江戸前期の五十音発音表

能に関して書かれた古典籍を眺めていたら興味深いものを見つけたのでメモのつもりでここにあげておきます。

これは慶安五(1653)年に刊行された『謡の秘書(こちらから読めます)』で、「口中開合の事」と記されたこの項目(下の写真)では五十音の子音別・母音別にマトリックスの形で発音のことが書かれています。

口中開合のこと

変体仮名混じりで書かれているので現代人には見慣れないひらがなもありますが、現行の五十音表と同じものです。ちなみに五十音表は悉曇学というサンスクリットの音韻学に由来するらしく、その起源は非常に古いものです。

a: 歯も唇もひらく
i: 歯を噛み唇をひらく
u: 歯を噛み口を細む
e: 舌を出し口を中にひらく
o: 口をすぼむ

あ行: 鼻咽(はなのど)に通ず
か行: 歯に通ず
さ行: 歯と舌に通ず
た行: 腮(あぎと=あご)に通ず
な行: 鼻と腮に通ず
は行: 唇あわせず
ま行: くちびる合す
や行: 鼻より出
ら行: 舌を触(ふ)る
わ行: 鼻咽に通す

まぁなんともざっくりしていますが、こういった観点がこの時代に存在していて、さらに謡に関する書物の冒頭に書かれていることに意味があるのだと思います。

現代日本語のIPA(国際音声字母)表記の一覧も、参考のために載せておきます。こちらから詳しく読めるので、ぜひご覧ください。「日本語の音声」の項目は私たちが無意識に行っている発音に気付かされて興味深いものがあります。

日本語IPA


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