見出し画像

コミケ小話:熱を求める

コミックマーケットが好きだ。どうしても受験やら何やらで行けなかったときは何度かあったけど、行ける年はできる限り行っている。別に即売会はコミケだけじゃなくてコミティアとかサンクリ、それぞれのオンリーとかいろいろある。社会人になって金銭的余裕が出てきたから、地方オンリーに強行弾丸旅行しかけるのも楽しくなってきた。それでも、コミケには別格の思い入れがある。

今年のコミケは本当に暑かった。コミケ雲を見ながら、熱中症患者がキャスター付きの椅子に座らされた状態で搬送されるのを幻覚と見違えたC84に匹敵する暑さだった。およそコミケに参加して15年ほどの中でも別格の過酷な環境だったが、それでも一緒に現地で買い物をしてくれた友人達に心から感謝している。今までと同じように、今年も最高の夏だった。

だいたいいつもグループのみんなの要求を分担して午前中いっぱいを使って壁サークルを攻める。12時前後に集まってそれぞれのお渡し回、終わり次第自由行動っていうのが自分のところの動きだ。ここ数年、午後の自由行動のときに必ず行くエリアがある、通称『評論島』だ。

誰だったか忘れてしまったが、だいぶ昔に評論島こそコミケの真髄だと自分に語った人がいた。その頃はまだ良く分からず、無限軌道やらうどんややらの大きなグッズを持ったままR-18な島に突貫したり、1、2日目なら正面コスプレエリアを散策した後にメヒコでカニピラフを食べていた。

このカウンターで食べるのが好き

でもここ最近はできる限り評論島を回っている。このジャンルを知って、この楽しみを知ったとき、自分がコミケをなんでこんなに楽しんでいるのかわかった気がする。

評論島については、pixiv百科事典がわかりやすい。

概要

批評風刺ジョークユーモアレポートエッセイ漫画、育児などの体験記、旅行料理(グルメ)、軍事(ミリタリー)など、ジャンルの性質上多岐に渡る。
また、「研究や思索・探索の果てに編纂された知識は評論や情報たりえる」という観点から、各種データベースや研究記録なども、大抵の場合はこのジャンルに含まれる。

要は他のジャンルに該当しない場合のジャンルである。
コミックマーケットのジャンルには「その他」というものは原則設けないため。

上述の通り「他のジャンルに該当しない」創作物が集う上、基本的に「評論や情報の体を成しているのであれば、何についての『評論・情報』でも構わない」というスタンスのため、良く言えば「個性的」、悪く言えば「マイノリティ」な創作物が集うジャンルであり、それゆえにきわめて独創性の強い頒布物が多く見られるのも特徴である。
ここに一例を挙げると「潰れたラーメン屋のレビュー本」とか「県境のイラスト本」、「全国の新聞紙に掲載されている4コマ漫画のデータ本」といった同人誌も過去に実際に頒布されていた。
ぶっちゃけ「よくわかんないけど『すげーな…』と思える頒布物」が集うジャンルと言えばだいたいあってる

自分はこれを『夏休みの自由研究・大人版』とか言っている。初めての人に説明するとき、これが結構伝わるから気に入っている言葉だ。

コミケを大まかに要素に分解すると、そこにあるのは参加者と、そして頒布物、そしてその場所を作る空間だ。これは別にコミケに限らず、即売会というものはこれで構成されている。そして頒布物というのは、熱の塊である。

何かを表現するっていうのは、それが例えどんな形であれ熱量に後押しされているものだと思う。こんなボヤきですら、それを作成してまとめ、公開するっていうことには熱量なしには始まらない。仕事や義務でないのだから、それは自らが生み出したベクトルを持った熱量が支えている。

自分の何かに対しての好きや、或いは嫌いといった熱量がある。それを整え、誰かと共有しようとその場に持っていく。まだ自分が一度も越えたことがない、途方もない熱量の結果がサークル参加であり、頒布物なのだと理解している。


自分が好きなジャンルや作品の島を回るのは純粋に楽しい。あれも欲しいこれも欲しい、ただただ欲望が止まらない。これもまたコミケの王道の楽しみであり、そういう即売会に初めて来た時は、やはり同好の士の勢いを見るだけでも圧倒されて感激するものだ。

だが自分の知らない方向の熱量を見ることも、途方もなく楽しいのだと気付いた。自分が好きでない、なんならその人がなんでそんな方向の熱量を持ったのか理解できない、そういうものを見ることに楽しさを見出した。それが評論島散策だ。理解できないからこそ、そこに込められた熱量が自分の『好きなジャンル』という色眼鏡を越えてダイレクトに脳に届く。

その熱量に見て触れて、何かしらの共感を感じたときに(お財布と最低限の相談をしながら)購入する。先に言った自分が好きではない熱量の方向性も、その時まで好きではないだけかもしれない。なんとなくで購入してみて家でその戦利品を堪能しているときに、ふと好きになるかもしれない。その瞬間の熱に触れた楽しさが、次の熱を求め続けて止まらない。刻一刻と減っていく残高と、肩に増えていく負荷に気付かないフリをしたまま、ただただ楽しい熱の中を歩く足はどうしたって止まらない。

仲間内では17アイス読本が特に好評だった


別にコミケだけがこういう熱量に触れ合える会場ではないのは言うまでもない。それでも自分がコミケを特別視しているのは、その熱の膨大さと多様性においてコミケが最大の場だからだと思う。自分が知りもしない嗜好に、もしかしていつか自分に宿るかもしれない熱にここまで浮かされることができるのは、やはりコミケの誇るオールジャンルとその規模が為せる技だろう。


今回のコミケでは、長年の友人を評論島の面白さを案内しながら回ることができた。体力的な問題で十分に回り切れたわけではなかったかもしれないが、それでも楽しんでもらえたようで安堵している。

大勢の熱が、好きが、そういうのが大集合するあのお祭りが大好きだ。今回得られた熱も最高だった。そしてきっと次も最高の熱に出会えると確信している。

改めてC102に参加した皆さん、お疲れ様でした。
次はC103でお会いしましょう!