長崎戦~ピースマッチ

2018年8月11日 サンフレッチェ広島vs Vファーレン長崎 エディオンスタジアム広島

 1945年8月、2発の原爆投下により日本は敗戦を受け入れ太平洋戦争の終結を迎えた。その2つの被爆地である広島と長崎がJ1で対戦することによりこの試合はピースマッチと称され試合前には黙祷が行われた。
 そんな平和を祈る式典を行える長崎にはどことなく親近感を覚える。実際慮チームに広島と長崎出身の選手が結構多くそういう感覚を強くするのだった。
 8月の夜に似つかわしくじっとりとした蒸し暑さ。スタンドでは団扇を仰ぐ姿が多く観られたが、湿度を帯びた籠った空気しか来なかっただろう。この湿度、気温の中でスタートから前線の守備に走り回ったパトリックには前節の身勝手なプレーによって勝ち点を失ったことの反省があったのだろうか。
 ところがそんな前線からのプレッシャーも空しく長崎はボールをズンズンと前に運んでくる。動きにダイナミックさがある。左サイド裏へ出されたスルーパスでクロスを上げられた時、中央の和田の頭を超えてしまいやられたと思った。だがこれは鈴木武蔵のヘディングに威力がなくて助かった。危ない。長崎は以前対戦した時よりグレードを上げてきてる。その証拠にサンフレッチェがボールを持ってもすぐにパスコースを消されてしまいやけくそのロングボールを蹴らざるを得なくなる。結果、また長崎ボールになってしまう。
 それでもそれが裏を狙う動きにつながると徐々にボールを扱う時間も増えていった。右サイドのスペースに出るとパトリックが抜け出す。ドリブルでゴールを目掛ける。が、グラウンダーのシュート。枠に入らなかった。中には渡もいた。入らないならせめてパスを出してほしかった。
 それでもペナルティエリア前にいるパトリックはターゲットになる。サイドハーフから渡が上げたロングボール。競ったパトリック。ボールを収めようとルーズボールを拾おうとすると倒された。笛が鳴る。ゴール真正面のFKだ。
「よっしゃあ!」
 そんな雄叫びを一旦は上げた。だがすぐに冷静になった。なぜならそんな直接FKをサンフレッチェが決めたのを観たことがない。枠には入らないだろう。せいぜいどちらのサイドに蹴るか予想をしたが、GKが左に寄ってるので逆サイドだろうと思ってた。
セットした柴崎。審判の合図によりキック。次の瞬間ゴールの中に入っていた。それはあまりにも一瞬の内の出来事だったが左上のGKの届かない一点のスポットに決めたのだった。
先制、先制、先制。直接FK。こういう点の取り方は今シーズン初めてだった。得点にパターンができてきたことに大いに勇気づけられるのだった。
それでも1点では心もとない。パスも回せるようになってきた。それでも追加点を入れるまでに至らない。特にFWの渡は結果を出したくて仕方ないだろう。が、ティーラシンとの交代が告げられた。
ティーラシンのボールの収まりは攻撃に安定感をもたらす。ところが最初こそ攻撃への時間が目立ったものの次第に長崎の時間の方が増えていった。ああ、これはもう最初の1点を守ってこのまま終わらせるべきか。そんなことを思わせる時間になって川辺が柴崎に代わって入った。
上手く試合をクローズさせること、それが川辺の役目だった。本来攻撃でアピールしたいのだろうがまずは勝つことが必要だった。守備でも走りそこは役割をこなしていた。相手をサイドに追い込みスローインを得る。そしてそのスローインをパトリックが競ると中盤のスペースに。川辺が拾うとドリブルで突き進む。右にティーラシンが走ってるがそのまま縦に走る勢いを見せるも右に出した。GKと1対1になったティーラシン。飛び出したGK。その上をフワッと抜けるループシュート。入った。入った、入った、入った。追加点が決まった。もはや終了間近のそのゴールは勝利を決定的にさせるものだった。
アシストを決めた川辺と決めたティーラシン。交代した選手が結果を出したことはこれからのリーグ戦に明るい兆しを感じるのだった。
そして試合後にはスタンドからお互いにコール交換がされた。平和な瞬間である。勝ったことによる気分的な余裕もあったのだろうが同じJリーグを愛する仲間という雰囲気がいい。まさにそれはピースマッチの名にふさわしい光景なのだった。

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