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異次元旅行の映画たち(1)

電影と少年CQは映画モチーフのアイドルです。楽曲やライブを既存の映画題材で作っております。
映画と言っても中にはあまり分かりやすいタイプの映画じゃないものも多く、それで「マニアック!」と思われ足が遠のく原因になる危険性を考慮し、そんなに公表をしていません。
でも逆に題材になった映画を丁寧に解説したらその映画や電少に興味を抱いてくれる方もいるのではないかと思いまして、アルバム『異次元旅行のサウンドトラック』も発売されたことですし、各曲の題材となっている映画を解説しようかと思います。

★『列車の到着』

題材映画:『列車の到着』(1896/フランス作品/オーギュスト・リュミエール、ロイ・リュミエール監督)

作曲:灘藍 / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:Rikako / MV監督:長野泰之
MVはこちらをクリック

電影と少年CQがデビュー曲として披露した曲がこの『列車の到着』を題材にした曲、タイトルもそのまま『列車の到着』です。

122年前の映画。諸説ありますが、この作品から映画が始まったとされています。

映画と言っても1分にも満たない、ただ機関車が駅に到着する様子を撮影しただけの映像です。

ただ当時はそれが巨大なスクリーンにて上映されるだけで、一級の娯楽として楽しまれたそうです。例えばそれは2010年の『アバター』の3D映像に我々が驚愕したように。

ここからは余談ですが、この作品を監督したリュミエール兄弟は自らが作り出した映画に対して、「映画は未来のない発明だ」と言ったそうです(どうやら詳しく調べると本人たち言ってないと言っているらしいですが)。

ところで列車というモチーフはその後映画史の中で星の数ほど散見されます。そこで暗示的なのは、物語において“列車に乗る”という行為が示すのは「運命に抗えず運ばれていく」という意味を示すことが多く、そしてそれは映画というメディアそのものを表しているように見えることです。

映画はフィルムの先頭から終わりまで物語が固定しています。フィルムに閉じ込められた登場人物たちはその中でどう奮闘しようが、結末はあらかじめ決定づけられている。列車に出発駅と終着駅が正確なダイヤで決められているように。

「未来」という言葉が“未確定”という意味を込めた言葉だとしたら、やはり「映画には未来がない」。フィルムに閉じ込められた全ての時間は並列に存在していて何が起きるかは全て確定済み。運命は変動しようがない。出発から終着までただひたすら列車に運ばれるだけ。

映画史の始まりの作品が「列車」を描いた作品であったことは、そんな意味も偶然的に含んでいるのではないかと、僕は深読みしてしまいます。

★『No Man's Planet』

題材映画『マーズ・アタック!』(1997/アメリカ作品/ティム・バートン監督)
作曲:灘藍 / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:ゆっきゅん・Rikako

電影と少年CQが2016年11月4日のデビューライブで披露した曲が先の『列車の到着』と『No Man's Planet』という曲です。この『No Man's Planet』の題材となった作品がティム・バートン監督による1997年のSFコメディ映画『マーズ・アタック!』です。

ストーリーは解説するほどではなく、ある日突然やってきた火星人(1950年代の漫画に出てきそうな巨大脳みそと光線銃を持ったレトロデザインの火星人たち)の軍団が世界中をしっちゃかめっちゃかに荒らしまくる。豪華なハリウッドスターたちがそんなオモチャみたいな火星人のオモチャみたいな光線銃でバッタバッタ殺されていく。ただそれだけの映画です。

