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SHALLER M6 Vintage

 ダダリオ(D'Addario)のギター弦セット、EXL120といえばたいていのギタリストはすぐにピンとくるだろう。

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 楽器店で当たり前のように見かける、安定した品質と流通量でギタリストを、楽器業界を支える定番の弦だ。

 そのEXL120のなかの最も細い1E弦、つまりゼロキュウをギターに張り、レギュラーチューニングのEに合わせたときの「テンション(tension)」について即答できるギタリストはどれだけいるだろうか。

 テンションといってもここでは手や指が感じる張り感という意味ではなく、物理的な「ひっぱり」である。


 ダダリオの公式HPに掲載の数値は約5.69kg。スーパーで売っているコメの袋を連想できるだろうか。

 その弦を、ボディ側に固定しているのは?ブリッジだ。アコースティックギターであればブリッジピン(用いないブリッジもあるが)、エレクトリックギターであればテイルピースやトレモロ(ヴィブラート)ユニット、若干の違いはあるが基本は弦のボールエンドをしっかりと保持する。

 ではヘッド側は、そう、マシンヘッド‐ペグ、英語ではtuner、つまり糸巻きだ。

 しかもマシンヘッドには正確な音程に合わせるための弦の巻き上げ機構も仕込まれている。ただ丈夫なだけではなく機械部分の精度も要求されているのである。



 シリアスなギタリスト‐という表現を使わせてもらうが、音色だけでなく正確な音程で演奏することを目指すプレイヤーであれば自分のプレイするギターのフレットやネックの状態、弦の交換周期に、程度の差はあれ気を使っている。

 ところがマシンヘッド、ペグ、英語ではtuner、つまり糸巻きとなるとどうだろうか。おそらく多くのギタリストがストックのまま、長ければ20年以上は使い続けていることだろう。

 なかにはマシンヘッドのブランドとしてクルーソン(KLUSON)、グローヴァー(GROVER)、シュパーゼル(SPERZEL)、日本のゴトー(GOTOH)の名を聞いたことがあるという人もいるかもしれないし、ギブソンやマーティンのオールドギターおよびそのレプリカ系モデルを所有したことがあればグローヴァーのロトマティックこと102はご存じかもしれない。

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 102はふたつのギアをハウジングというケースに収め、グリスを詰めたうえで密封する構造をとったことで高い耐久性と精度を実現し、60年代以降多くのギターカンパニーの上位機種に純正採用されたことで歴史に名を残すことになった。現在でもロトマティックタイプという呼称がリプレイスメントパーツで用いられるし、「クローズドギア」マシンヘッドというカテゴリを確立したのが102であることに疑いはない。

 


 改めて、今回とりあげるシャーラー(SHALLER)のM6ヴィンテージだが、ヴィンテージの名は102と同寸同形状であることを示している。

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メーカーHP


 というのも、M6じたいが80年代から生産の続くロングセラーなのである。それが、おそらく権利関係に配慮してのことだろう、102とは留め付けネジの位置が異なるモデルしか生産されてこなかった。

 それが今ではこのヴィンテージの登場によりギターのヘッド裏面にネジ穴の跡を増やすことなく102からの交換が可能になったのだから、レスポール・カスタムやオールドのマーティンのオーナーはシャーラーに感謝すべきではないだろうか。



 楽器屋店員時代、マシンヘッドの交換を検討のお客様にシャーラーを勧めてもけっこうな確率で怪訝な顔をされた。

 理由は簡単、高額なのである。

 ゴトーからは形状こそ異なるが無加工で取り付けられるモデルが多くリリースされていたし、2000年代のグローヴァーは韓国での生産により価格が大幅に下がった。それらをパスしてでもシャーラーを選ぶことにメリットが見いだせない、という方が多かった。

 

 実際にM6ヴィンテージをギターに取り付けて弦を張ってみると、その動作のスムーズさに驚くことだろう。ここでいう「スムーズ」というのは単に内部ギアがスルスルと動いて弦が巻き上がる感覚を指すわけではない。それならゴトーやグローヴァーでも実現できていることだ。

 M6だけでなく、この際シャーラー製品全般といってもいいが、弦を巻き上げたり、逆に緩めたりしたときの、ツマミを回すのに合わせてポスト(軸)が動き、止まる、その操作感が他社製品と異なる高い水準を実現しているのである。これは数値で表せるものではない、文字どおり感覚的なものだ。

 なぜそのようなアナログな要素を重視するのか、それはギターという楽器にとってチューニング、調弦による音程調整が、ギタリストなら嫌でも行うルーティーンに他ならないからである。

 ギターテックを雇って全てを任せてしまえる、ごくひと握りのギタリストならともかくチューニングはギタリストの基本であり、この際断言してしまおう、義務である。チューニングを軽視したり面倒くさがったりする人と、私はつながりを感じることができない。

 今ではデジタル式チューナーが大勢を占め、クリップ式という手軽で便利なものもある。その針‐インジケーターとにらめっこしながらマシンヘッドのツマミを少しずつ回していく、その繰り返しの中で、弦が音もなくスルスルと巻き上がり、まるでゲームのように狙った音程がピタリと合うことの快感と幸福感を、実は多くのギタリストが忘れているのではないだろうか。

  

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 もしお使いのギターにグローヴァー102および同形状のマシンヘッドが搭載されており、長年の使用で消耗していたり、ぶつけて変形してしまい動作がギクシャクしていたりするようであれば、そして、そのギターをこれからも長く‐10年単位で愛用しつづける予定があるのであれば、シャーラーM6ヴィンテージに換装しても高額なパーツ代のモトはじゅうぶんに取れる。むしろ、¥14,960(税込)という価格に試されているのはギターのオーナーの、ギターに対する愛情と長期的な視野ではないだろうか。


※追記 2022年 7月 3日

 M6 Vintageの生産完了がアナウンスされました。

 後継機種のM6 90についてのレビューを投稿しておりますのであわせてご覧下さい。