見出し画像

チューブアンプについて語っておきたいこと全て ①


 先日偶然見つけた動画がこちら。


 ソルダーノ(SOLDANO)SLO-100の、この場合は再販というべきなのだろうか、製造が開始されたのだという。
 創始者マイク・ソルダーノが廃業を宣言したのが2018年だったが、いろいろあってブランドは存続、マイクもデザイナーとして製品に関わり続けるということらしい。
 さらに言えば日本の輸入代理店もたっており(モリダイラ楽器)、そのフォローを受けられるのだから喜ばしい。ソルダーノは長いあいだ代理店がなかったのである。

 とはいえ、現行SLO-100の価格は税込で70万円を超える。
 ソルダーノの栄光の歴史を知っているギタリストにとってはまあ、納得できる…かどうかギリギリかもしれないが、その価値が十分にあると感じられるはずだ。
 だが、現在の30代から下の若い世代にとってはどうだろうか。何とも不思議な、強気すぎて納得しづらい価格に思えるに違いない。

 
 エレクトリックギター用アンプリファイアー、しかも増幅回路に真空管を用いたチューブアンプ(以下TA)を選ぶこと、正確には自己所有したTAをステージで鳴らして自分の音をオーディエンスに聴かせるという道を選ぶギタリストは、私が楽器屋店員だった2000~2010年代に比べて確実に減っている。
 それは同時に、現在の若い世代のTAに触れる機会が減っていることでもあり、さらにTAのサウンドがどれほど素晴らしいのかを理解するチャンスも減っていることでもある。

 今回はTAの自己所有を検討しているシリアスなギタリストから、楽器店で試してみたTAのサウンドに興味が湧いたという程度のライトなプレイヤーまで、TAを鳴らすことの意味というものをお伝えしたいと思う。

 長くなりそうなので2回連載とし、第1回はマルチチャンネルやエフェクトループ、出力切替等の付加機能を搭載した90年代以降の「モダン」TAを主に採りあげたい。



 なぜギタリストはTAを選ぶのか。歪むからである
 この「歪み」が生まれるメカニズムは非常に複雑でひと筋縄ではいかないのだが、要約すると;
①大音量を得ようとしてパワーアンプ回路に過度な負荷をかけると歪みが発生する
②パワーアンプ回路から信号を受け取ったスピーカーが負荷に耐えられず音の「割れ」が発生する

 このうち②はスピーカーディストーションと呼ばれ、時代が下ってスピーカーのコーン紙やヴォイスコイル、そのマグネット等が改良されるにしたがってサウンドの中の比率が下がっていったが、ワイルドで刺激的な「割れ」感や、シングルノートを弾いた際のコンプレッション(圧縮)感を求めてスピーカーの選択に頭を悩ませるギタリストは現在もいる。

 ①のパワーアンプ回路の歪みについて、要因をもう少し書き出すと;
〇負荷がかかった状態でエネルギーの大きい信号、特に強いアタックで低音を鳴らすと回路内の電圧が低下し、音に割れやにじみが発生する。
 これをサグ(sag)と呼ぶ。

 サグを減らすには回路の出力に余裕を持たせるのが効果的である。フェンダー(FENDER)の、ステージで鳴らすコンボアンプが40ワット前後だった50年代から、マーシャル(MARSHALL)が特注モデルで200ワットを叩き出すまで10年ほどしかかからなかったが、TAの高出力化はサグを含む音質劣化の防止という時代の要求の産物だったのである。

MARSHALL Major 200


 また、整流回路のソリッドステイト化もサグの低下に関わっている。
 コンセントからの電流は交流であり、これをTA回路内で使う直流に変換するのが整流回路なのだが、50年代までは真空管を用いる設計が主流だった。
 シリコンダイオードの開発と普及が進むと真空管整流はあまり顧みられなくなるが、TAの高出力化とハイゲイン化が進んだ90年代後半にメサ・エンジニアリング社は真空管整流の生み出すブルージーで味わい深いトーンに注目し、ダイオード(ソリッドステイト)と真空管(チューブステイト)の2系統の整流回路を搭載してスイッチで切り替えるという手法を編み出した。
 もっともその製品はMブギーの新たなるモンスターアンプとして人気を博し、シリーズ名のレクティファイアー(Rectifier)の、整流回路という意味があまり顧みられなくなってしまったのは皮肉というよりほかあるまい。

