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ゴールデンウィークにギャルゲーやって致命傷を負った話 (Ciel『After…忘れえぬ絆』プレイ感想)

○前置き
 2021年のゴールデンウィーク。
 コロナ禍での7連休ということで、かねてから再プレイしたかった『ロックマンエグゼ2』を探すべく、近場の中古ゲーム屋さんに足を運んだ。そこでふと「ギャルゲーしたい」という天啓が降りる。私は二次元の可愛い女の子は大好きだがノベルゲーは不得手のため「ギャルゲー=ノベルゲー」という固定観念があり敬遠しがちであった。
 7連休はいい機会だよな。そう思ってジャケ買いしたのが『After…忘れえぬ絆』である。

After…忘れえぬ絆(PS2/2004年)
開発・販売元 ピオーネソフト
(原作 Windows版にて株式会社スペースプロジェクトのブランドCielとして2003年販売されたアダルトゲーム。Tony氏のキャラデザで大変美しい)

(注)以下、ネタバレありのプレイ経過と感想。


○とりあえず説明書を読む
 PS2とあってしっかりとした説明書が付属。嬉しい。キャラ紹介を読むだけで元を取ったようなものである(購入価格は大体ワンコイン)。
 主なヒロインは「汐宮香奈美」「高鷲渚」「喜志陽子」の3人。

 第一印象は渚が可愛いなあ…でもメインヒロインらしいしまずは香奈美から攻略しようかな…などと考えながらページをめくると一番後ろに突然明らかに世界観が違う登場人物がいた。「サイファー」と「ルー」である。そこには「物語の鍵を握る二人。その正体は…?」とだけ書かれている。
 不穏な気配がするね。

○挑戦開始
 たまに選択肢が出てくるくらいで、基本的にはさくさくシナリオを読み進める。
 香奈美は幼馴染。早速なぜか主人公宅どころか就寝中の主人公の部屋に押し入り目覚まし時計の役目を果たす安定の幼馴染ムーブをかます。あれ、ジャケで見た清楚美少女はどこに…。とりま香奈美攻略の意志が揺らぐ。
 渚は実妹である。海外赴任中の両親に代わって三食作るわ掃除洗濯するわと獅子奮迅。すまぬ。でも可愛い。お兄ちゃんのことが大好きらしい。やっぱ渚攻略しよ。この時点で私は「実妹」ということを深く考えずに渚ルートに向かう決意を固めるのだった。

○進行形式について
 物語は高校3年の夏から始まる。
 主人公「高鷲祐一」はワンダーフォーゲル部の部長。卒業までに長野にある穂高岳の冬山の登頂が目標。決行は3月。それまでの季節を3人のヒロインと、そして部員であり友人の「滝谷紘太郎」「我孫子慶生」らとともに過ごすのが主なシナリオである。なおさまざまなイベントの幕間には主人公のモノローグとともに、青い「??」とピンクの「??」による語りが挿入される仕様。明らかに「サイファー」と「ルー」だ。このモノローグと??は「あのころは…」だの「まだ君は思い出していない」だの、キナ臭い雰囲気をばりばり醸し出してくる。うーん。祐一お前登山して死ぬんか? タイトルの『After…』ってのはそういう意味なんか?? 不穏な気配を感じつつ渚可愛いわーいとのどかに読み進める。

○渚と慶生
 渚可愛いやったーなおかげで2人の??をさほど気にせず読み進める。何を置いても渚。とにかく実妹。3人の美少女と海に来ておいて「渚とボート」を選ぶ。お兄ちゃんの鏡。
 しばらくプレイするうちに、渚を追うと慶生の影がちらつくことに気がつく。
 これはまずかった。この我孫子慶生という男、初対面の渚に「アイドルのREICOに似てるって言われない? これから売れるのが間違いないアイドルなんだけど」などとかまして以来、なにかと渚への好意を隠さない。正直、ただ恋のライバルというだけならあまり気にならなかったのだが慶生は一味違う。原付で事故って崖から転落しかけたときなど間一髪で腕をつかんでくれた紘太郎に向かって「早くしてくれよ! 落ちちゃうだろ!」とほざく困ったちゃんなのだ。直感的にアダルトPCゲームの移植作=慶生は渚ルートのバッドエンド要員という最悪のシナリオが脳裏をよぎる。慶生から目を離すな。以降、なぜか祐一(私)は渚と同じくらい慶生のことを想う日々を過ごすことになる。

