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pep05 yui


essay
ー 色を生む ー

好きな色はなんですか、と尋ねられた時、あなたならどう答えますか。将来の夢はなに、好きな天気は?今いちばん欲しいものはなんですか。どんな自分が好きですか。よく尋ねられる質問はたくさんありますが、あらかじめ答えの出ている人もいれば、日によって回答が異なる人もいると思います。絵を学びに学校へ通っている彼女と待ち合わせ、話しを始めた夕方の時間帯。あなたの好きな色はなんですか。さて、この質問に yui はなんと答えたでしょう。

好きな色を選ぶ前に、そもそも私たちの知っている色には、何色があるのだろうか。例えば小学校では、1組は赤、2組は黄、3組は青、クラスごとに担当の色が決まっていた。だいたい中学でも同じ色展開で、高校に入ったら、緑色の4組が加わる。女子は赤のランドセル、男子は黒。ベージュのランドセルはお洒落な家庭の子が持ってきていた。鉛筆は、太さによって濃淡が違う。H Bは薄く、2Bは濃い黒。よくできても間違いでも、採点用紙のペンは赤。上履きの色を選んでいいと言われて選んだ青。黒板の緑、グランドの白線に混じった砂の茶色。私たちは、物心ついた頃から、色に囲まれて生きている。

大学時代に所属していた演劇団体の公演で、彼女が舞台美術を任された際のエピソードが強く印象に残っている。「こういう黒をつくってほしい」と頼まれ、その色を作り上げるまで、かなり苦戦した事があったらしい。繊細な作品のイメージに沿う色を、限られた塗料の中からどうやって生み出したら良いのか、期限も迫る中で何度もトライ・アンド・エラーを繰り返したと言う。足しても足しても、指定された黒色に近づかない。どんなに混ぜても濃いグレーにしかならない。知ってる黒なのに、いざ作り出すとなるとうまく行かない。

驚いた。色を作るという行為自体、直感や感覚の集合体なのだと思っていたけれど、どうやら違うらしい。彼女の話で初めて知った。混ぜる前の色のパターンを捉えていられるだけの正確性と、混ざった今の色を見るための集中力、そして、次の手(色)を打つための計算と発想と思い切りが要る。さらに、よくよく話を聞いていると、一度つくった色は再現できるような色でなくてはならないようだった。出来上がったものをぜんぶ使い切ってしまったら、また同じ色を継ぎ足さないといけないから。一発良い色を出したら終わりではなく、作り手は二度目でも同じ色を再現できる必要がある、ということなのだろう。1ミリの白が赤が青が黄が、どう功を奏するのか。自分が知っているだけの色の種類をもとに、混ぜたり混ぜなかったりを地道に繰り返して、知っていく。色を生むとは、たぶんそういう事なのだと初めて理解した。

トマトは赤い。ピーマンは真緑。白い牛乳とクリーム色のクリーム。ハンバーグの茶色、焦げて黒くなったお肉。フレッシュな緑黄色野菜、オレンジのにんじん。空と海は、おおむねブルー。山はブラウンとグリーン。yui はどれだけの色を知っているのだろう。太陽はゴールドに輝き、光って美しい月は銀色。人を色で見ない、会うたびに変わるから。そう彼女が語っていたのを思い出す。地球は青く、宇宙は黒い。絵具、ちゃんと洗ってきたよと見せてくれた手には、ちょっとだけ黒色が残っていた。

「この色いいなってふと感じる瞬間があるじゃないですか。 私はその瞬間が多すぎて、結局、自分が何色をすきだったか、忘れちゃうんだよね。」好きな色を尋ねられたyui はそう言って笑っていた。信号機の赤黄緑、車と部屋のライト、電灯の暖色。全部が夜の木漏れ日となって揺れて、彼女の後ろで、夜の色が生まれていた。

poetry
ー あおい ー

pep インタビューポートレート vol.05  yui
エッセー:「 色を生む 」 
詩:「あおい」
話をきいた方 : yui(ゆい)
インタビュー・写真・エッセーと詩の執筆&編集 : 佐藤空

2022.6.30

ー編集後記ー

about essay「色を生む」 絵の勉強をされているyuiさん。歩いている中、夜の数時間で、いろいろな話を聞く事ができました。人との関係性について、夢や目標について、明るい話やダークな話。夜の光の鮮やかさと静けさが相まった彼女の表情が、写真とエッセーの話題から伺えると思います。そんな彼女の空気を伝えるべく、「 yui × 色 」という掛け合わせで感覚的で情緒的な文章にトライしました。

about poetry「あおい」 エッセーの終盤にもある様に、「好きな色が思い当たりすぎて絞れない」と話してくれたyui。どんな色にでも良さを見つけられる彼女の視点を借りて、いろんな人の名前とそれぞれの多様な長所を詩で登場させました。また、挙げた名前の中には、一般名詞がちりばめてあります。(例: うみ→海) 沢山あるので、詩から見つけ出してみてください。詩ならではの言葉のダブルミーニングを生みつつ、楽しい言葉の連なりになったのではないかと思います。

それともう一つ。何をしている時の自分が一番好き?と尋ねた時、「そういうこと考えたことなかったけど、その時その時で”これしかない”と感じたことをやっているよ。」と話してくれたことが忘れられず、どうしても詩に盛り込みたいと思いました。最後に自分の名前を二度繰り返すことで、「これしかない」に付随する決意を表しました。

タイトルにもなっている「あおい」。名前か色か。あなたならどう読みますか。

ユースドのブーツが似合っていたゆい
話していてとても楽しい、良い時間を一緒に過ごさせていただきました。