川崎戦~切迫感のない敗戦

2017/06/17 川崎フロンターレvsサンフレッチェ広島 等々力陸上競技場

 え、こんなに並んでるの!
 開門前に訪れたスタジアムの前には今まで観たことのない長蛇の列ができていた。負けて負けて負け続けているチームなのにそれでもここまで応援に駆けつける人がいるというのはこれはもう凄いことではないだろうか。
 だがここまで人が多いと場内に入って仲間と合流できるだろうかという不安もあったものの、2階席に上がるとすぐにドクトルが見つけて手を振ってくれたのだった。
「今日は満席になるだろうからね、席確保しといたよ。前よりアウェイ席を狭められてるしね」
 それによりアウェイエリアを縮小されてたのに気付いた。
「それはそうと移籍の決まった塩谷はこの試合来てないんだね。でもメンバー表観たらそれ以外の選手はいつもと一緒。代わり映えしなくてなんかガッカリだね」
 アル・アハリへ移籍の決まった塩谷。そのポジションに野上が入りボランチに丸谷が入る。そしてトップにはノーゴール連続記録を打ち立てそうな勢いの皆川である。どうにも予定調和的でパッとしない面子であるのは事実だった。
「最近監督批判もチーム内部ではあるみたいだよ。ま、それもしょうがないかもしれないけどね」
 確かに最近の森保監督には現状を打破できる力量が伺えない。同じメンバー、同じ戦術、同じ負け方、それを繰り返す様子は2006年の降格した時の状況にあまりにも似ている。もう監督自身も余裕がなくなり視野が狭くなってるのではなかろうか。
「いっそフェリペをFWとして使ってみてもらいたいけどな」
 出場機会がないブラジル人MFはシュートや球使いの技術には突出いたものがあるのは間違いない。シュートを決める人がいない現状でそれは奇策だが、選択肢の一つとしてあり得ると皆が理解を示してくれた。
 そもそもが最近のサンフレッチェには覇気がない。降格を免れたいという切迫感はないのだろうか。そんな疑問を感じていたものの、この日のサンフレッチェは前から果敢にプレスを仕掛けてきたのだった。
 相手ゴール近い場所でも素早く寄せてボールを奪おうとする。それが好機につながり前への推進力を高める。そして守備の場面でもことごとく攻撃の芽を摘んでいく。シュートに対しては身体ごとブロックする。そこに勇ましさを感じたものの、その勢いが余ってシュートが柏の顔面に直撃した。うずくまる柏。そのまま立ち上がることなく結局清水と交代したのだった。
 そこからどことなくトーンダウンしてしまった。さっきまであった勢いは完全に相手に持って行かれてまたしても守備一辺倒の展開へとなってしまった。ボールに寄せるも簡単にかわされパスを通されシュートまで行かれてしまう。それが外れてゴールキックになったとしても林のゴールキックはことごとく相手に渡ってしまう。そしてまた守勢に回る。守ってばかり、これもいつものパターンだった。
 するとパスを回されてる間に一瞬ゴール前がポカッと空いてしまう。そういう隙を見逃されず阿部が放ったミドルシュートはまっすぐゴールネットに突き刺さったのだった。
 ああ、またしても先に失点してしまったよ。ボール回されすぎなんだよ。プレスも身体を寄せるだけで全然効いてないし。だけどそれよりも何とか奪ったボールを前線に出しても皆川はちっともそれを収めてくれないのも大きかった。身体の大きい皆川はターゲットとしてまるで機能していないのだった。
 それでも点を取らないと負けてしまう状況になったことで重心が攻撃へと移っていった。森島が交代で入ると更に一層ギアが上がっていった。すると右サイドのミキッチがクロスから上がる。飛び込んだのは皆川。ドンピシャリのタイミング。が、その後はカツンという音と共にバーから跳ね返ったボール。
 決まったと一瞬立ち上がりかけたぼくらは腰砕けになった。
「ああ、皆川って本当にヘディング下手なんだな」
 思わず呟いたその言葉に誰も否定する者はいないのだった。
 攻める、攻める、攻める。これを波状攻撃というのだろう。川崎は守備固めとばかりにゴール前に張り付く。もはや攻撃一辺倒である。それなのにゴールが割れない。それもそのはず、トップの皆川はシュートが下手なのである。そしてシャドーのロペスもドリブルまではいいがシュートが枠に入らない。いかにサンフレッチェの前線の選手がシュートが苦手かというのをまざまざと見せつけられてしまった。
 それがわかっているものだから川崎も全員下がってブロックを敷く。でもこれってどのチームもやってくる戦法だ。先制点を取って後は全員下がって守備。毎試合同じことをやられて毎試合点が取れない。でも今日こそはそれを打破したいと左サイドの清水もクロスを入れてくる。
 ところがサイドからのクロスにサンフレッチェの選手は決まってクロスの軌道にポジションを取ってない。まるでそれはボールの来ないとこ、来ないとこに配置されてるかのよう。ずっと一緒に練習しててここまでズレてしまうというのは今世紀最大のミステリーだった。
 時間がない、時間がない。時間がない。そして崩せない。シュートが入らない。点が取れない。ああ、これだけ攻めていながらどうして決められないんだよ。
 アディショナルタイムに入りそして最後の最後に追いつくこともできず終了してしまった。そしてまた負けてしまった。声を枯らしてもまるで効果はなかった。
「前節もそうだったんだよな。失点しまくってどうしようもなくなってから火がついて。それができるんだったら最初からやれよって感じだよ」
 試合後挨拶に来た選手には皆が暖かく拍手で迎えたもののやはり釈然としないものがあった。同じことの繰り返し。中にはサンフレッチェ解雇されたらプロとして続けられるかどうか分からない選手だっている。そういう切迫感が感じられないのはどうしてだろう。色んなことが不思議に思えて仕方ないのだった。

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