神戸戦~苦しみぬいた勝利

2018/05/06 サンフレッチェ広島vsヴィッセル神戸 エディオンスタジアム広島

 ゴールデンウィーク最終日、広島は雨が降っていた。屋根のないスタジアムにも関わらずポンチョを着たサポーターは濡れていた。よりによってどうしてこういう日に雨が降るんだろう。恨めしい気がしないでもない。
 そんな雨を含んだピッチは滑りによりボールの扱いに苦労しそうだった。それを見込んでか、2トップの一人として当たりに強い渡が選ばれた。パトリックとフィジカルに長けた2人の起用はピッチコンディションを考慮されてのことだろう。
 しかし、いざ試合が始まってみるとボールを支配するのは神戸だった。パスでつながれて左右に揺さぶられクリアしてもセカンドボールを拾われる。守備一辺倒の展開に前線から渡とパトリックがプレッシャーを掛ける。それは神戸の後ろからのフィードに正確さを与えなかったものの、どうにもマイボールにするに至らないのだった。
 どういう訳かこの日はパスの連携が悪くせっかく奪ってもパスがつながらない。結果またボールを奪われるということばかり繰り返した。踏ん張ってシュートは打たせてないもののこの状況がいちまでも続くのは好ましくないのは明白だった。
 そのせいだろうか、相手のバックパスを機に前線からのプレッシャーに中盤の選手も加わるようになっていった。後ろからつなごうとする神戸にパスコースを限定させることによりパスカット。裏に抜けだそうとした渡がブロッキングで倒される。おい、と叫んでしまったが当然カードが出た。
 その後も中盤でのパスカットからカウンター。パトリックのシュート。これはGKに阻まれる。だが徐々に攻撃へと軸足が移るようになってきた。そして今度はクロスからボレーシュート。DFに当たってゴールラインを割ったが近づいてる。着実にゴールに近づいてる。
 そうなるとセカンドボールが拾える。そこからまた攻撃が始まると佐々木や和田といったSBの選手もオーバーラップができる。すると柏がバイタルエリアでボールを受けることができクロス。渡のヘッド。軌道を変えたそのヘディングシュートは入ったかと思ったがわずか横に流れたのだった。
 もう少し、もう少し。そんな予感はサンフレッチェの選手にボールが渡る。左サイドで柏が受ける。佐々木が走り込んだ裏のスペースにスルーパス。完全に出し抜いたかと思ったがDFに追いつかれるも倒された。ボールを触ろうとしたまさにその瞬間倒された。笛が鳴り主審はPKスポットを指したのだった。
 「ササキ・ショー!」
 佐々木のコールが響き渡る。だが一体誰が蹴るのだろうか。さっぱり想像できなかったもののPKスポットに立ったのは青山だった。
 大丈夫だろうか。
 そんな不安が湧き上がったのもしょうがない。今まであまりPKを蹴ったというイメージがない。もしかして枠の上を越えるような豪快に外れるシュートを打ってしまうのではないだろうか。
 主審の笛。ゆっくりした助走から速い弾道のキック。うわ、やってしまったと思っていたら入った。ゴールの隅、仮にGKの読みが当たってたとしてもセーブできないような際どいコースに入れたのだった。
 先制点。苦しい時間が多かった前半だったが終了間際に決めたのだった。
 後半、追加点が欲しい。ところが神戸の前線にウェリントンが入ると途端にゴール前の迫力が増してきた。サイドからのクロス、もしくはゴール前の放り込みなどに脅威を覚える。そこで前線への起点となるべく渡に代えてティーラシンが入る。ところがその交代からも戦況はちっとも変わらないのだった。
 田中順也、レアンドロといった攻撃的選手を入れてきた神戸。こういった選手は遠目からでもシュートを打ってくる。雨で濡れたボール。打たれたら何が起こるか分からないという恐さがあった。
 そしてついにその決壊が訪れた。ゴール前に入ったボールにブロックするも水本の股下をトンネル。走り込んだレアンドロ。ゴール前の前でのシュート。悲鳴を上げそうになったその瞬間、GK林の両手がバチンと弾いたのだった。
 うおおおおおっ!林、凄い。
 最後の最後に林がいる。これが守備の安定にどれだけ寄与していることか。だからこそDFの選手も迷いなく身体を張って踏ん張ることができるのだった。
 決められてもおかしくはなかった。それを防いだことは1点取ったのと同じだった。そんなビッグプレーに一層守備への集中力が増す。疲労からかクリアが中途半端になることもある。それでも各選手が走ってブロックして残り時間を削っていくのだった。
 アディショナルタイム3分。長い長い時間である。スタンドからはサンフレッチェ・コールが鳴り響いていた。
 左サイドからのレアンドロの縦への抜けだし。佐々木が止めた。青山が奪った。時間を掛けたい。が、縦に蹴った。ツーンと抜けたボールにティーラシンが反応してた。
 ゴールに向かうティーラシン。DFは一人。ゴールを前にして逆サイドにパスをした。そこに走ってたパトリック。足を伸ばして当たった。そのまま真っ直ぐ伸びたボールはゴールの中に滑り込んだのだった。
 ゴール、ゴール、ゴール!決まった、決まった、決まった。終了間際の追加点。勝利を決定付けるゴールに城福監督含めベンチも狂喜乱舞するのだった。
 2−0、最後まで止むことのなかった雨の中で試合を終えることができた。苦しんで苦しんで苦しんで掴んだ勝利。奇しくも日本代表コーチとして森保元監督が視察に来てた。もしかしてこの中からの選考があるのでは。いや、それを考えるほど余裕がある訳じゃないと自らを戒めながらもやはりいつまでもこの高揚した気分に酔いしれたいのだった。

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