白昼夢を見た


<白昼夢>
マラソン。どこでもない場所から眺めている。スタートラインですらない。
レースの参加資格がない。俺には、ゼッケンがついていない。

目の前を、人々が通り過ぎていく。
好きな人達がいる。好きだった人達もいる。みんなの姿も、そのうち見えなくなる。
俺とみんなの距離が離れるたび、俺の存在は霞にように消えていく。みんなの記憶からも、俺は消える。俺の存在は消えていく。そもそも、存在していなかったと思うだろう。存在していたのかを疑わしく思うだろう。幻なのかもしれない。

一緒に走りたいと思うが、資格がない。
ずっと、レースに参加しているつもりだった。でも、それは間違いだった。コースを走ってるつもりだったが、ずっと違和感を感じていた。みんなと同じように走れない違和感。
同じコースじゃなくて、違うコースを走っていた。同じコースを走りたいのに、コースに入れない。見えない壁で阻まれている。
俺は、立ち尽くしている。

マラソンの中継で、歩道を必死に走る観客をみたことがあるだろう。あれが俺だ。選手の視線には入らないが、気配だけ感じる。そして、数秒後にはその存在が記憶から消える。

見えない壁でそばに行けない。

人々が走りだし、ときに手を取り合い、ときに競い合い、恋をして、愛を誓い、愛を失い、別れていく。
俺も、レースに参加したかった。

今後俺がレースに参加できるのかどうか、誰にもわからない。
みんなにとっては、俺はいないものと等しい。夢のようなものだ。存在したのかしなかったのか、怪しいもの。

ゼッケンのあるフリをして生きてきた。だから、普通の人のマネが得意だ。

とはいえ日常生活は、みんなが走っているコースの中にある。コースから外れてこの世界で生きていく方法を、俺は知らない。
だから、ゼッケンがないまま、ゼッケンのあるふりをしたまま、俺はコースで立っている。自分がいるべき場所ではないとわかっていながら。そうしないと、現代社会では、ごはんを食べることができない。
<ここまで>

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