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アニカフェドリンクファイト in 2019夏

 私事で恐縮だが、八月あたりから突然うたプリにはまった。七月に友人と一緒にマジLOVEキングダムを始めて見てから、なんとなく毎週二人で映画館に通うようになり、通っているうちに段々と頭がマジLOVEキングダムに犯され、毎日黙々と五日連続で入国するようになり、気がついたら二人とも新米エンジェルとしてHE★VENSに愛を捧げるようになっていた次第である。

 わたしの推しは鳳瑛一。カップリングはA21。
 友人の推しは天草シオン。カップリングはやまシオ。
 
 推しキャラこそ違うものの一緒にHE★VENSを推していこうなと誓い合ったわたしたちの耳に入ってきたアニメイトカフェ開催決定のおしらせ。
 アニカフェやるらしいよー。でも開催店舗遠いね、とラインを送ったわたしに、友人からは迷いのない早さで、「大阪なら行けるね!」という返事が返ってきた。そうだね行けるね。うん、大阪なら行ける。行こうか。
 というわけで、度重なる応募の結果、無事に当選を果たしたため、我々はアニカフェに行くため遠い大阪の地を踏んだ。

 行きのバスの中で、友人が、今日はドリンク八杯飲む覚悟で来たんだよね、と言い出した時から何かが狂い始めているような気はしていた。

 友人と出会ったのはもう何年前になるのかあまり考えたくない、地元で行われたPSYCHO-PASS映画館一挙放送の時。隣に座っていた友人をわたしがなんとなく晩ご飯に誘ったことを契機として、PSYCHO-PASS以外は特にジャンルが被らないのでお互いのオタク活動状況についてはよく知らないという付かず離れずの距離を保ってきた。
 友人はオタク活動について逐一ツイッターでツイートするような人でもないし、朗らかで明るく優しい人柄から、なんとなくオタク活動についても穏やかな人なのであろう、とわたしは思い込んでいた。
 そんな友人が、HE★VENSぬいの再販が決定したねという話をしていた時、「迷っているんだよねー」と漏らしたわたしに、くもりのない目で「えっ誰を買うかっていう話?」と言った。そのときから、この人は実はあまり穏やかではないのではないかという疑惑を抱いていた。
 その次の週にマジLOVEキングダムを見るために集合した際、友人が言った。
「こゆびちゃんの鳳兄弟と合わせてイベントの机に並べたくて、結局残りのHE★VENSぬい五人全員予約したんだよね」
 友人は全然穏やかな人ではなかった。あっこの人、さてはわたしより拗らせ方が激しいな……? とその時わたしは思った。

 その友人が、アニカフェでドリンクを八杯飲むと言っている。アニカフェが当たった際、生クリームが苦手だから今から特訓しておいた方がいいのかな、とか、わたしたち小食だから厳しい戦いになるよね、とか話していたはずの友人が、ドリンクを八杯飲むらしい。生クリームが苦手なのに……あのコラボメニューの何を見ても生クリームが乗っているドリンクを……正気か……?
 いやでもあくまでもつもりだしな、と行きのバスの中では、そっかー、とわたしはその話題をスルーした。

 午後四時半。わたしたちはアニカフェに入店した。席は蘭丸の席だった。蘭丸だねーときゃっきゃしながら、持ってきた鳳兄弟のアクスタを席に並べるわたし。
 とりあえず一通り注意事項を確認し、何から頼むか考えようとしたわたしに、友人が言った。
「よし、欲しいもの一通り全部頼もう」
 とりあえず、フードと鳳兄弟のドリンク二つから頼むかな、それで余裕があればシオンとナギと全員集合のブロマイドを貰おうと悠長なことを考えていたわたしは耳を疑った。
「えっ追加オーダー禁止なのかな……いやでも、手を上げて注文すれば追加オーダー可能らしいよ」
「いや、追加オーダー絶対めんどくさいよ。もうとりあえず全部頼もう」
 固い決意の友人を前に、分かった……と頷くわたし。
 結論から言うと、友人のこの判断は正解だった。多数のドリンクを前に、追加オーダーなど頼んでいる時間はないし、飲む口を止めればその段階で心が折れて追加注文などできなくなる。これはそういう種類の戦いだ。
 とりあえず手を上げていたら店員さんが注文を取りにきてくれる。
 友人が迷いのない声で注文を店員さんに告げていく。
「愛を捧げよ二つと、GIRA×2二つ、Up-Down-Up!、エゴイスティック二つ、Feather in the hand二つ、相愛トロイメライ、Colorfully☆Spark四つ……」
 Colorfully☆Spark四つという単語を聞いた瞬間に、これは何か気が狂ったことをしているのではないかという疑惑がわたしの中で頭をもたげ始めるが、友人は迷うことなくドリンクをHE★VENS全員分すらすら注文して行っている。頭をもたげるも何も端から気が狂っている。
「カレイドスコープ、マジLOVEキングダム二つ」
 と友人が注文を終える。店員さんが復唱をはじめたあたりでわたしの中でも何かがキレた。もう五杯も頼んでいたら六杯頼んでも一緒ではないのか。ブロマイドのヴァンの顔はめちゃくちゃ好みだ。いこう。
「アップ一つ追加でお願いします」
 こうして私たちは、愛を捧げよのオムライス二つと、GIRA×2のパフェ二つ、ドリンク計14杯を注文した二人になった。ドリンク友人8、わたし6の計算である。

