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プラハの夜

ヨーロッパに行ってきた。フィンランド、チェコ、ドイツ、オーストリア、ハンガリーをめぐる17日。ひとりで旅行はちょこちょこしてるけど、現地に知り合いのいないまったく初めての国に行くのは6年前のアイルランド以来だった。

チェコ・プラハでの話。人形劇を見た帰りに入った店でビールを飲んでると、常連らしきおじさんがよろよろと店に入ってきて「ここいいか?」と僕の前に座った。正確には、チェコ語でそれっぽい雰囲気で話しかけられただけなので、実際にはなんと言っていたのかはわからない。ごきげんにワインを飲みながらチェコ語でしゃべりかけてくるのだけど、僕がうんうんと聞いているだけで彼は満足のようで、店のお姉さんはいつものことのように苦笑している。僕はビールをもう一杯頼んだ。「マギンカ、きれいだろ。化学の学生なんだ」

カタコトの英語で音楽は好きかと聞くのでイエスと答えると「俺のCDをあげるよ」とかばんからCDを出した。ミュージシャンだったのか。「俺は人が好きなんだ。アメリカ人、フィンランド人、日本人、関係ない。プラハのことを思い出したらこいつを聴いてくれ」と僕の肩を叩いた。

ひとつの場所を好きになるということは、その場所の人を好きになるということととても近くて、それがよくわからない自称ミュージシャンのおじさんだとしても、街に認められた気になる。プラハはいい街なんだと思った。

自分がお勘定してるあいだに彼は帰っていった。ビールを2杯飲んだのに、マギンカは笑いながら1杯分の40コルナにまけてくれた。


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