ショートショート「幸せ陳述」

幸せ陳述 

最愛の妻を不慮の事故で亡くし、息子と2人で暮らし始めてから約1年。
同じ境遇のシングルマザーであるユミさんと出会い、深い関係になるまでそう時間はかかりませんでした。
何度もデートを重ねる度に私は、彼女と結ばれたい。そう考えるようになりました。
しかし、妻はもうこの世にいないとはいえ、他の女性と結婚するなんてこと、果たして許されるのか・・・
そんな私の心を見透かしたのか、息子は
「ママだってパパが幸せになることきっと望んでいるし、僕もパパに幸せになってほしい」
と・・・
今までせき止めて続けた涙が一気に溢れてきました。
もう一度、私も幸せになろう。
ただ、もう一つ悩みが。
血の繋がらない彼女の娘を自分の子供と同じように愛せるのかと……
ですが、そんな悩みは杞憂に終わりました。
彼女の娘は私のことを本当の父親のように慕ってくれ、私もまた実の息子と変わらない愛情を注ぐようになりました。
守るべき存在が2人増えてからの生活はこれ以上ない程、幸せで、そんな中で私はとても大切なことに気づいたんです。
赤の他人でも血のつながった子供と変わらずに愛せるなら、わざわざ自分の子供を産むなんてコスパが悪いなと。
だってそうですよね?そんなことしなくても孤児院で適当に見繕ってくればいいんだから。

 2

そんなこともあり、MAXで27男31女の60人家族になりました。
ある日、14男の健太が犬を飼いたいと言い出しました。
責任を持って動物を育てるというのは教育にもとても良い。
保健所に保護犬を引き取りにいくと、スタッフの女性が
「今日からこの子はあなたの家族の一員です。大切に育ててあげてくださいね。」
私はハッとしました。
家族。私は人間が犬よりも上の存在で家族ではなくただのペットだなんて考えていました。
また、大切なことに気づかされました。
子供の成長のためにと取った行動で私もまた成長することが出来たのです。
犬だって家族なのですから人間である他の子供達と差をつけることは出来ません。
そこで私は子供達を無料で希望者に譲ることにしました。
よく考えてみたら、子供2人の時点でこれ以上ない程、幸せだったんですから、更に子供を増やすなんてコスパが悪かった。
子供を望んでいる方に譲って幸せにしてあげたい。
しかし、不思議と誰も譲り受けたいという人は現れません。
犬の場合と一緒なんですよ。
私は犬が欲しければ保健所の殺処分されてしまう犬の命を救った方が良いと思うのですが、多くの方はペットショップで販売されている犬を購入していきます。
そこで私は、自分の子供たちをショーケースに入れて値段を付けることにしました。
不思議なことに売れ行きは最悪で在庫は一向に減りません。

 3

私に経営者としての素質がないのかと落ち込んでいるところに更に不運が訪れました。
非売品の2人の子供の内1人が、不慮の事故に合い命を落としたのです。
あぁ、何故2度もこんな目に・・・
深い悲しみに囚われ、落ち込んでいる私にユミさんは慰めの言葉をかけてくれました。
ユミさんは血の繋がった娘以外、さほど愛していないので心に余裕があったのです。
「心配しないで、あの子はいつまでもあなたの心の中で生き続けているから」
そうか・・・・・・私の心の中で・・・・・・。
そうだ、私がしっかりしないでどうする。
一家の大黒柱なんだ。
私が大切なことに気づけるのは、いつも決まって大切な家族のおかげでした。
子供は死んだって私の心の中で生き続けるんだから、たくさんの子供を生かしておくのはコスパが悪い。
早く殺処分しないと。
 

 4

私はショーケースの中の子供を地下のガス室に連れ込み泣きながらレバーを引きました。
あぁ、人を自分の手で殺めるとこんなにも罪悪感が付きまとうのか,,,
私は自分の家族を殺すまで、そんな簡単なことにも気づけなかったんです。
一人、殺すごとにこれ程に精神を擦り減らすなんてコスパが悪い。
一度に大量の子供を殺せるようガス室をリフォームしました。
今度は、天国で幸せになってほしいのでレクイエムを歌いながらレバーを引きました。
沈みきった心をユミさんに慰めてもらうことは、もう叶いません。
血の繋がった最愛の娘を失った彼女は生き続けることを選びませんでした。
保健所から引き取ってきたジョンと2人きりになった私は消えてしまいたい思いでいっぱいでした。
犬を飼いたがっていた健二はもうこの世にいません。
俺よりも健二の傍にいてやってくれ。
私は一人きりになりました。
どうして、こんなことになってしまったんだ。
ただ幸せになりたかっただけなのに。
天国にいる最初の妻はどう思っているだろうか?
・・・・・・そこで私は生まれてから今まで、固定観念に囚われとんでもない勘違いをしていたことに気づきます。
死んで魂になっても意識が存在し続けるのだから、不要な肉体を保つなんてコスパが悪い。
魂だけの存在になるため、屋上へと昇る私は一段毎に今までの人生を悔やみ始めました。
どうせなら家族の待つ天国に行きたかった。

 5

重力に従い、数秒後の死を待つ中で1度経験した人生を反芻していました。
・・・えぇ、走馬灯というやつです。
本当にあったんですね。
走馬灯のおかげ救われましたよ。
冷静に自分の人生を顧みることができましたから。
人生の酸いも甘いも味わいつくしたんだから、輪廻に組み込まれもう一度、生を迎えるだなんてコスパが悪い。
だったら地獄で永遠の苦しみを味わい続けた方がまだマシだ。
・・・・・・以上がここに来るにあたった経緯です。
10年以上待たせられたもんだから、思い出すのに苦労しましたよ。
私の後ろにも凄い行列だ。
私みたいな極悪人なんか詳細に話を聞くまでもなく地獄行きに決まってるでしょう。
そもそも私自身地獄行きを望んでるんだ。
閻魔様、あなたの働き方はコスパが悪い。

~Fin~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?