○事件
 海イベ、事故る慶生、夏祭り、テスト、球技大会やクリスマスと順調にイベントをこなしてやってきた正月、初詣。事件が起こる。振り袖のぎゃんかわ渚に発情するモブAとB。茂みに連れ込まれる渚。ビビりつつ殴られつつ助けるお兄ちゃん。まあビビるわそりゃ。遅れてかけつける香奈美、紘太郎とともになんとかモブを撃退。茂みの奥からなぜか慶生。慶生はお寺の息子で手伝いがあるというので主人公たちの初詣には不参加だった。なぜそこにいた。お前ぜったいけしかけてるだろ。とくに疑うこともなく退散する慶生を見送る主人公たち。善人か。渚は心に深い傷を負う。だが翌日には明るい笑顔で祐一にお雑煮とおせちを出してくれる。天使。しかし慶生の悪行が暴かれないことに一抹の不安が残る。

○渚ヤンデレ化
 この時期、渚との固有イベントが続いた。1月3日の祐一誕生日イベ、そしてバレンタインイベである。ここで渚さんは本領を発揮。
 まず誕生日。香奈美がみんなでお祝いしようと提案。渚がつい先日レイプ未遂の被害にあったことを気にしてくれている様子。
 話は逸れるが、香奈美は祐一の幼馴染だけあって渚とも仲が良い。渚ルートにいる限り、彼女はなにかと親不在の高鷲家を気にかけてくれるお姉さんポジに収まっていて、とてもいい子だった。このころには私もすっかり渚ルートが終わり次第というお気持ち。ありがとう香奈美。
 閑話休題。香奈美からの電話を受けた渚。お兄ちゃんに取り次ぐ。祐一は香奈美の提案について渚に相談するのだが渚は無表情である。邪魔するな(させるな)と顔にかいてある。あれ…ちょっと前まで香奈美ちゃんっ子だった気がするのだが…。お兄ちゃん、空気を読む。渚は、自分は食べられない祐一の好物、激辛タイカレーで兄の誕生日を盛大にお祝い。ブラコン最高。
 そしてバレンタイン。起きると枕元には「おにいちゃんへ」と書き置きされたチョコ…。サンタさん? 何やら渚は外出しているらしい。ということで祐一もまた外出。それはいいのだが、なぜか行く先々でことごとくヒロインたちからチョコを拝領する。このときいちいち「学校へ行く」「駅前へ行く」と選択肢が出るのがもどかしい。そして「家に帰る」はない。誕生日に見た迫力満点の渚の表情が脳裏に浮かぶ。早く。早く家に帰るんだ祐一。ヒロイン行脚を済ませたころには日も暮れていた。帰宅早々はじまる渚さんのお説教。「私まだお礼も言ってもらえてないんだよ!」仰るとおり。プレイ開始時には想像もつかなかった渚の剣幕に動揺する祐一(私)。本当にごめんなさい。ヤンデレは大好物なのだが明るい笑顔が可愛い渚にこんな表情をさせてしまった自分に強い自責の念を覚えた。このあたりでようやく実妹という設定の重さに思いを馳せつつ、お兄ちゃんとして渚とずっと一緒にいてあげよう、一緒にいたいという決意を強くするのであった。

○絶望のLoop
 なんやかんやとイベントをこなし、いよいよ紘太郎、慶生とともに冬山の穂高に挑戦。ここで祐一はある遭難者を助けようとして命を落とす。End。これはバッドエンドだろう。ぶっちゃけ死は初めから予想していたし何より慶生が躍動しなかったのでまあいいかと一瞬思ってしまった。よくない。??と祐一の会話。「お前の心にはだれもいない」「俺の心には…だれもいない」やかましい。それでもお兄ちゃんか祐一。渚を置いて死ぬわけにはいかないだろうが。どこかで選択肢を間違えたのだろうか? バッドエンド曲「絶望のLoop」を口ずさみながら、セーブファイルを活用した巻き戻しに突入した。

