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冷えたトマト

手首に実っていく
赤い果実を
実るたび 摘みとっては
野菜室にほうりこむ

わたし、静脈から
蜜が流れているんです
それで、わたし
怖くなって
咄嗟に
夫の名前を叫んだ
夫は
怖いくらい冷静に
大丈夫だよ
とささやき
わたしの手首を舐めた

夫の熱がつたわって
不覚にも
コウフク
になってしまった

摘んでも摘んでも
実っていく果実で
野菜室は満たされ
水色の光を跳ね返している

なにもかも
とりかえしのつかないまま
わたしの静脈を媒介として
果実はしずかに育っていく
それでも 夫を愛することはやめない
おとこの呼気で
わたしの肺胞を満たして
孕みながら
ゆっくり
いまかいまかと
破裂する瞬間を待っている

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