最初期型デュアル・レクティファイアー・ソロ・ヘッド


 他には真空管の規格も関係している。
 フェンダーが多用したことで後の、特にUSのビルダーがパワーアンプ回路に選ぶ6L6という真空管がある。

JJ(旧テスラ)製6L6GC

 この6L6と互換性のある真空管というものも存在し、例えば

ソヴテック製

5881はTAでもしばしば採用される。
 一方で

Tung-Sol製 

KT66という規格も6L6と互換性があるのだが、ハイグレードなオーディオ機器に使われることはあってもTAに純正搭載されるケースは少ない。これはKT66が軍規格品であり流通量が少なく高価だからである。
 耐久性が高く、個別の品質のバラつきが少ない軍規格品は信号の増幅素子として最良とされるのだが、あくまで音響機器、しかもスタジオ据え付けではなくミュージシャンが出先に持ち出し、ラフな扱いを受けることも多いギター用アンプリファイアーに用いるにはコストが見合わなかったのである。

 結果として、動作が安定せず増幅素子としての性能が低い真空管を搭載したTAが、しかし、そうそうたる名手によって素晴らしいトーンを響かせたことによりギター用アンプリファイアーにとって「歪む」‐パワーアンプ回路に不随意に発生するディストーションが美質とされる傾向が生まれたのである。


 真空管についてもう少し触れると、現在でもTAに用いられる真空管はロシアや中国が製造元の、増幅素子としての品質や動作の点で二流とされるものが多い。
 もっとも、二流というのはピュアオーディオ機器に用いるには「純度」がイマイチという意味であって、ギター用アンプリファイアーにとっては必要にして十分な性能を備えているというべきである。
 それをアンプファクトリー、例えばメサ社は大量に仕入れて自社の装置で試験を行い、基準をクリアしたものを製品に用いている。
 さらにはグルーヴチューブ(GROOVE TUBE)社のように真空管のテストだけでなく動作が近い真空管を2~4本またはそれ以上組み合わせて販売することで真空管交換の際の、真空管の品質を揃える手間を大幅に省いたことで好評を博したサプライヤーまで登場したのである。
 真空管の供給の未来についてあまり楽観は出来ないが、かといって悲観して自己所有を諦めることはないだろう。



 60年代末のサンフランシスコでランドール・スミスが後にマークⅠと呼ばれることになるコンボを製作し、カルロス・サンタナの賞賛をきっかけとしてメサ「ブギー」なるブランドでTAの量産に乗り出した頃から、プリアンプ部の増幅段を増やすことで「ゲイン」=歪みの深さをある程度自由に調整する手法がとられていた。
 これに高出力なパワーアンプ回路を組み合わせることで、ゲインコントロールで設定した歪みを「純粋」に増幅し‐パワーアンプでの不要な歪みや割れ感を加えることなく鳴らすTAが組みあがった。
 それまでは十分な歪み感を得るために過大ともいえる音量で鳴らさなければならなかったTAが、ギタリストの望む適正な音量で演奏できるようになった。
 以降は歪みの深さをゲインで、最終的な音量をマスター(ボリューム)で調整する手法が主流となる。


 さらに時代が下るとTAを「ヘッド」=プリアンプとパワーアンプ、リヴァーブユニット等の一体型回路ではなく複数のコンポーネント、特にラック機材で組み上げる手法まで登場する。

JMP-1 今なお名作と推す声も多い
EL34 100/100


 2000年代に入るとそれまでの行き過ぎたハイゲイン化の反動か、クリーントーンの明瞭さに力点をおいた製品が好評を博すようになる。
 クリーントーンと歪みの切替はさらに重要性を増し、フットスイッチ連動のマルチチャンネル方式が一般的になる。
 さらに、エフェクトループ端子やDI端子、出力切替(フルパワー/ハーフパワー等)といった付加機能を採り入れることで、会場の規模やギタリストの求めるトーンの幅、録音環境等に柔軟に対応できる万能性を獲得した製品が主流を占めるようになった。
 もはやTAはバカでかい音を鳴らしてオーディエンスを圧倒するだけの無芸な機械ではなくなったが、同時に、ギタリストが自身の求める音に、それを実現するためのアンプの動作原理に無関心ではいられない時代になったともいえる。



