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風の人の心得

はじめに

JICA地球ひろばの主催で2021年6月9日(水)開催された「世界に広がり続ける、楽しく学ぶ防災教育の輪 - イザ!カエルキャラバン!を事例に」と題したオンラインセミナーでは、国内外の地域との取り組み事例等、沢山の良いヒントが紹介されました。特に、持続可能なプロジェクトを成功させる為には、”風”の人、”水”の人、”土”の人といった役割を担う存在が重要であり、セミナー終了後に開示頂いた「”風”の人の心得」は、地域社会とのプロジェクトを企画・実行する上での参考として頂ければと思います。

以下は、NPO法人プラス・アーツ(Plus Arts NPO)永田 宏和理事長の「”風”の人の心得」をそのまま掲載させて頂いています。

●普段からの心がけ

引き出しをたくさん作る!常にアンテナを張り、いろんな情報をどんどん採り入れる。TV、ネット、雑誌、知人、などから。電車内の吊り広告からでも入手できる情報はある。なるべく足で稼ぐのがいい。現場で直接仕入れた情報が一番確かな情報。IDEO には観察>ヒヤリング(インタビュー)>アンケート>ネットといった情報の確度のランク付けがある。

種はたくさん持っている(知っている)方がいい。丸腰では企画はできない。バリエーションも必要。そしてそのプロセスを知っていることもとても重要。結果や成果だけでは不十分。その背景や立ち上がりから、実践、その後の状況を把握しておくことが望ましい。

●取り組む際の姿勢

・本当に自分は必要なのか?いなくても問題ないんじゃないか?と常に思うところから始まる。その姿勢から本当に自分に求められている役割が明確になり、自分がなすべきことがしっかり、はっきり見えてくる。謙虚な姿勢からすべてが始まる。

情熱と愛情を持ち続ける。まちづくり支援系のプロジェクトはいばらの道。そう簡単にうまくいかないし、失敗もする。でもへこたれてはいけない。情熱を持ってやり続ける姿勢が一番大切。そして関係するすべてのステークホルダーに対して愛情を持つことも大切。

障壁は必ずあると常に思っておく。トラブルは発生する。その障壁をプロジェクト中止の理由にしない。その壁を乗り越えるための方策を練る。プロジェクトでつまずかない、失敗しないための試金石にする。起こりうる壁を知って企画するのと、知らずに企画するのでは企画の強度は大きく異なる。障壁を企画に厚みを増すための肥やしにする。

●企画の際に気を付けること

まずはリサーチ。知らなければ、把握していなければ企画は絶対にできない。

・依頼主のニーズは?時代のニーズは?今のニーズだけを考えるのではなく、これからの、近未来のニーズをうまくとらえることも時としてとても重要。時代の流れを読むことが求められる。答えは必ず“他”の中にある。自分の中にあるのではない。

課題を立てる時はじっくり考えて慎重に立てることが重要。日本人は課題を立てるのが下手だと一般的に言われていることを肝に銘じておく。思い込み等から課題を安直に立てることは絶対に避けなければならない。的確に課題を設定したいのであれば、可能な範囲で簡単なプレリサーチをするのがおすすめ。課題を立て間違えるとどんな素晴らしいアクションプランを立てて実行しても結局は効果が出ない。十分に注意すべきポイント。

リサーチを踏まえた直感や妄想はとても重要。それを大切にしながら企画をブラッシュアップさせていく、リアリティを高めていく、そんな流れが理想。但し、企画を進めながら検証していくなかで意味がない、効果が期待できないと思ったらいつでもその直感のアイデアを捨てる勇気も一方で必要。いつまでも直感にこだわらないことも重要。

自分の「やりたい!」はない。相手(支援する対象)が何をやりたいのか?何に興味関心を持っているのかを感じ取ることが重要。思いやり、謙虚さを大切にしながら企画を行う。