 グッズの会計に並んでいるところで、友人がわたしを呼びに来た。
「こゆびちゃん、列並ぶの変わるから机見てきて。ドリンクが来たんだけど見るべきだから」
 不穏な響きに、とりあえず列を友人に任せて机を見に行った。
 机の上がドリンクで埋まっていた。
 もう蘭丸のテーブルだとか言って喜んでいる場合ではない。ドリンクが並びすぎて蘭丸の髪の毛の先も見えない。鳳兄弟のアクスタに至っては完全にドリンクに埋没している。アクスタなんてあってもなくてももはや一緒だ。
 まわりのテーブルの人たちがちらちらとこちらを見ている。凄いね……といった話し声も聞こえてくる。分かる。わたしでもこんな机がまわりにあったら見るわ……。
「おお…………」
 わたしの口からため息が漏れた。脳の中はどうするんだこれという思いでいっぱいだ。
「凄い……」
 呟いた。とりあえずグッズを買わねばいけないので列に戻った。会計をしている間も頭はドリンクに埋もれたテーブルのことでいっぱいである。
 会計をした。店員さんが会計ごとにもらえるランダムコースターをたくさん渡してくる。ドリンクのことで頭がいっぱいのわたしは、「何か丸いものをたくさんくれた……」という非常に頭の悪い思考で席に戻った。
 席に戻ると友人が、とりあえず二杯は飲んだ、という。わたしも飲まねばと思う。大量のランダムコースターを「なにか丸いもの」として裏返したままとりあえず机の上に置いた。
 周りを見ても、ドリンクに埋め尽くされている席はわたしたち以外にはない。皆、多くても二つ程度のドリンクとメニューで、優雅にカフェを楽しんでいる。わたしたちの存在が完全に浮いている。
「えっ、みんな意外と注文しないんだね……!?」
「わたしたちフードファイトするつもりしかなかったのにね!?」
 アニカフェでファイトする人は意外とそんなにいない。
 そんな気付きを胸に、ドリンクファイトがスタートする。
 以下、メニューの感想を下に記す。

・マジLOVEキングダム
 ドリンクの中ではすっきりとした甘さで飲みやすい。生クリーム耐性があればそれほど苦労しない。
・Colorfully☆Spark
 最中とゼリーがさりげなく腹に溜まる。ソーダが入ったびんが付いてきて、注ぎ足して飲む方式だが、後に置いておくと炭酸が抜けてきてソーダがただの甘い水になり飲むのに非常に苦労する。炭酸があった方がむしろ甘さが抑えられて飲みやすい。炭酸が残っているうちに倒しておくべき一品。
・Up-Down-Up!
 すっきりとした甘さでそれほど飲むのに苦労しない。甘いけどいける。
・GIRA×2★SEVEN
 甘くておいしいパフェ。甘くておいしいが意外と腹に溜まる。あとオムライスより先に来るので、デザートに食べようとか悠長なことを言っているとアイスが溶けてすごいことになる。溶けないうちにたいらげるべき一品。
 

 最初に飲んだマジLoveキングダムを、どんなに喉が渇いている時でもこんな早さで飲み物を空にしたことはないというトップスピードで飲み干し、ここまでのメニューを立て続けに飲み続け食べ続け、おいしゅうございました……と言いながら空のコップを机の真ん中に集めているあたりで愛を捧げよがやってくる。
「塩分……塩分を欲していた……」
 塩分をひとすら求めながら、愛を捧げよ攻略にとりかかる。塩分を求めていたので半分くらいは非常においしく食べることができるが、半分を超えた当たりから、オムライスの米が腹の中で激しく膨張していくのを感じ始める。
「米……米膨れてきた……」
「すごい米が膨れているのを感じる……」
 呻きながら完食。完食したがわたしの前にはまだドリンクが三杯残されている。

