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1-1「代筆」

野良犬は自分が犬である事をよく知ってる

知らない者もいる

犬は誰かに聞かれたくない訳でもないけど

特に伝えたい訳でもないから

笑っちゃうくらい小さな声で

言ってみたりもする

「なんでだろ」って



犬はあんまり眠れないなって時に

「ワン」って鳴く

恋をしちゃった時も

「ワン」って鳴くし

失恋した時だって

「ワン」って鳴く

好きな曲が聴こえてきて

「ワン」って鳴く

綺麗な夕日を見て

「ワン」って鳴く

美味しいご飯を食べても

「ワン」って鳴く

だから多分明日も「ワン」って鳴く

実は今日も「ワン」って聞こえた

あの犬だって僕は知ってる

犬は僕のこと知らないと思うけどね

犬は少しくたびれた顔でくしゃみしてたから

僕が犬の代わりに文を書いてる

多分これも「ワン」って聞こえる

そんなこんなで

ちょっぴり楽しくなったり

悲しくなったりするのを

僕も犬も他の人も分かってる

分かってて生きてる

ぼんやりと神様がいると思ってたけど

もしかしたらいないかも

そしたらもしいなかった時にどうするか

そんな事を考えて眠くなって寝る

結局神様がいるかどうかは分からないままだけど

僕と犬がいる事はよく分かる

だから少し声を大きくする

生活もする

犬は死ぬ前にある人のとこに

駆け足で行く

伝えたいなぁって思ったんだって

でもあの調子だと

もっと昔から思ってたのかもね

だってあんなにヨボヨボなのに

足に迷いがなかったもん

その人に近づいたら最後の力を振り絞って



「ワン!」



僕は少し遠くで見てたけど

僕にもその人にも「ワン」としか聞こえなかった

困った顔のその人を見て

犬も少しだけ困った様子

ふらっと人気の無いところに行って

死んじゃった

最後の鳴き声は

謝罪だったのか

感謝だったのか

それとも愛の告白だったのかは分かんない

だって「ワン」としか聴こえなかったから

草むらでひっそり横たわってる犬に

すごく小さな声で僕は「ワン」って言った

特に意味は無く鳴いてみたから

もしかしたら最後の「ワン」も

意味はなかったのかもね

僕が書けるのはここまで

もしも神様がいないって分かった時

僕は多分「ワン」って言うと思う

最後の「ワン」はここじゃないかな

おやすみ。



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