ルヴァンカップ浦和戦~あえなく敗退

2018/05/16 ルヴァンカップ予選リーグ 浦和レッドダイヤモンズvsサンフレッチェ広島 埼玉スタジアム2002

 ちょうど仕事が一段落したことにより半休を取って会社から帰った。そして夕方に差し掛かる前の頃合いをみて駅に向かった。当然紫のレプリカユニフォームを着て。帰宅する学生とすれ違うとやはりこの格好は目立ってるような気がする。そしてこういう時に限って知り合いに遭遇したりするのだから決まりが悪い。仕事休んでサッカー観戦するのは明白なのだった。
 そんな平日の夕方、埼玉スタジアムへ向かう電車はかなり様子が違っていた。そもそも北越谷の駅に着いても赤いレプリカを着た人を見かけない。もしかしてシャトルバス出てないのではという不安に駆られたもののロータリーにはちゃんとバスが並んでてホッとする。しかも並んでる人はいない。余裕で座れる。客がいないのには盛り上がりに欠けるが行く分には快適なのだった。
 ところが二人がけの席に座ったぼくの隣にはぼくの倍は体積を持ってるおばちゃんが座ってきた。すみませんと腰の低い声かけと共に身体を収めた瞬間、めまぐるしい圧迫感が。うう、苦しい。でもそこは同じサッカー観戦仲間だと己を律するものの、そもそもバスの座席自体が狭いのに気づくのだった。
 徐々に夕闇を帯びてきたスタジアムが見えてきた時にはもう照明も灯がともっていた。コバルトブルーの空はぼやけた色彩だった。そしてバスを降りるとまばらな人の姿。確かに仕事を終えて来るには厳しいロケーションではある。それでもスタンドに入ると浦和の応援席ではサポーターが声の塊を出しているのだからお見それした。
 アウェイゴール裏の階段を上っていく。仲間は簡単に見つかった。それもそのはず、上段エリアにはほとんど人が座ってなかったからだ。
「今日は城福監督も勝負にきたねえ。ベンチにはリーグ戦のメンバーを揃えてきたよ」
 ドクトルが言うようにもはや出場機会を与えるというメンバーにしてなかった。それでも吉野、川辺、馬渡といった選手にうとっては自身のアピールがかかってる。ここで勝てなかった場合敗退が決まってしまい自らの出場機会を失ってしまうことになる。だからこそ尻に火のついたこの3人はきっと鬼気迫るプレーを魅せてくれるだろうと思っていた。
 ところが始まってみると完全に浦和にばかりペースを握られてしまう。あれ、と肩すかしを食らう。ボールの収まり所もなくパスミスでみすみすチャンスを潰してしまう。どうしたんだ、一体どうしたんだ。果たしてこれはスコアレスのまま前半をやり過ごす作戦なのだろうか。そう思うことにして見守っていた。
 するとティーラシンが高い位置でボールを受ける。後ろから身体を当てられ倒れる。ファールだろ、と思いきや笛を吹かない。ええ、あれがファールじゃないの?そして今度は渡がペナルティエリアで倒された。やったと立ち上がろうとするも笛が鳴らない。はあ?あの審判大丈夫か?そんな不平不満が立ち込めるがベンチの城福監督も当然抗議をしているのだった。
 そして後半になると渡をパトリックに代え勝負に出る。シュートらしいシュートの打てなかった渡はさぞ無念だったろう。ところがパトリックが入って劇的に攻勢を強めるという訳にもいかなかった。
 相変わらず松本が単純なパスミスをしてしまう。馬渡は右サイドでの勝負をためらう。プレーに迷いがある。思い切りのよさがない。安全に安全に行き浦和に楽に楽に守られてしまい攻めきれない。そうこうしてる内にカウンターを食らって全速力で戻る羽目に。一体何をやってるんだろう。
 すると笛が鳴った。何が起こったんだろうと思いきやPKを宣告されてしまった。ええ~、こっちのファールは取らなくて浦和にはPKをやるのかよ。信じられない。信じられなかった。こんなので点をやっていいんだろうか。林、止めてくれ。止めるよな。そして放たれたペナルティキック。横に倒れた林は両手でがっちり掴んだのだった。
「おおおおおおおおっ!」
 セーブした。まるで攻撃が機能しない試合試合において、一番盛り上がったシーンだった。でも往々にしてこういう盛り上がりはチームを生き返らせるものだ。
 前線でパトリックが競る。馬渡が拾う。サイドを駆け上がりクロスを入れる。
「違う、もっとえぐってから上げろ」
 ブロックされるのが怖いのかGKへのパスにしかならないクロスばかり上げる。ああ、馬渡ってもっと気の強い選手だと思ってたのに。こんなナヨナヨッとした選手だったのか。初めて観た時は迷うことなく勝負を挑んでいたイメージがあったのだが。
 それでも攻撃への圧力を高めようと柏、野上と入れていく。それでも前掛かりになればなる程中途半端な攻撃に終わりカウンターを受ける。そして李忠成がドリブルで2人のDFを振り切りミドルシュート。横っ飛びした林の掌にかすることもできずゴールの隅に入ってしまったのだった。
 終わった。正直そんな諦めを感じた。どこをどう観ても点が入りそうもないサンフレッチェにとってこの失点は絶望でしかなかった。それでも諦めず声を出す紫のサポーター。その気概にぼくも気を取り戻すのだった。
 相変わらず主審は訳のわからないファールを取る。そしてサンフレッチェの選手が倒されると笛を吹かない。そして時間が経つにつれその判定の不安定さは増していきもはや混迷を極めた。混沌は渦を巻き濁流の中に飲み込まれる。そして混乱の中で終了のホイッスルを聴くことになるのだった。
 負けてしまった。ルヴァンカップ敗退である。パトリックまで使って点が取れなかったのは痛い。だが敗退はこの1戦だけではなくその前もその前も負けてしまったからだ。そしてそれらの試合でも吉野、川辺、馬渡はスタメン起用されてたのである。チームを勝たすことができない。哀しいがそれが評価となってしまうだろう。
 結局のところこのルヴァンカップを若手に何をもたらせたのだろう。先制点を入れつつも守り切れない。劣勢を跳ね返せない。肝心なところでミスをしてしまう不安定さ。大会を通じて評価を下げた選手の方が多いような気がする。実のところ、敗退するよりもそっちの方がよっぽど辛い結果なのだった。

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