語をぽんぽんと並べる手法。一つ一つにパンパン、と立ち位置を与える、昭仁の説得力のある歌唱。
昭仁本人は自覚されているかどうかは分からないが無意識としても自身の歌の力を基に挑んだ楽曲だなと感じさせる。

さよならCOLOR
ひたすら俯いてギターを弾くtasukuさんがまた切ない。ギターの響きが歪んで、アンバーの照明と相まってジャズを聴いているような雰囲気になる。
昭仁劇場。
さよならはこれから歩むためのきっかけ、という内容の歌詞。昭仁はただ歌っているだけなのに、常にこちらを見つめているんじゃないかという気にさせられる。例の見つめているでは無い。なぜかは分からん。

情熱
深夜の蒼に赤い照明で照らされた昭仁。木で組んだセットがビル群のように見える。演出が秀逸。
UAさんの登場は、確かに驚きを持って迎えられたように思う。この楽曲を区分したいようなそうでないような、JPOPという括りには収まらないような不思議な楽曲。情熱というにはお洒落で押し付けがましくない。
昭仁の一歩引いた佇まいもあって、赤裸々と歌われてもどこが赤裸々?となってしまった。日頃、色気がある、エロいと言われているのに、おかしいな。

今だから
これには思い入れが多すぎるのでこの項だけ長くなるのは許して欲しい。
小田和正、松任谷由実、財津和夫というアベンジャーズ。
1985年、世界交流をスローガンとして制定されたのが世界青年年。それの記念イベントとして開催された「All Together Now」。
国立競技場を音楽イベントの会場としたのはこれが初めて。
出演は、この3人の他にはっぴいえんど、吉田拓郎、サザンオールスターズ、チェッカーズ、佐野元春、THE ALFEE、さだまさし…
錚々たる面々なのは伝わるだろうか。
そこで初披露されたのがこの曲。
テレビに出るなどはダサいと言われた時代、このイベントのラジオ中継に心躍らせたのが当時高校生の私。
テレビに出てこれを歌ったのは、山田邦子、片岡鶴太郎、松尾伴内。そりゃあ、ひょうきんベストテンの方が心に残るよ。

3人は超人すぎて存在感が大きすぎて、神格化されているので、余計にピンとこないかもしれないけれど、もう一度言うがアベンジャーズなのである。
きっとnang-chanの仕業だろうな、坂本龍一氏のテクノ風味をそのままに、今でも通じるものにしていて驚いた。
歌唱の方はご存知の通り。

8小節くらいで3人がリレーする符割り。そのタイミングで照明が変わっていくのに気付いた方はどれくらい居ただろう。どこで3人の歌が入れ替わるのか、原曲知らないから分からないという人は多かったろうな…

アイネクライネ
昭仁はというかポルノは女歌が似合うと言われるのは大人の男性というよりもどちらかといえば少年のような、まだ女の子と分化していないような時分の雰囲気をまとっているからかもしれない。
米津さんは男性らしさが勝さった、少しフワッとしたお声。昭仁が歌うとどストレート過ぎる。口ごもる男と直接的な女を想像すると、昭仁が女らしさを表現出来る理由もわかる気がする。

若者のすべて
カバーをするに当たって、ご自身の好きな歌い慣れた旋律の歌を選ばれたんだろうなと思うのだけど、本家の志村さんは語尾を伸ばして歌っていらっしゃる。合唱で歌う時に語尾を切らないで続けて歌ってと教えられたことはないですか?あの感じ。
昭仁のハキハキとはやっぱり違う。
ただ、
ないよな、ないよな、きっとね、いないよな、という歌詞は、彼のハキハキさで一層切なさが増すのだ。
吐き捨てているのではなく、吐き出してしまうまで口に持っている時間がある。

志村正彦さんがご存命なら、昭仁の歌い方も評価してくださっただろう。

ということを考えてましたら、高校の音楽の教科書に掲載されることを知りました。新しく高校生になって音楽を選択される方々に届きますよう。

フラワー
言わずと知れた名曲。
未だに聴くのが辛くて仕方ない。

光三部作

作家澤野弘之氏による、
TVアニメ「七つの大罪・憤怒の審判」の主題歌「光あれ」と、
劇場版「七つの大罪 光に呪われし者たち」
の「その先の向こうへ」、
DISPATCHERS企画で作家辻村有記氏と製作した「Shaft of Light」
岡野昭仁ソロプロジェクトは、光がテーマ。
「この状況」は今なお人に暗い影を落とす。光に焦がれ、光の方向を向き、そして歩いていくという、道標を探る三部作。
光にに辿りつこうとして何度もトライを繰り返す人間像を描くMV。

「光あれ」
https://youtu.be/NL4M3rqwmrk
「Shaft of Light」
https://youtu.be/skPvL3bi2Bs
「その先の向こうへ」
https://youtu.be/7yamL5DAAv8

音的には非常に先進的で明らかにポルノグラフィティとは違う趣き。若いクリエイターは世界のミュージックシーンにも敏感。だからこそ昭仁はそこに光を見出したのだろう。
敬愛して止まないスガシカオ氏による歌詞を得て、また昭仁の扉は開いていった。


カバーという作業

昭仁がカバーして歌うと、全部自分のものにしちゃう、という感想が多くあるし自分もそれは思うのだけど、驚くほどオリジナルから懸け離れていないということに気がつく。
原曲からかけ離れたくない、原曲の意思を大事にしたいという言葉。
聴いたまま歌っているのではないし、ましてペンキで塗ったようにカバーするのではない。どちらかといえば光を足したい、足すにはどんな光がいいだろうという作業だ。直感を元に、それをどんどん試していって完成した景色絵を見せてくれている。

オリジナルだろうとカバーだろうと、きっと労力はそんなに変わらないのだろう。変な言い方だが、二番煎じと言われるものだって、形にするにはそれ相応の努力がいる。青空の風景を描いても正午の光か2時の光かで見え方が違う。その2時間のうちのどっち寄りにするかは、その人にに委ねられていると言っていい。

その足した光の明暗と、加え方の塩梅が絶妙ということだ。まさに職人。

まだこれからも歌を抱いて生きていくこのプロジェクトは続くと仰っていた。本当は、世の中にある全ての楽曲を歌い切りたいのかもしれない。きっとリストに挙げた曲はこんな曲数ではないだろう。完成系として見せられる、プロとして恥ずかしくないレベルにまで高められたものを出して来られたのだろう。
だから、その他の歌を歌うとしたら、オリジナルでもない、岡野昭仁そのものでもない、その間の折衷案をずっと探していくのだろう。だから聴く者は、あれ?こんな曲だっけ?と思えるし、昭仁さんらしいや、と思えるし、原曲を聴いてその忠実さに驚ける。一石三鳥。

新始動

そして、
8月2日、ポルノグラフィティの新始動が発表された。
光をバックにこちらに近付いて来る2人のビジュアル。
昭仁の活動も地続きということを思わせる。


一先ずシンガー・岡野昭仁の活動は休止ということだろう。
去年からずっと、昭仁だけの音楽に包まれるという時間も心地良かった。
また母屋と離れを行き来して欲しいと思いつつ、この感想文はおしまい。

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