見出し画像

1Kの宇宙

山口君、展覧会しない?
と、俳優の赤星マサノリさんに誘われて、グループ展に参加した。

自分が企画している展覧会で「音楽と演劇の年賀状展」という、いろんな音楽家や俳優さんから届いた年賀状を展示するという企画がある。年賀状展を始めたのは、自分には作りたいもの、表現したいもの、伝えたいこと、みたいなのは特になくて、自分が前に出るんじゃなく、自分の好きな人と一緒に何か作りたいなと思ったのが最初の動機だった。
それは今も変わらなくて、自分にはやりたいことってあんまりない。やりたいことは、ふだんの仕事や生活でだいたいやれてるからかもしれない。自分の作品つくったりしないんですか?と聞かれても、作品というか、作りたいものないからな〜とお茶を濁してたところがある。

そこで今回のグループ展のお誘い。今までの自分だったら遠慮していたかもしれない。それを今回やりたいなと思ったのは、ずっとやってみたかったけどやってないこと、舞台美術、演劇の舞台美術やってみたいんだった!ということに気づいたからだ。演劇のチラシはいくつも作ってきたけど、大学卒業以来、演劇そのものを作ったことはない。この機会に、本気で「演劇」を作ってみようと思った。(誘ってくれたのが赤星さんで、他のメンバーも、このみなさんだったらやってみたい!と思ったのも大きな理由だけど)

ということで、アパートの一室に黄色い部屋を作った。出演者のいない、架空の演劇の舞台。2002年、自分が大学に入学した頃のことを演劇にしたらという設定にして、18歳の自分の下宿部屋を作った。実際は実家住まいだったから、当時の自分だったらこんな部屋になってただろうなーという想像だ。壁に貼っているセリフも実話、というか実際に交わした会話が元になっている。

ふだん自分が仕事で作るものはグラフィック、つまり平面なので、そもそも舞台美術どころか、立体物を作ることはめったにない。やるからには半端なものにはできんぞと思い、関西の小劇場を中心とした舞台美術を数多く手がけている松本謙一郎さんに「こんなことやりたいんです」と相談し、図面作成と製作をやっていただいた。(それ、ほぼ全部やん…)という感じだけど、自分ひとりではマジでできないのと、こういう案件に前のめりで楽しんでもらえて、かつ信頼できる方とご一緒できるのは頼もしいし、何より、たのしい。

松本さんに作っていただいたパネルに僕が色を塗り(それも松本さんに手取り足取り教えてもらいながら)、会場での建て込みは舞台美術家の竹腰かな子さんにやっていただいた。そこに、Illustratorでデザインして大判出力したペラペラの家具をダンボールに貼って、黄色い部屋に設置。

「自分が大学入学した頃の下宿部屋」という設定は、1Kというコンパクトな間取りだからという理由だったけど、今にして思えば18歳の頃って目にするもの触れるものすべてが初めてでどきどきしていた。いま自分が35歳で初めてのことをやってみるどきどきの感じ、ちょっと似てるというか、重なるところがある。壁に貼ったセリフも、何かこれから物語が始まりそうな、そんな始まりの匂いのするものを思い出しながら書いた。

お客さんの入口であるはずの客席と舞台を反転させた(つまり、お客さんが部屋に入るといきなり舞台上に出て、その向こう側の客席から見つめられることになる)のも、学生劇団に入ったばかりの18歳の初舞台の感覚を、強制的に追体験させるという仕掛けになった。

今まで自分が作ってきたものは、機能的というか、意味があることが前提なので(仕事だからそりゃそうなんだけど)ただただ自分の思いつきを本気で作るということが新鮮で、かつそんな大人が7人集まってそれぞれの作品をつくる様子がすぐ近くにあること、とてもどきどきした。大人になったらこんなことができるんだな。これはたぶん、18歳にはできない。(そしてもちろん、18歳にしかできないことは山ほどある)

黄色い部屋の入口に掲示したセリフは、こんな台本の冒頭から始まる。18歳の僕が見た宇宙は二度と見れないけど、それとはちがう宇宙を自分で作ることはできる気がしている。

『2002』

1Kの部屋。
舞台奥には簡易的なキッチンがあり、下手にはトイレと風呂。上手にはCDコンポやデスクトップ型のパソコンが置かれている。部屋の狭さのわりに不釣り合いな大きな窓がある。

暗転

僕「舞台ソデで、役者たちが全員手をつなぐ。暗転になり、先輩に手を引かれて、僕らは真っ暗な舞台に飛び出す。舞台上のあちこちに貼られた蓄光テープが暗闇に光る星に見える。ああそうか、宇宙はこんなところにあるんだ、と思う。そこは大学の古くて汚い講堂の地下に作った舞台だったけど、まぎれもない、18歳の僕が生まれて初めて見た宇宙だった」

明転​

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?