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はたらくすべてのお父さんとお母さんに

谷町六丁目に往来というお店がある。
コワーキングスペースと言って、2時間から借りれる気軽なシェアオフィスなんだけど、電源とWiFiがあるだけの8畳和室だから、設備はしょぼしょぼだけど、畳でゴロンとできるという点で、世界でいちばんくつろげるコワーキングスペースだと思っている。
僕はそこのスタッフをもう6年ぐらいやっていて、毎週火曜に店番をしている。

「4ヶ月のこどもと一緒なんですが、大丈夫でしょうか」という電話があった。やってきたのは赤ちゃん連れの女性。
職場復帰に向けて準備をされるということだったんだけど、ひとりで4ヶ月の赤ちゃんを連れてでも仕事をしないといけないなんて、切羽詰まっている状況ということはすぐわかる。
しないといけない仕事は山積みなのに、子の世話に手を取られ、ただ茫然と荒れていく部屋と過ぎていく締切を眺めるしかなかった2年前の自分の姿を思い出す。

そんな貴重な時間のために来てくれたんだから、集中できるよう尽力しようとしたけど、どれくらい効果があったのかはわからない。
ちょっと赤ちゃんがフニャーとかわいい声を上げるだけで、すいませんすいませんと謝られ、大丈夫ですよ〜むしろその声が癒しですから〜と返していた。赤ちゃんを連れて、ふだんどれだけ肩身の狭い思いをして生活されておられるのか、想像に難くない。

僕の場合、さいわい理解のある人たちに囲まれていたおかげで、子を抱っこしながら打ち合わせに行ったり、仕事に割ける時間が少なくても、なんとかやってこれたんだと思う。
自分は自分のおなかをいためて出産したわけじゃないから、女性にしかわからない出産や産後の大変さを理解することはできない。でも、乳飲み子を抱えて仕事をしないといけない人の気持ちはわかるし、そんな人が肩身の狭い思いをすることのない場所をつくることはできる。そんな理解のある人や場所があたりまえにある世界であってほしいと思う。

少しは進みましたか?と帰りぎわに聞くと「ちょっとだけですが…」と苦笑いされていた。
あのとき僕が抱っこしていた0歳児は2歳になって、永遠に感じていた何もできない時間も終わりが来た。大丈夫、大丈夫ですよと、いまの僕ははたらくすべてのお父さんとお母さんに言いたい。

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