『月に惑ふ』についての随想 02

一週間前に2回目のレコーディングを終え、昨日第9回の配信を終えた『月に惑ふ』。

この作品がオンラインで配信されてすぐに消える(アーカイブが残らない)ことについては前回お話しした。

オンラインで配信するのは生演奏の代用ではなく、そこでしか出来ない表現を目指しているからだ。オンライン配信とホールでの演奏の違いの一つに聴取環境がある。

ホールという環境ではすべての扉が閉じられ、外部の音を遮断した作品専用の空間がそれに与えられる。対してオンライン配信では、配信者はその聴取環境を指定することが出来ない。イヤホンやヘッドホンかもしれないし、iphoneやタブレット端末の小さなスピーカーかもしれない、はたまた人によっては豪華なステレオが用意されているかもしれないし、カーステレオで車を走らせながら聴く人もいるだろう(1時間で消えるわけだから)。その人の家の近くにいきなり救急車がサイレンを鳴らして近づいてくることもあるかもしれない。

そういった作品を作るときに、ホールと同じ音を作るわけにはいかない。『月に惑ふ』では、こういったそれぞれの人がそれぞれの環境で、環境音すら借景として音を楽しめるような音作りを心がけている。


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