 理想のギターサウンドを得るためのTAの自己所有の、先にデメリットを述べておきたい。

 まず、ランニングコストの面。はっきり言って高額である
 かりに100ワット超級のアンプヘッドを所有し、スタジオ練習やライヴ等で月平均100時間鳴らすとする。
 だいたい1年ほどで音量が大きくなったり小さくなったり、真空管の消耗によりTAの動作は安定しなくなる。
 さらに使い続けるとヒューズがとんでしまい電源が入らなくなる。こうなると専門の修理業者や、楽器店経由でメーカーの修理部門に預けることになる。 
 パワーアンプ管×6本の交換とそれに伴うバイアス調整だけでも2~3万円の費用がかかるし、回路内の他の、コンデンサや固定抵抗といった電気パーツが破損していた場合の交換も多く、いちど修理に預けると万単位の出費は避けられない。

 次にその修理の預け先である。
 正確には輸入代理店や製造元の修理部門が万全のアフターフォロー体制を備えているかである。
 マーシャルであればヤマハ・ミュージック・トレーディングが何十年にも渡ってメーカー純正修理を引き受けているし、ヴォックス(VOX)であればコルグ、ヒュース&ケトナー(HUGHES&KETTNER)ならパール楽器に預けれて問題が起きたことが無かった。
 一方で、特に輸入製品で、10年も経たないうちに輸入代理店が業務を止めてしまい、後継の代理店が立っていないものも残念ながら多くある。冒頭に挙げたソルダーノもつい最近になってモリダイラ楽器が代理店になったが、それまではいわゆるメーカー修理、純正部品を用いての修理調整を行おうにも依頼先が無かったのである。
 これは特に中古品を入手したり、知人から貰い受けたりするケースで困ることが多い。ネットオークションやリサイクルショップ、楽器店等でTAを見つけた際は購入を焦らず、輸入代理店がたっているかの調査ぐらいはしておいたほうがいい。

 代理店がたっていないブランドのTAの、特に中古を購入する際は事前にアンプの修理調整の、信頼のおける業者を探しておくことをお勧めする。
 もし問合せを受け付けてくれるのであれば
・ブランドとモデル名
・判明しているようであれば製造年または時期
・過去の修理調整の履歴と現在確認できる破損や不具合
を伝え、発生しうる修理作業・交換箇所とその費用の見込みを訊ねておく。それが高額すぎて困るぐらいなのであれば、そのTAは購入を見送るべきである。

 もうひとつ、TAは電気製品である。
 当たり前すぎるこの事実を、意外と多くのミュージシャンが忘れているのである。
 電気回路である以上、TAは
〇水気
〇ホコリ
〇衝撃

に弱い。
 しかもTAは真空管の動作に伴いかなりの熱を持つ。動作時の加熱と電源オフ時の冷却を何度も繰り返されて回路全体の、それこそ耐熱性能が非常に高いとされる固定抵抗さえも音を上げるような過酷な使われ方を繰り返している。
 最も効果的なのはケースを用意し、特に移動中にダメージを受けないよう慎重に運ぶことである。

 汎用型のキャリングケースも販売されていることだし、たとえ自家用車での運搬のみだとしてもケースは必須である。
 機材車やトラックでの運搬が主になってきたら

いわゆるツアーケースのような頑丈なケースの出番である。




 では、修理調整も運搬も手がかかる、本体そのものも高額なモダンTAを自己所有し、サウンドメイキングのかなめに据えるべきなのはどのようなギタリストか。

 まず、いうまでもなくヘヴィ志向のギタリストである。歪みの激しさと深さの追求において100ワット超級のモダンTAは今なお最上の選択肢であることに疑いは無い。
 私が楽器業界を去ってからも、8弦ギターのリリース、ダウンチューニングに強い追い風となるマルチスケールの普及、ジェント(Djent)系と称される新しいヘヴィネスの追求、といったムーヴメントが起きている。
 出力が低く、さらには口径の小さいスピーカーからヘヴィなサウンドを鳴らそうとしても、低音に偏りすぎた不明瞭な音しか得られない。 
 ハイゲインなモダンTAであれば、たとえ12インチ2発のキャビネットに繋いで鳴らしても低音は低音のまましっかりと響くし、他の音域がカバーされて聴こえづらくなることも少ない。
 まして、現在では12インチ4発の、マーシャルでいえば

