エフェクトペダルの伏兵① Carl Martin Hot Drive’n Boost
世の中に星の数ほどあるエレクトリックギター用エフェクトペダルの中にはその実力があまり知られないまま低い評価に甘んじているものも多い。それらにスポットライトを当てることでミュージシャンの機材探しの一助になればと思い、この『エフェクトペダルの伏兵』シリーズを始めることとした。
記念すべき第1回で取り上げるのはカールマーティン(CARL MARTIN、以下CM)の歪み系ペダル、Hot Drive'n Boost(以下HDB)シリーズである。
シリーズ、としたのはこのHDBは無印の初代に続いて同mkⅡ(以下2)が登場、さらに2003年の誕生20周年を記念して同mkⅢ(以下3)がラインアップに加わったからである。さらに2はすでに生産完了しているので、新品で入手できるのは3のみということになる。
ただし初代はともかく2の生産期間は長期に渡ったため、中古市場の流通台数も多い。しばらくの間は2と3の比較検討とも可能だろう。
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CMはデンマークのEast Sound Research社のエフェクトブランドであり、HDBは1990年創業の同社の、最初期から生産の続くロングセラーシリーズである。
ここで唐突に他社製品の話になるが、現在では神話の域に足を踏み入れた歪み系ペダル、クローン(KLON)のケンタウルスが誕生したのは何年かご存じだろうか。
正解は1994年である。
ではHDBの初代が世に出たのは?これは20周年記念モデルである3がリリースされたのが2003であることから分かるように1993年である。HDBのほうが1年ほど早いのだ。
今では市場の評価に雲泥の差がついたふたつのペダルだが、共通項がひとつある。
それは回路の電圧である。一般的なペダルの9ボルトよりも高い電圧で回路を駆動させ、増幅回路の容量ともいうべきヘッドルームに余裕を持たせる設計を採り入れているのである。
これによりエフェクトを通した際の音ヤセが軽減される。
また、ピッキングの強弱による音色の変化が損なわれないため、表情豊かで反応の良いサウンドに変化する。
さらに、ノイズの影響を受けにくくなるというメリットもある。
といってもクローンとCMのとったアプローチは大きく異なる。
クローンでは9ボルトの電池およびACアダプタを電源とし、昇圧回路により文字どおり電圧を上げる手法を採用、18ボルトという高い電圧による回路駆動を実現した。
一方のCMが採ったのはAC電源のみ、つまり電池駆動不可、本体から伸びるACコードをコンセントに差すかたちでの電源供給のみとする代わりに回路を12ボルトで駆動させるという手だった。
冗談ではなく本当に電池不可なのである。
いちおうCMの名誉のために付け加えておくと、2016年の仕様変更により9ボルトのACアダプタが使えるようになり、あわせてボディからのACコードは無くなった。ただし、電池駆動は今なお不可である。
CMがHDBで目指したのは
〇チューブアンプに限りなく近い歪みの質感
〇ノイズの少なさ
であり、音量の大小にかかわらずスムーズな歪みを得るために設計されたというケンタウルスとは志向がかなり異なる。
また、最大20dBのブーストを実現したブースター回路が搭載されている。歪み回路の後に固定されており順番を入れ替えることはできないが、そのかわりブーストの単体使用が可能だ。
2020年代の基準で考えても、HDBの2及び3は優秀な製品だと思う。
まずノイズの少なさ。この10年だけみても歪み系ペダルの低ノイズ化がずいぶんと進んだが、HDBはかなり前から高い水準をクリアしていたものだと感心させられる。
歪みの質感は個人の好みにもよるが、ヒステリックで突き刺さるようなヘヴィディストーションを求めさえしなければ、かなり守備範囲は広いと思う。
特にシングルコイルのギターを鳴らす際の透明度の高さと反応の速さ、タッチの強弱の表現といった、リードプレイにおける高い要求にもこたえられる。ブーストがついているのでソロ時に重宝する。
またハイゲインなハムバッカーを搭載しているギターの、ソロ時の音の輪郭補正にも対応できる。ロウゲイン系ペダルだと低音や中音域がごっそりとやせてしまうことも多いが、HDBであれば心配はいらないだろう。
あとは2と3の違いだが、私の耳では2は中音域に厚みがあり太く艶やかなタッチに光るものがあると思う。
3は低音と高音の主張が強く、小音量でも聴きとりやすい。
大雑把な表現を許してもらえれば、2はマーシャル系、3はメサ/ブギー系である。
HDBにはイコライザーが無くアンプや他ペダルで補正する必要があるので、可能であればペダルそのもののキャラクターの差を聴き分けてから選ぶことを勧めたい。
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現行モデルの3はともかく2はもう、中古市場では悲しくなるぐらいの安価で流通しているので購入にあたってはそれほど覚悟は要らないだろう。歪みの質感と低ノイズを選考の条件に入れているギタリストであればいちど試してみてほしい。