・ある尊敬する仕事の先輩が、事業の成功の秘訣は、そこに関わる全ての人が WIN-WIN になること、と仰っていた。事業を進めるなかで誰か一人でも嫌な思いをしたり、傷ついたりする事業はうまくいかない。WIN-WIN-WIN…を前提に取り組む。そんな考え方で常に周りに気を配り、状況を確認しながら進めていくことがとても重要。

大義を持つ!ビジョン、目的、ゴールをしっかり見据える。この事業の本当の目的は?何を成し遂げるためにアクションするのか?を最初に明らかにし、中心にしっかり据える。プロジェクトが進行する中で、大義を見失い、目先の利益や違う目的に向かってしまうことが時々ある。そんな時には必ず立ち止まり、このプロジェクトは何のために取り組んでいるのか、ということを自問自答することが大切。プロジェクトメンバーにそのことを伝え、方向性を失いかけているメンバーの道標を示すことも重要。プロジェクトのブランディングはそのために必要不可欠。

プロセスを意識する。時間軸、ステップアップ、段階的なステージ・フェーズの設定などを意識する。ちびっこうべ→パンじぃの流れ、IKC の例(講演会→研修→デモンストレーション→地域での定着、といった感じ)

「モデルをつくる」という意識を常に持つ。一気には変わらない、トライアルは必要、いろんな意味で「いいモデル」をつくる(開発する)ことが重要。それこそが大義(ビジョン)を成し遂げるためのゴールへの一番の近道だと言える。

「虫の目」と「鳥の目」を持つ。ぐぐっと寄って企画を掘り込んでいって、詰めていくこともある段階では重要。ただ、時々、引いて、俯瞰してプロジェクト全体を眺めてみることも大切。主観的なアプローチと客観的なアプローチの両方が必要。企画者は自分の企画に酔ってしまって我を忘れることが多々ある、一度立ち止まり本当にこれでいいのかを自問自答し、いろんな角度から検証してみる。「土チェック」「水チェック」「種チェック」3 つのタイプが違うチェック(検証)が必要

・周り(地域全体)を見渡して、できるだけ多くのステークホルダーを巻き込めるかが重要。巻き込む!巻き込む!巻き込むためにはターゲット層に応じた企画の強度が必要になる。一つの強度(例:楽しい)だけでいける場合といけない場合がある。

「イベント」はゴールではない。あくまでもデモンストレーション。最終形ではないという意識を持つことが重要。トライアルであり、対象となる地域の人たちの反応を見たり、普段繋がれていない人たちがつながる場としての意味があり、そこで検証し、新たな知見を得る場となる。「イベント」は常に進化するし、そこから派生する。そんなイメージで「イベント」を捉えた方がいい。そうした意識を持つことがとても重要。

・上記のことを全て意識しながらプロジェクトの企画内容を固める。企画内容が固まったらその企画を対象となるターゲット層に一番強く伝わるデザインを選び、マッチングする。デザインを選ぶ際の尺度は間違いなく「強度」。デザインは企画に強度を与える

参考資料

考察

風の人の心得_01

ここでご紹介した「”風”の人の心得」は、国内外における数多くの地域との取り組み実績に基づいた内容であり、スカウトがプロジェクトを企画・実行する上で、大いに参考になるのではと思います。また、地域社会との取り組み結果を反映させた新たな心得を作成して、プロジェクトの持続性および新たなプロジェクトを企画・実行する後輩スカウトへの参考手引きへと発展させて頂ければと思います。

風の人の心得_03

但し、この「”風”の人の心得」を理解して実践して行くには、単にこの「心得」を読むだけでなく、この「心得」が生まれた背景や、それを実践した多くのプロジェクト体験を知ることが大切だと思います。

風の人の心得_04

永田氏(Plus Arts NPO)は『地域の人たちが、お互い仲良く、生き生き暮らす元気なまちになることを「地域活性化」ではなく「地域豊饒」(*1)』と言っています。
 (*1)豊饒(ほうじょう)とは、土地が肥えていて作物が
     よく実ることやそのさまを指す言葉。

★講演会用パワポデータ(配布資料版PDF)へは、上記「参考資料」のJICA地球広場「2021年度|展示・イベント情報」に資料リンクが掲載。



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