○再プレイ
 実はクリスマスイベにて渚他ヒロインたちにプレゼントを贈っているのだが箸にも棒にもかからない謎イベと化していたのでここになにかあると判断。渚へのプレゼントを再考する。選択肢は「ぬいぐるみ」「マフラー」「キッチン用品」。初手はマフラー。祐一は悩んだ。たしかに渚はお兄ちゃんのためにいろいろと料理をすることが好きだがそれに関係するプレゼントというのはちょっとしたモラハラではないだろうか。悩んだ末にぬいぐるみを選択。この時点からすると未来のことだが、実は渚の部屋にはいくつかぬいぐるみがいるのを祐一は確認していた。祐一も一端のタイムトラベラーである。しかしあえなく先ほどと同じバッドエンドを辿る。もはやバレンタインの甘々0ガチギレ渚がトラウマと化す。だめなお兄ちゃんでごめん…失敗した失敗した…。朦朧とするあたまでキッチン用品を買い直す祐一。あっ。クリスマスに固有イベが!! 兄からのキッチン用品に大喜びの渚。可愛い。守りたいこの笑顔。そしてついにバレンタインイベにも変化が。

○完
 ところで、初詣の事件以降、渚は変わった。「ずっと一緒」という言葉に、なんだかこだわるようになっていた。辛い出来事を経て大好きな兄とだけずっと一緒にいたいという思いを強くしながらも、想いを寄せる相手が実の兄であること、そしてその兄が自分をどう思っているのか…。渚は不安でいっぱいだった。親不在の生活で渚は兄に献身的で、いい子を演じ、兄への想いを隠し続けていた。そのギリギリの精神状態が先の事件で一気に崩壊したのだ。うむ。ヤンデレの誕生を見た。正しいバレンタインイベントでは、2人は、まだ実の兄妹であることをお互い無言で了解しながらも「ずっと一緒にいよう」と、あらためて言葉にして、想いを交わす。祐一、そして私も同じ気持ちだった。
 かねてから物語の終着であり祐一が目標とする穂高登頂の直前には卒業式がある。一周目はあっさりしたものだったがキッチン用品を装備した祐一は無事渚とのイベント回収に成功する。ここで、2人は兄妹としてではなく2人の男女としてこれから一緒に生きていこう、そう決意する。そうか。そこはこだわるんだな。倫理観がちょっとずれている私は別に2人は兄妹として末永くでいいと思ったのだが、2人が大層幸せそうなのでよしとする。ひゅーひゅー。無事『After…』攻略である。

○その後の物語
 はい。そうは問屋がおろさなかった。だってこのゲームは『After…』だから。
 玄関で渚に見送られ、冬の穂高へと出発する主人公。もはや夫婦である。お熱いね。
 いざ穂高。既読がつかない。順調にバッドは回避した。ここから怒涛の展開である。遭難者を助け、紘太郎、慶生とともに滑落事故に見舞われ祐一死亡。??の呼びかけ。祐一の心には渚の姿が。そう。渚を置いて死ぬわけにはいかない。何やら死後の世界一歩手前、謎の精神世界で目覚める祐一。ついにサイファとルーが登場。説明書では「サイファー」と伸ばしていたのだがご愛嬌。以下、お二人のありがたいご説明。祐一は死んだのだが、本来この事故で死ぬはずだったのは紘太郎、慶生そして遭難者の3人のうちの別のだれかだった。ルーがやらかしたらしい。そこで祐一の魂を留め置いて、いまこうして話しかけている。この魂の留め置き、一度死んでばらばらになったそれを再構築する作業の様子がここまでのストーリー、第一部である。そんでもって祐一の魂はなんとか再構築したが、肉体の方はといえばもはや使い物にならない。かといってここにずっといられるわけでもない。そこで一旦、「魂の色が似ている」慶生の肉体に居候してほしい…。
 お察しだろう。これは『After…』の実妹攻略に対するAnswerである。

○ファンタジーだと言い聞かせる
 慶生はストーカーじみて渚に固執していた。そこには紘太郎、そして祐一への嫉妬がある。慶生は、かつて、いじめられていたところをこの2人に助けられ友人となった。その負い目、2人に対する劣等感が我孫子慶生という困ってちゃんを生み、その発露が渚に向けられていた。
 慶生の体を通じ、彼の奇行とともに、自分と、渚への歪んだ思いを目の当たりにする祐一。
 とはいえ、そんなことよりこの祐一死後、第二部は、何が辛いって兄が死んでしまったあと抜け殻のようになった渚を延々と見せつけられるところである。ご丁寧にスチルが何枚もある。ひとり家の床に座り込み何をするでもなく遠くを見つめる渚…。祐一はといえば、慶生の体に魂だけ入っていて彼と会話をしたりすることはできるのだが、兄という邪魔がいなくなったくらいにしか思っていない慶生とうまく行くはずもなく、なすすべなく…どころか慶生の魔の手に怯えながら、兄を失った世界に絶望する渚に声をかけることすらできない傍観者と化す。ここまで来ると私はとんでもないゲームに手を出してしまったと思いつつなんだかよくわからない気持ちでボタンを連打していた。何もできない祐一の代わりにせめて早く時を流そうと思っていたのかもしれない。