1960Aが練習スタジオやライヴハウスにごく普通に置かれているのだから、TAの本領はいかんなく発揮できるだろう。

 それから、歪みの深さや激しさとは別に、ラウドで明瞭なギタートーンを得たいと考えており、しかもそれがデジタルプロセッサでは実現できないギタリストにもTAを勧めたい。

 ギブソンL-5やES-335等のフル/セミアコースティックギターを手にするリー・リトナーだが、ステージに据えるのはメサ/ブギーのレクティファイアー・ロードキングⅡである。

 モダンTAで見逃されがちなのだが、ハイゲインであるということは歪みの設定の幅が広いということなのである。
 小出力のTAではどうしても音域に偏りが出てしまったり、ノイズの乗り方が気になってしまったりすることがあるが、モダンTAを選ぶことでそういった制約から解放される。
 デジタルプロセッサにはノイズや音ヤセが少ないというメリットがあるが、実際にスピーカーから響くギターサウンドにヴァイタルな魅力が感じられにくい。
 高出力なTAを大型のスピーカーキャビネットに繋ぎ、全音域に渡ってスムーズに、不自然な偏りがなく響きわたるギターサウンドに勝る魅力はなかなか無い。

 もうひとつ、これはギタリスト本人の志向とは別に、ベーシストが多弦、特にローB弦を張ったベースをプレイしていたり、ドラマーがラウド&ヘヴィ志向のセッティングでプレイしていたりする場合も、高出力なモダンTAの力を借りたほうがいいと思う。
 ローB弦の生み出す低音のうねりは強力であり、対抗するためにはある程度の出力と口径の大きなスピーカーが必要になるからだ。
 ただしこれはモニタースピーカーの設定やマイキングでフォローできることでもあるので、あくまで参考程度と思ってほしい。



 最後に、もし私が知人の頼みか何かでTA選びを手伝うとする。
 予算にもよるが、近所の楽器店やリサイクル店でメサ/ブギーのデュアル・レクティファイアー・ソロヘッドを探す。 
 条件としては
〇少なくともスピーカーに繋いで音が出るところまで確認できていること
〇MIDIフットスイッチに対応した近年仕様であること

 のふたつを先に決めておく。
 初期型レクチの荒々しい歪みにも強い魅力があるのだが、多くの切替スイッチによる付加機能を搭載した近年製のほうがサウンドの幅が広いからだ。

 良さそうな個体が見つかったら、購入後にかかるかもしれない修理調整費を予測し、それでも予算内に収まるかどうかをしつこく確認する。
 運よく購入出来たらしばらく‐およそ1~3か月間は可能なかぎり週に3日以上アンプから音を出し、動作が安定しているか、ノイズが乗らないかを確かめてもらう。いわばTAのブートキャンプである。

 そのチェックの際に、付加機能である整流回路や各チャンネルの100ワット/50ワットの切替を色々試してもらってセッティングを詰めてもらう。
 特に、回路のプレート電圧を下げてサグを意図的に発生させる”Spongy/ Bold”のスイッチはギタートーンの輪郭を決定づけるぐらいに効果が大きいので、ぜひ試してもらう。

 もし不具合が見つかったら、残念だが修理業者行きである。とはいえレクティファイアーは日本国内に流通してすでに30年近く経っており、よほどひどい破損でないかぎり修理は可能なのでそう悲観することはない。
 修理が完了したら再びブートキャンプ、動作の確認である。

 ここまで時間と手間をかける必要があるのかと思われるかもしれないが、逆に、ここまで使い込み、セッティングを把握することで初めてTAの本質を引きずり出すことができると私は考えている。
 まして、出先のスタジオやライヴハウスに持ち出し、常に最良のトーンを響かせるには音場や音響まで計算しなければならないこともある。そのためにはTAの動作を深く理解しておくことが前提になるのだ。

 



 次回は50~60年代の設計をベースとした「クラシカル」TAについて書いてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?