FC東京戦~残留決定

2017/11/26 サンフレッチェ広島vsFC東京 エディオンスタジアム広島

 ミキッチ退団。
 その発表があった時、やっぱりそうだったのかという気がした。困った時のミキッチ、そんな台詞を言い合ったものだ。攻め手のない時、行き詰まった時、劣性にたたされた時、ミキッチにボールを割たして右サイドをドリブルで駆け上がってもらった。あんなスピード、あんなテクニック、あんな駆け引きの上手さ、それはもう憧れを感じてしまった。背番号14のレプリカユニフォームを着たサポーターは多かった。
 ホーム最終戦。勝ってミキッチを見送りたい。だがこの試合はそれ以上の意味があった。この試合の勝敗はそのまま残留の結果に影響するからだった。
 シーズン前、一体誰がこの状況を想像しただろうか。まさか4年間で3回優勝したチームが残留争いをやるとは。だがその原因を突き止めるとするとやはり新加入選手に行き当たる。補強の失敗といっていいだろう。稲垣、フェリペのように終盤になってやっと試合に絡める選手が出てきたものの、即戦力という見立ては大きく外れてしまった。
 そんな中、チームのパフォーマンスも崩れていき全く機能しなくんってしまった。ボールのつなぎ方もわからない、守備の仕方もわからない、連携をすることもできない、まるでそれは負ける為にやってるようなサッカーだった。そしてあれだけ胸躍らせたサンフレッチェのサッカーはつまらなく、気怠いだけの退屈なものとなってしまった。
 そんなチームの建て直しの為に就任したヤン・ヨンソン監督の元、徐々にサッカースタイルを変えていった。その集大成とすべき試合だった。
 サンフレッチェはボールを持つと有機的に選手が絡み合い、目まぐるしくパスを回す。そして気づいたら前線に。ワントップのロペスを目指すが中盤の青山も飛び込んでミドルシュート。枠には入らなかった。それでも入ったかもしれない。そんな感覚があったのか、虎視眈々とゴールを目指す青山のプレーがあった。
 そしてそれに呼応するかのように高橋が上がる。クロスを放つかと思いきや柏へスルーパスを出して2人の連携で相手DFを翻弄させる。クロスが跳ね返されたとしても青山始めリスク管理に備えてる選手によってセカンドボールが拾われまた攻撃は続いた。ボールがまるでピンポン球のように小気味よく動くのだった。
 ああ、この感覚。いつか忘れてた爽快感だ。ゴールが決まった訳ではない。それでもどこかで誰かが決めてくれそうな予感がある。そしてフェリペが中へ切れ込んでミドルシュートを放つとゴール前の誰かに当たって弾道がかわることでゴールに入った。ネットが揺れた。紛れもない先制点だった。
 ドワーッとスタジアムが沸く。一体誰のゴールなのか。すると得点者として柴崎の名前がアナウンスされる。おお、柴崎。今シーズンあまりにもシュートを外し過ぎた柴崎がこんな予期せぬ形で決めたのだった。
 勝利へ向けて、残留に向けての大きな足掛かり。このままイケイケでいけそうだ。これまでの鬱憤を晴らすように追加点を重ねていきたい。
 ところが後半、徐々に攻勢を高めてきたFC東京にCKを与えた。するとゴール前に飛び込まれたヘディングに対応できず失点を許してしまった。これまた散々悩まされたCKでやられてしまったのだった。
 同点。ああ。ここでガクッと落ちそうだった。ところがそんな感覚に陥らなかった。まるで振り出しに戻ったという事実に気づかないかのように。追いつかれたにも関わらず有利であるということに代わりがないかのように。
 すると再び攻勢を強めていくとフェリペがペナルティエリアに侵入する。多くのDFの壁が立ちふさがりここからは狙えないとあっさりと後ろへ下げてしまうと稲垣が受けた。テクニックのない稲垣。運動量でピッチを広く駆けめぐるのがストロングポイント。そんな稲垣が遠目の角度をつけたとこからキック。するとボールは放物線を描き綺麗な弾道でゴールの隅に入ったのだった。
 うおおおおおっ!
 雄叫びを上げてしまった。キックの正確さと精度がないとできないプレー。稲垣にあんなシュートが打てるとは。そして今シーズン一番の素晴らしきシュートだった。勝てない理由に稲垣の力量不足を考えたこともあった。まるでそれを払拭するかのようなゴールに本人も激高するのだった。
 この勢いに乗って追加点。そうなる気配はあった。実際ロペスが反転シュートを放つと決まったかと思った。だがFC東京も諦めてはいない。選手を代え攻撃への圧力を高めてきた。
 まるで引力が掛かってるかのようにサンフレッチェのゴールに向かってくる。ボールカットしようと跳ね返そうとどうにも反撃の芽がつくれない。もはや勝てればいい。堪えて、防いで、クリアして時間を稼げばいい。時間稼ぎのプレーをする。そうやって苦しい苦しい時間を集中力を切らさず切り抜けたのだった。
 試合終了。ホイッスルの響きは歓喜へのスイッチだった。沸き上がるスタジアムに残留決定の安堵の気持ちが漂う。
 よかった、よかった。言いたいことは色々あるがそんなことはどうでもよかった。降格を覚悟した時期もあった。それでもここまで這い上がったチームに誇りを感じる。チームを去るミキッチにもいい餞ができた。来年もJ1の舞台にいれる。今はただそれだけを喜び祝いたかった。

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