浦和戦~暑さから熱さへ

2018年3月4日 浦和レッズvsサンフレッチェ広島 埼玉スタジアム2002

 関東での初戦、そして浦和にとっての開幕戦。春の陽気に暑さを感じながらも用意周到に持ってきた防寒用のベンチコートが手に重い。浦和美園駅からの長い距離を歩いていると汗がにじむことで荷物のかさばりに後悔をするのだった。
 スタンドにたどり着くと仲間が確保したという席を探す。上の方、まだそれほど席が埋まってないことにより簡単に見つけることができた。が、それ以後どんどんと人口密度を増し仲間が階段を上るのを見つけるにつけ大きく手を振って誘導してやるのだった。
 浦和には勝てない。
 仲間との会話にはそのセリフが必ず出る。サンフレッチェから移籍した選手も多くペトロビッチ監督が就任してたという経歴からその存在はやはり気になってしまう。だが両者ともミシャのパスサッカーに行き詰まったせいか、かつて程因縁めいたものを感じなくなっていた。
 そんな時の経過を話し合いながら試合は始まっていった。序盤のサンフレッチェはパトリックのチェイシングが効いた。だがパトリックを走らせる為に蹴ったロングボールは意図より長くなりラインを割ろうとした。が、これがコーナーポストに当たってピッチに残るという珍現象が起きる。ボールを追うパトリック。そうはさせまいと走った浦和のDFであるがこれがサンフレッチェのスローインとなる。その時点で「あ、今日は運がいい」と漠然とそんなことを思ったのだった。
 ところがよかったのはそこまでで浦和のボール保持の時間が長くなる。特に左サイドでマルティノスに入ると巧みなドリブルに佐々木が翻弄されてしまう。そのせいで柏も下がって守備に奔走される。そうなると前に味方がなく、クリアしても結局浦和ボールにしかならないのだった。
 もうすぐ前半終了。とりあえずそこまでもちこたえてくれ。
 そんな願いなどまるで関係なく続く浦和の攻撃。するとまたしても左サイドでの崩しからクロス。ゴール前にいた青木に赤子の首を捻るがごとく容易にヘディングを決められてしまったのだった。ああ、やっぱり今シーズンもこういう辛い場面ばかり見なくてはいけないのか。
「あともうちょっと我慢できてればねえ」
 程なく迎えたハーフタイムに皆ため息をつくのだった。
「後半はティーラシンを代えるだろう。まるで存在感がないからなあ」
「そうだね、今日はあまり絡めてないよね」
 そんなことを話してたらやはり後半途中から柴崎との交代となるとそれまでボールの出し所がなかった中盤が活性化される。そして同じく存在感のなかった川辺が前に出てくる。ゴールライン際からペナルティエリアに入っていく。数人で囲まれたって突き進むと折り返し。中央で受けた柴崎がシュートを放つとネットが揺れるのがハッキリと観て取れた。
 入った、入った、入った。ゴール、ゴール、ゴール。
 うおおおおおおっ!と歓喜の歓声が起こるのだった。
 同点に追いつくと一層攻勢を強める浦和。危ないシュートを浴びながらもGK林のビッグセーブ。DF陣も奮闘すると前へもボールも進みやすくなる。そして川辺のドリブル。数人に囲まれながらも強引にゴール正面に入ると潰された。さすがにそれは無理があった。クリアのボールを蹴られてしまう。が、それはなぜか逆に飛んでいた。何が起こったのだろうか、それはゴールに入ったのだった。
 逆転!うおーっ!
 それぞれがそれぞれお互いハイタッチを交わす。どうなったのかさっぱりわからない。それでも稲垣のコールが起こることで誰のゴールなのかは知ることができた。そして映像で確認するとDFのクリアが突っ込んできた稲垣の脚に当たってそのままシュートになってしまったようだった。
 シュートが下手だと散々こき下ろしてた選手であるがなぜか重要な場面で決める。実際に特にキックが上手い訳でもないのにミラクルを起こす選手なのだった。
 残り10分。守りに徹するにはまだ時間があり過ぎる。それなのに柏が左サイドで受けたボールに対して攻撃の姿勢を見せなかった。まずい、点を入れても追いつかれるという昨シーズンの経験がトラウマになってるのかもしれない。
 そこで最後の交代として川辺を工藤が出場すると数人の敵に囲まれながらもボールをキープする。それでいて抜けるとこは抜くという相手にとっては全く厄介なプレーをしていくのだった。その工藤のがんばりに声援のボルテージは尚のこと大きくなる。
 時間はすでにアディショナルタイムに入ってるものの笛は吹かれない。それでも波状攻撃に入った浦和からファールを受けることにより一旦ポジションをリセットできることに呼吸を整えることができた。
 それにしても長い。長い長いアディショナルタイム。まだか、まだか、まだかと焦りながらもついに終わった。胃の締め付けられるような浦和の攻撃を耐えしのいだのだった。
 勝った、勝った、勝った。開幕2連勝である。サッカーの形はまるでできてはいない。ミシャの下で培ってきたパスサッカーがすっかり影を潜めてしまった。そこに落胆しながらも勝利の2文字の前にはそこを気に病むこともなくなった。
 暑い、暑い、暑い。挨拶に来た選手を讃えながらも最後までベンチコートを着ることはなかった。果たしてそれは気温が高かっただけなのだろうか。それとも自分の体温が上がったせいなのだろうか。その判断もできないまま勝利のコールに声を上げるのだった。

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