浦和戦~寿人のゴール、勝利に沸く

2016/06/18 サンフレッチェ広島vs浦和レッズ エディオンスタジアム広島

「うわ、凄い人だ」

 スタンドを観た瞬間そんな感嘆の声が出た。それだけ注目されたカードなのだろう。それもそのはず、相手は元サンフレッチェの選手がたくさんいる浦和。これほどわかりやすい因縁はないのだった。

 だがこのところのサンフレッチェときたら先制しながらも5分以内に追いつかれてドローで終わっている。勝ちきれない。どうしても弱気な気持ちがわき上がってしまうのだった。

 それでも試合が始まるともう勝つことしか考えてない。そしてウタカにボールが入ると前に向いた瞬間にスルーパス。抜け出した柴崎。GKとの1対1をきっちりと決めたのだった。

 早い。こんな早く得点するとは。幸先がいい。幸先がいいがこの後5分堪えないといけない。

 浦和の攻撃が続く。バイタルエリアでFKから始まりクロスを入れられパスを回され。何か守ってる時間ばかり続く。こうやっていつも失点してしまう。マイボールにしたい。どうにかマイボールにして時間を掛けたい。

 どんなことをやってもボールが奪えない。シュートをブロックしたり何とか凌いでるがやっぱりボールを持った状態に持っていけない。FKを蹴られCKも蹴られる。それでもゴールを守ると気づいた時にはもう10分経ってた。これでもう落ち着きを取り戻せることができるか、そう思ったもののボールを奪ってもすぐにパスカットされてしまうのだった。するとワンタッチのパスを一旦は清水がヘディングでブロックしたもののそのルーズボールをかっさらわれてそのままゴールに叩き込まれてしまった。

 ああ、追いつかれてしまった。やっぱり堪えることができなかった。そしてその後訪れた柴崎の決定機をGK西川がファインセーブで防ぐとやっぱりもう点が取れないような気がしたのだった。

 依然として続く浦和の攻撃。どうにも浦和の方がプレスも速く攻撃にも迫力がある。ボールが取れない。何となく寄せが甘いような気がする。ディフェンスの森脇がバイタルエリアまで出てボールを受ける。ワンタッチで出されたスルーパス。突然横から現れた宇賀神のダイレクトシュート、決められてしまったのだった。

 ああ、まだ引き分けだったらよかった。もうこれで終わった。このところのサンフレッチェは追加点が取れない。なのでこれ以上点を取ることはできないだろう。そして広島のエンジンと称される青山が丸谷との交代でピッチを去るといよいよもって攻撃の目はないような気がしたのだった。

 だがハーフタイムを終えるとサンフレッチェはアグレッシブになってきた。監督の叱責があったのだろう。前からプレスを掛けて高い位置でのボール奪取ができる。そして浦和も人数を掛けた攻撃がなくなってきた。

 全体的に間延びしてきたことで浦和もカウンターで何度か際どい場面をつくり出してきた。入ってもおかしくないシュートを放たれながらも林のスーパーセーブなどで防ぐのだった。

 雰囲気は悪くない。スペースもあり展開が速くなってきた。チャンスはある。すると交代選手としてピッチの脇に立つ選手がいた。

 寿人だ。チームの顔、エースでありながら試合に出れない状況が続いてる。だが出れないのには理由がありボールをキープできないのだ。それでも寿人のプレーが観たい。寿人のいるサンフレッチェが観たい。そして何よりも寿人のゴールが観たいのだった。そしてそれはスタンドのサポーターも同じようでピッチに入った時には怒濤のような歓声が起こるのだった。

 交代したのはカズ。理屈的にはバランスを崩すような気がする。それでも寿人が入ることによりよりチームに躍動感が生まれた。攻撃に連動が生まれる。ゴールに迫る。ワンタッチ、ツータッチのこぎみよいパスが通る。シュートはいけなかったがCKを得た。

 柴崎の蹴ったCKは低い弾道だった。するとマークを外した塩谷がボレーシュート、ズドンと同点ゴールを叩き込んだのだった。

 追いついた、追いついた、追いついた。行ける。行ける、行ける、行ける、行けるぞ。まだまだ勢いは衰えを知らない。

 すると相手のクリアボールもディフェンスの塩谷が拾う。縦パスを出すとウタカからスルーパス。またしても柴崎が抜け出しシュート。入った、と思ったボールはポストにガツンと当たった。ああ、と天を仰ぎそうになった次の瞬間、その跳ね返ったボールをヘディングシュートを放った選手がいた。

 シュートはゴールに入った。そしてそのヘディングを放った選手は塩谷だった。いつの間にこんなとこにいたのか。守備の塩谷が2ゴールを決め逆転となったのだった。

 凄い、凄い、凄い。勝てる、勝てる、今日こそ勝つぞ。まだ試合は終わらない。失点だけは絶対にさせてはいけない。

 連動した守備がよくはまる。相手のクロスを通させない。ドリブルでの進入を許さない。ラストパスをカットする。するとフリーのウタカにスルーパスが出る。ドリブルで駆け上がるウタカ。シュート。決まったと立ち上がりそうになった時に響いたのは鈍い音だった。

 ガンッ!

 決まったと思ったそのシュートはポストに当たってゴールライン割ってしまった。得点ランクトップであるウタカに限って外す訳ないと思ってただけにガクッと腰折れてしまう。

 GKから組み立てていく浦和。ゆっくりと後ろから確実につなげようとする。と、この一瞬の内に現れた一つの影があった。不意をついてボールをかっさらうとそのままゴールにぶち込んだ。追加点、勝利をより近づけるゴール。それを決めたのは寿人だった。

 ドワーッという歓声がスタジアム一杯に沸き上がる。今日こそ、今日こそ勝てる。そして何より寿人が決めた。寿人がゴールを決めた。寿人はまだ終わっていなかった。まだ点を決めることができる選手だ。

 そのゴールにぼくは涙が出そうになった。まだ試合は終わってない。それでももうこの試合は絶対に勝てる。そんな気持ちにさせた寿人はやっぱり特別な選手なのだった。

 程なくして試合は終わりサンフレッチェは勝った。久々の勝利という以上に寿人によって勝ったというのがまた高揚感を高めるのだった。常々ウタカ以外に点を取る選手がいないと思っていた。そしてこの日はウタカのゴールはなくその他の3人の選手がゴールを決めた。いい時のサンフレッチェは何人もの選手がゴールを決めていた。そしてその中には常に寿人の姿があった。それを思い出させてくれた。

 これが浮上のキッカケとなれば。試合後ずっとそんな期待に酔いしれてしまうのだった。

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