・エゴイスティック
 意外と甘くないほろ苦いコーヒー。コーヒーが苦手な人には苦すぎるかもしれないが他のドリンクが甘いから大丈夫。むしろこの苦さがいい。アニカフェに降臨した救いの主。甘さをリセットするために是非ともドリンクファイト中盤まで残しておきたい一品。
・Feather in the hand
 甘いチョコレートに甘い生クリームに何か甘いシロップに甘いゼリーがプラスされていてとにかく気が狂うほど甘い。底にいけばいくほど甘くなり、ゼリーがもったりと疲れた腹に蓄積されていく。わたしは飲んでいる時このゼリーは永遠になくならないのではないかと疑った。終盤にいけばいくほど、胃がFeather in the handに耐えられない胃になっていくためドリンクファイトをするなら絶対に序盤で倒すべき難敵。
・Colorfully☆Spark(二周目)
 炭酸が抜けてただの甘い水と化したColorfully☆Spark。ゼリーと最中がもったりと腹に溜まっていき、瓶の中の炭酸水はグラスに三杯は注げる量がある。飲んでは足し飲んでは足ししている姿はまるで疲れたOLが居酒屋で手酌で酒を飲んでいるかのようだ。二周目などと言わず、二杯飲むなら二杯ともを序盤で倒しておくべき難敵。

「さあ、こゆび選手ラストスパートだ。果たして六杯のドリンクを飲みきり無事に勝利することができるのか!? 残るはColorfully☆Spark。こゆび選手、最後の敵にどう立ち向かう」

