福岡戦~浩司、引退前のゴール

2016/10/29 サンフレッチェ広島vsアビスパ福岡 エディオンスタジアム広島

 森崎浩司の引退発表があり、これがリーグ戦ホーム最終試合となった。そのため、浩司の雄志を最後に目に焼き付けようと多くの観客でスタンドが埋め尽くされ高揚感が醸し出ていた。いつかはこういう日が来るとはいえ、ラストセレモニーも用意されてるとなると感慨深いものがあった。そしてスタメンの中に浩司の名前があったのが粋であった。

 他にも寿人もカズもスタメンに入ってて浩司を気持ちよく送り出すシチュエーションとしてはこれ以上のことはなかった。ただ、実際にこれでチームとして機能するのかどうか不安があったのも正直なとこだった。

 ところが中盤から後ろをカズが締め、浩司がつなぎ寿人が散らす。そのボールの回る様、それこそサンフレッチェのサッカーとして胸ときめかしたものだった。そう、この3人がいなければこのサッカーのスタイルはなかったと言っていいだろう。

 左サイドに入った清水もそれに負けじと縦へ仕掛ける。縦へ仕掛け、仕掛け、クロス。ボールの落下点、そこに入ったのは寿人。ガツンとゴールにたたき込み先制点を決めた。

「ヒサトーッ!」

 飛び上がらんばかりだった。今シーズンゴールに恵まれず出場機会も激減した寿人。それはまるでまだ終わってないというメッセージであるかのようだった。

 そしてそれに呼応するかのように浩司がディフェンスラインの間にピンポイントでパスを受け抜ける。詰め寄るGKとDFに阻まれながらも押し切りシュートを打つ。次の瞬間にはゴールネットを揺らすボールの姿が確認できるのだった。

 決まった。浩司が決めた。まさかまさかのゴールである。こんな、自分のホームラストゲームで決めてしまうとは。浩司は星を持ってる。そしてやはり思ってしまった。引退は勿体ないと。もっとできるしもっとできたはずだった。病気や怪我での離脱が多かったことはサンフレッチェだけでなく日本のサッカーとしても大きな損失だったような気がした。

 オーレー、オレオレオレー

 コージー、コージー

 スタジアム全体から浩司のチャントが響きわたる。このリズム、このメロディ、これを歌うのは本当に心地よい。もう歌うことがなくなることに一抹の寂しさを感じる。

 そんな浩司への餞にもっともっと点を入れたい。そしてそんな願望が果たせそうなくらいサンフレッチェの勢いは続いていった。

 入りそうで入らない。もっとギアを上げないといけないのかもしれない。そこで攻撃へのテコ入れにウタカとアンデルソン・ロペスが入った。代わったのは寿人と浩司。この交代に残念な想いもありながらも2人の外国人選手ならやってくれるという予測はあった。

 しかし、その後戦況はどんどん悪くなり一向に攻められなくなってしまった。守備に追われ後ろに人数の比重が重くなる。すると、クロスを入れられると城後が胸トラップ、バイセクルシュート。入った、入ってしまった。一体なんでなんなシュートが入るのだろう。

 どうしてサンフレッチェの守備時にはこういうスーパーゴールが生まれるのだろう。それは謎であったものの、やはり攻撃の時間が長くなると相手選手にプレーがポジティブになる機運を与えてしまうのだろう。

 それにしてもウタカにロペス、期待はずれはなはだしい。2人が出るととにかくゴールが生まれない。特に加入して未だノーゴールのロペスは外れだったかもしれない。

 そしてその後CKを得る。キッカーの浩司が下がったことで柴崎が蹴る。入らなくても浩司のキックする姿が観たかったなどと思っているとこのボールをウタカがそらしこぼれ球になるとそれをたたき込んだのはロペス。まさにぶち込んだという表現がふさわしいゴールだった。

 ロペスの初ゴール。やっと結果を出した。すると今度はサイドからのFKに水本のヘディング。が、ヒットせずにこぼれてしまうとまたしてもロペスがたたき込んだ。4点目、これで試合は決まったようなものだった。

 ロペスの2ゴールもこれからのサンフレッチェに希望を持たせてくれた。もしかしてこの選手、個人の力で打開するというよりこういうこぼれ球を狙うような役目の方が合ってるのかもしれない。ということは、セットプレーでの得点がない現状において一つのヒントとなり得るのだった。

 ここまでくるともっとゴールを観たくなる。カウンターのチャンスもあり、ウタカがゴール前でボールを受けた場面もあったものの決めきれない。決めきれず終わってしまった。いい場面が続いてただけにもう少し観ていたかった気がした。

 終了後、浩司引退のセレモニー。2度のJ2降格を経験し、その後4年間で3度の優勝。サッカー選手をやっててなかなかできるような経験ではない。激動の選手生活だったのではないだろうか。

 それでもまだ天皇杯も残っている。できればまだ浩司のプレーが観たい。涙声の浩司の引退メッセージを聴きながら尚のことその想いが強くなるのだった。

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