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エレクトリックギター用にギターケーブルを選ぶということ

 モンスターケーブル(MONSTER CABLE)が2000年代初頭に引き起こした「ハイエンド」「プレミアム」ギターケーブルのブームを、私はその終焉まで楽器屋店員として一部始終を見届けることとなった。

 モンスター社の製品は現在も輸入代理店がたっており(キクタニミュージック)流通も途絶えていないことからその人気の根強いことが分かるが、一方、3メートルで諭吉一名を超える製品は多くが市場から姿を消している。


 ハイエンド/プレミアム路線のギターケーブルの多くが志向するのは伝達する信号のロスを極力減らすことによる再生音域のワイドレンジ化である。

 これはロスしやすい高音域の微弱な信号を可能な限りピュアに伝達することで明瞭なサウンドを得られるというもので、高音質な音響機器、ピュアオーディオで求められる特性と合致することもあり、線材の素材や構造の研究開発の成果の多くがギターケーブルにフィードバックされたようだ。

 また、これは特に多弦ベースやエレクトリック・アコースティックギターで実感することなのだが、ワイドレンジな特性のケーブルを通して得られるサウンドにはオーヴァートーン(高次倍音)がはっきりと聴きとれる。

 低音の塊のようなローB弦の音域にも実はオーヴァートーンがしっかりと重なっており、それが強弱や押さえるポジションによって微妙に変わること、ひいてはサウンドに微妙だが豊かな表情を与えていることに、ケーブルを含めた機材の変更がきっかけで気づいたミュージシャンも多いと思う。


 一方で、それまでのギターケーブルに比べて高音域が強調されているようにきこえること、強弱のアタックの差が大きすぎることに違和感を覚えるミュージシャンも多かった。

 私の経験ではそのほとんどがギタリスト、しかもエレクトリックギターをメインで弾くギタリストだった。


 だからといってギタリストが保守的だとは、私は思わない。エレクトリックギターに搭載されているマグネティック・ピックアップ(以下PU)の特性のせいだからである。

 後に圧電素子を用いたピエゾPUや過電流を応用したトランデューサー(レイスミュージック)が登場してもなおエレクトリックギターの主流であり続けるマグネティックPUは、その動作原理に由来する再生音域‐弦振動を電気信号へ変換する音域に限りがある。

 見方を変えればマグネティックPUがギターの再生音域に限界を設定してしまっている、ともいえるが、そのPUの特性をはるかに超えたワイドレンジな機材を接続してもギターから出ていない‐PUが拾いきれていない音は信号に変換されないため当然鳴らないわけで、エレクトリックギター以外の機材のワイドレンジ化を進めても、やがて効果があまり実感できなくなる時が来る。

 ギタリストはその、再生音域が拡張されているものの、ギターのもっとも「おいしい」音域がしっかりフォーカスされていない音像に違和感をおぼえるのだろう。楽器屋店員だった私が勧めるケーブルを試しても

〇高音域が硬い

〇音にツヤが感じられない

〇音がばらけすぎて弾きづらい

といった感想を寄せてきたものだ。

 こうして文字に起こしてみても実に抽象的だと思う。ギタリストにどのような特性のギターケーブルが向いているのかを見定めるのは実に難しいことだった。



 そんな難事を何度か乗り越えた結果、ギタリストから好意的な反応があったケーブルがふたつある。


 ひとつはエヴィデンス・オーディオ(Evidence Audio)のメロディ

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※画像クリックでHP

 同社の名を知ったのは15年ほど前だろうか。当時は石橋楽器が輸入代理しており市場への流通はごくわずかだった。入手にあたって石橋の店舗をふたつ回って見つけたことを覚えている。

 

 このメロディをはじめて使ったギタリストは、おそらくそれほど驚くことは無いと思う。高音域の出方は大人しく、強弱のアタックの変化もそれほど大きくは出ない。

 だが、エフェクトペダルやアンプを繋いでも音像が大きく変化することなく、音域でいえば5A~4D弦あたりがしっかりと出てくる感触はまさにエレクトリックギター用ケーブルである。

 また、ギター側とアンプ/機材側でつなぐプラグが決められた、いわゆる方向性有のケーブルであり、他からの交換の際にノイズの減少や反応の向上といった変化が感じられる可能性もある。

 

 もうひとつはヴァイタル・オーディオ(Vital Audio)のVPCである。

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 カールコードといえばヴォックス(VOX)一択と思われているふしがあり、実際に選択肢は少ないのだが、その中でサウンドと耐久性に重きを置くのであればVPCはまず外せない。

 カールコードは通常のストレートコードに比べ線材が多くなるので必然的に重くなる。

 そのため多くのケーブルでは線材を細くすることで重量を軽減するのだが、VPCではあえて直径6.5ミリという太めの線材を用いている。 

 線材の耐久性だけでなくプラグも十分な強度のものを採用しているし、細かいところではプラグからコードがカールするまでのストレート部が他製品よりも長くとられているのでギターやアンプの接続に余裕がある。

 カールコードは構造上の特性としてノイズが減るとか音の伸びが良くなるとか諸説あるようだが、確固たる科学的根拠はまだ示されていない。

 なのであくまで私と幾人かのギタリストの感覚でしかないのだが、VPCについてはやはりエレクトリックギターがマッチするものと思う。 

 なおVオーディオからは後にこのVPCの線材を用いたストレートコードが発売されたので、ご興味のある方はカール/ストレートの違いが生む音質の違いをお確かめいただきたい。


 


 最後にもうひとつ、サムネイルの画像に用いたディマジオEP1710も挙げておきたい。

 20年以上のギターのキャリアがある方ならあのナイロンのジャケット(外装)の、ネオンピンクやらアーミーグリーンやらの悪目立ちするギターケーブルをどこかでご覧になったものと思う。現在ではそれなりに高額な商品だが、かつては楽器店のワゴン売りでよく見かけたものだ。

 私は仕事で実際に使ったことがあるのでよく知っている。同価格帯のギターケーブルに比べると高音域の伸びがはっきりと感じられるし、極端な音域の偏りはあまり感じられないので歪ませても音がダンゴになりにくい。

 プラグはスイッチクラフト製を純正採用しているし、ナイロンジャケットの線材はねじれや曲げによる断線の耐性が高い。線材の柔らかさをアピールする製品の多くが耐えきれず断線を起こすような使用環境でもかなりしぶとく残っていたものだった。

 よくよく考えれば非常に優秀な製品なのだが、いかんせんディマジオ=ハイゲインPUのヘヴィディストーションという短絡的なイメージのせいでずいぶんと損をしているようだ。



 ある程度のキャリアのあるギタリストであれば、一度は高額なケーブルを試してみたものの、どうも音が気に入らないという経験がおありかと思う。

 エレクトリックギターの信号伝達にふさわしい特性と、必要にして十分な性能を備えており、しかも入手しやすいギターケーブルをお探しであれば今回ご紹介した3モデルをぜひ検討のテーブルにあげていただきたい。

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