 Colorfully☆Spark二週目を残し、正気を保てなくなってきたわたしがよく分からない実況を始める前で、友人は友人で残りのドリンクと格闘している。飲みかけの状態で放置したせいで生クリームが溶け込んで沼のようになったColorfully☆Sparkを前に、「推しのドリンクが汚い……」と頭を抱えたり大忙しだ。
 Feather in the handに苦戦する友人が、鳳瑛二のブロマイドを机の上に並べ始めた。
「瑛二が……瑛二が見守ってくれていれば頑張れる気がする……」
「いやでもその瑛二のドリンクのせいで今君は苦しんでいるわけだが」
「そうか、そうだよね……瑛二、こんな顔して、お前ってやつは、お前ってやつは」
 瑛二のブロマイドをなじり始める友人。
 慰めてあげたいがわたしはわたしでColorfully☆Sparkを倒すことに必死だ。
 この頃になると、座ってドリンクを飲んでいるだけで胃のそこから何か無性に吐き気がこみ上げ始めるし、苦しすぎて何故か鼻水が止まらなくなってくる。
 止まらない鼻水をすすりながら神妙なおももちでColorfully☆Sparkと戦い続ける女。その前で瑛二をなじりながらFeather in the handに苦しみ続ける友人。
「フェザーさあ、底のゼリーが溶けて何かよくわからない甘い物になってきた……」
「分かる。カラスパもなんか生ぬるい甘い水になってきた」
「だよね、なんか……甘くてなまぬるい水だよね……」
「うん、甘くてなまぬるい水……」
 甘くてなまぬるい水を前にして頭を抱えるわたしたち。阿鼻叫喚だ。
 しかもアニカフェには一時間半という制限時間がある。あと十五分で飲みきらなければドリンクを残すという結果になってしまう。頼んだものを無闇に残すのはわたしたちのポリシーに反する。
 わたしたちは必死に飲んだ。緊急事態にそなえて胃薬を持参していた友人から胃薬をもらって飲んだ。水がおいしい……と呻くわたしたち。
「水、信じられないくらい美味い……」
「うん、甘くない……味がない……美味しい……」
「味がないのに美味しい……」
 胃薬はわたしたちの胃に一時の清涼感をもたらしてくれた。甘くてなまぬるい水を飲むことを再開しはじめると清涼感は一発で消えた。
 残り時間を十分ほど残して我々はドリンクを全て倒しきり、ようやくランダムコースターを交換すればよいのではないか……? ということに気付き始める。
「とりあえずブラインド系は個数限定の上限まで買えばよくね……?」
「そうだよね……」
 と、二人がおのおの考えなしに買ったグッズのせいで、私たちの手には大量のコースターがあった。友人なんかアクスタをHE★VENS全員分買っている。また全員分買ったのか。ぬいぐるみの時といいどこに置くんだ……。
 もう立ち上がれないのではないかと思うほどぱんぱんに張ったお腹を抱えてわたしはカフェ内を巡った。欲しいキャラを交換に出している人がいたらすかさず尋ねる。
「すいません、ナギちゃん欲しいんですけど、誰がいります……?」
 もう聞き方に遠慮がない。なんといっても考えなしなので、コースターに関しては大概のものは揃っている。藍ちゃんです、多分あるんで探してきます、ありました、ありがとうございます、で交換成立だ。
 死ぬほど苦しい。死ぬほど苦しいが退店時間だ。
 立ち上がりたくない、今すぐ寝たいと呻きながら会計に並ぶ我々。
 レシートにずらりとシャッフルユニット曲が並んでもはやセットリストである。レシートの中で、Colorfully☆Spark 4という文字が燦然と輝いている。
 会計を終えると、お店の人が、食事会計分のランダムコースターをくれた。
「なんか来た……」
「ほんとだ、なんかまたいっぱい来た……」
 ドリンクで疲れているわたしたちは頭が悪い。
 なんか来た……と言いながらコースターを受け取り、キャラを確認し、帰りのバスで分けようかといいながら鞄にしまう。
 行きのバスの中でわたしは、コースターとブロマイドをどうやって折れないように持って帰ろうかと悩んでいたが、「なんか分からんがいっぱい来た」コースターはもはや折る方が困難だという厚みになっており、帰りのバスの中で確認したら二人合計でちょっと言えないくらいの数があった。
「わたしたちは」
「こんなにもお金を」
「ちょっとした旅行に行ける」
「マジか……」
 言いながらまったく後悔のない我々は大阪からバスに乗って帰路についた。帰りのバスの中でわたしが、
「わたし、時々、なんでうたプリが好きなのか本当にうたプリが好きなのか分からなくなって我に返るんだよね……仕事中掃除してる時とかにはっと、わたしなんでうたプリ好きなのかな……よく分からない熱病にうかされてるだけじゃないかなって……鳳瑛一の顔ほんとにまったく好みじゃないし……うたプリのストーリーが刺さるのかと言われたらそんなこともないし……キングダムそもそもストーリーないし……」
 という発作を起こし、友達が、
「愛がないのに吐きそうになりながらドリンク六杯は飲めないよ……」
 と言う。
「正直、こゆびちゃんが黙々とペースを落とさずドリンクを飲み続けていてプレッシャーがあった」
 という謎の告白を受け、
「でも貴方、八杯飲んでるよね……」
 とお互いの健闘をたたえた。
「二度とやりたくないね、こんなこと」
「うん、本当に二度とやりたくない……」
 二度とやりたくないと呻きながらバスの中でブロマイドを広げて、
「顔がいい……」
「いや、本当に顔がいい……HE★VENSそれぞれの一番いい顔を取ってきてる……」
「天才……神……」
「永遠に見ていられる……」
 とブロマイドを眺め倒す。お互いの言動が病気じみている。わたしは鳳瑛一のブロマイドの顔が良すぎてブロマイドを直視することができず、鳳瑛一のブロマイドだけを飛ばしてブロマイドを眺め続ける。
「瑛一の顔には、徐々に慣れていけばいいよ」
 友達の慰めに、
「いや、無理でしょ、無理……うわ……いや、無理でしょ、無理だよ、いや、やめて欲しい……無理だよ……」
 呻きながら、最終的に、
「顔がいい……………」
 と呟いて顔を覆うわたし。鳳瑛一の顔は特に好みではないと言っていたお前はどこに行ったのか。
 三時間かけて地元に帰り着く頃には苦しかったお腹もそれなりに落ち着いており、ドリンクは意外とお腹が落ち着くのが早いという知恵も得られた。
 知恵は得られたがもう一度やるかと言われると二度とやりたくない。わたしの頭は糖分の取り過ぎと熱中症でがんがん痛んでいる。
 夜十時、駐車場でわたしたちは解散した。
「では、また来週」
「また来週」
 わたしたちは来週、海を越えた場所でマジLoveキングダムが今さら上映されるので映画館まで光る棒を振りに行く。何がわたしたちをここまで駆り立てるのか。地元のキングダム終了前に二週間ほど毎日毎日月曜から日曜まで映画館に通い詰めに通い詰めて満足したんじゃないのか。
 うたプリの何が好きなのかよく分からない、と言っている場合ではない。
 ないのだが、わたしはいまだに、自分がうたプリのことを本当に好きなのか、何が好きなのかよく分からないし、鳳瑛一の顔に特に好みの要素はない。

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