○エンディング
 クライマックス。渚は、兄がその命を救った雪山の遭難者に凶刃を向ける。辛うじて駆けつけた慶生(祐一)が庇い、刃は慶生に突き立てられた。ここで血まみれのナイフをもった渚スチル。可愛い。やっぱりヤンデレじゃないか。慶生は最後、祐一にかつて助けられたお礼をまだ言えていなかったから、ありがとうと言い残しこの世を去る。なんだかよくわからないが致命傷を負ったのは慶生の肉体ではなく慶生の魂らしい。このときのサイファの「近づくな! 死に引きずり込まれるぞ!」という台詞は、いくら慶生を目の敵にしていた私でもちょっとひどいなと思った。結果、慶生の肉体をゲットした祐一。なんだったら「これなら結婚できる」と言わんばかりに最後は渚、慶生(祐一)の結婚式にて物語は幕を閉じる。

○読後感
 とんでもないエンディングである。何だったら祐一は「慶生のぶんも渚を幸せにする」くらいのことをいう。いやいや。お前ひとりぶんをしっかり愛してくれ。
 当時、このエンディングはさぞかし物議を醸したのではないだろうか。実妹とのハッピーエンドに対する斬新な一つの答えとも取れるが、「結婚できなければ幸せになれない」という本質的な問題から目をそらしているとも言える。何より、期せずして「人の本質は魂にある」ことを反証しているのではないか。

 目線を変えて、ゲーム全体の構成を振り返ってみると、兄妹という壁を越え渚と両思いになる第一部、その直後に起きた悲劇を描いた第二部、これは一粒で二度美味しい構成だと思う。ハピエン厨な私としては第二部を『After…』どころかAnotherだと思えば、いろいろな可能性を見せてくれるという意味で鬱ゲーの存在意義を知ることができる作品であった。第二部は正史でないのだ。そう自分に言い聞かせたい。

 それから思うのは、実妹という設定の重さだ。第一部の最終盤で両思いになったとはいえ、実の兄妹という壁を何らかの手段で壊さなければ2人は幸せになれないということを、第二部は荒唐無稽ながら物語っている。このような展開である必要はないにしても、何らかのブレイクスルーがなければならない、この2人の物語は第一部だけでは決して丸く収まらないということを、第二部は結果的に示している。これが個人的にはきつかった。致命傷である。なんとか、なんとか2人の「間」にある壁を乗り越えて、幸せに向かって一歩を踏み出した高鷲兄妹だが、それだけでは足りない、それだけでプレイヤーは2人を祝福してはならないと見せつけられた気分だ。この2人の関係性を否定的に強調するために、慶生という第三者、「普通に渚を幸せにする」可能性を持った人物は存在したのだと言える。第二部の感想は駆け足でお送りしたが、第二部の役割としては、この慶生という壁を乗り越えるための物語でもあった。ぶっちゃけ、プレイ直後はとんでもねえくそシナリオだぜくらいに思っていたが、こうして振り返るとファンタジーで強引だったとはいえ、この祐一と渚の物語は美しくまとまっている気がしてきた。こうした過程で渚がいわゆるヤンデレと化してゆく描写もまた、実妹という設定の重さを表現しているし、説得力もあり、美しい。

○おわりに
 プレイ直後。致命傷を負った私は、渚ルートを再プレイするでもなく香奈美ルートをやってみるでもなくすがるようにヤフオクなどでこのほぼ20年前の作品のグッズを漁った。Tony氏のCielブランドアートワークを買い求め、渚のテレホンカードを入手し、ファンディスクを収めた廉価版をポチった。もともとPCアダルトゲームなのだ。そもそも移植時にけっこうな描写が割愛されていることだろう。PCアダルトゲームに手を出すのは『カスタムメイド3』以来である。WindowsXPまでバッチリ対応している。いまのPCで動くんでしょうか。

 なぜ、なにがここまで私に致命傷を、渚という爪痕を残したのかわからない。とにかく原作が届き次第あらためてプレイするつもりだし、しばらくはこの傷を癒やすため私はさらにこの沼にひとり身を沈めることになるだろう。
 とにかく高鷲渚は可愛かった。いろんな思いは交錯するがそれは間違いない。『After…』。素敵な実妹ヒロインをありがとう。

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