以前長田が演出していたアイドルグループに“少女閣下のインターナショナル”というグループがあり、そのイメージとして挙げた映画が『グレムリン』と『マーズ・アタック!』でした。どちらもただひたすら小鬼のようば凶暴なイタズラ好きのモンスター集団が無邪気に破壊や殺戮を繰り返す作品。
なので少ナショのデビュー曲は『グレムリン』のテーマ曲にラップを載せたものにしました。
僕はその“無邪気な破壊”こそがアイドル性だと今でも思っております。アイドルとは保守的であってはならない。その若さに任せて無責任でもいいから何かを破壊し、新しい土壌を切り開く役目があるのではないかと。
なので、次なるグループ電影と少年CQでも『マーズ・アタック!』をイメージした曲を依頼しました。
だから僕はこの『マーズ・アタック!』と『グレムリン』を最高の「アイドル映画」だと思っています。
『No Man's Planet』は電影と少年CQがデビューする前、メンバーのルアンとユッキュンすら決まる前に作った曲なので、まだ少し少女閣下のインターナショナルっぽさが残っていたのでしょう。電影と少年CQのイメージがある程度固まった今となってはもしかしたらこういうあからさまに破壊的な曲はなかなか難しいかも。

★『アンダー・ニュー・ワールド』

題材映画:『アラジン』(1993/アメリカ作品/ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ監督)
作曲:灘藍 / リミックス:タカユキカトー / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:Rikako

中学一年生の夏休み、部活が休みだったのでお小遣いをもらって暑い中、ディズニーの新作映画である『アラジン』を見に行きました。
最高の映画で何度も劇場で見たかった『ジュラシック・パーク』や、安達祐実が可愛い『REX 恐竜物語』も見れたけど、『アラジン』にしたのは先行でCDが発売されていたこの映画の主題歌『A Whole New World』が大好きだったから。

1989年の『リトルマーメイド』から1999年の『ターザン』までのディズニー長編アニメ10作品をディズニールネサンスと呼び、ウォルト・ディズニー・カンパニーはそれまでのディズニーアニメないしはアニメーションを改革するような見たことのない“新しい世界”を次々と発表していきました。そんな時代を象徴するかのような曲が『A Whole New World』でした。
最近はシネコンの普及で巨大なスクリーンが少なくなって寂しいけれど、巨大なスクリーンで見た『A Whole New World』のシーンのロマンチックさたるや。魔法の絨毯に乗って世界中を飛び回るデートシーンで中学一年の僕は褐色のお姫様に恋をしました。

この曲を元ネタにした電少の曲『アンダー・ニュー・ワールド』は、日本の昔話『おむすびころりん』をディズニーが映画化したらどうなるかという一種のコミックソングになっています。
この曲までは電影と少年CQどんなグループにするかそこまで決めていないまま作ったのですが、ユッキュンの歌声が『アラジン』の声優さんに似ていたので、「やった!」って思いました。

★『街の灯り』

題材映画:『街の灯』(1931/アメリカ作品/チャールズ・チャップリン監督)
作曲:yellowsuburb / 作詞:yellowsuburb・長田左右吉 / ダンス振付:Rikako

チャールズ・チャップリンによるロマンチックコメディの代表作をテーマにした曲が電影と少年CQの4曲目『街の灯り』になります。
……というのは後付けで、ある日電少のお手伝いをしてもらっている火山くんが、突然紹介してくれた、趣味で作曲をしているyellowsuburbさんという方のSOUNDCLOUDを聴いていたらこの曲があって、一目惚れした僕は連絡をとってこの曲を買い取らせていただきました。
なので、この曲は厳密にはカヴァー曲となります。
yellowsuburbさんに尋ねたところ、チャップリンの『街の灯り』もましてやアキ・カウリスマキの『街のあかり』も、大橋裕之さんの漫画『シティ・ライツ』も意識して作った曲ではないそうなのですが、実にチャップリンの1931年のあの映画の雰囲気を醸し出している曲ではないですか。才能っていうのは転がっているものですね。
映画自体にはそこまで思い入れのなかった僕ですが、この曲のおかげでとても好きな映画になりました。
映画の原点はモノクロでサイレント。つまりは光と影と動き。真っ暗な映画館の中に映し出されるふんわりとした映写機からの光線から生み出されるささやかなたった3つの要素。それだけで無限の表情を見せる。

★『チュニジアの夜』(『Night in Tunisia』)

題材映画:『真夏の夜のジャズ』(1959/アメリカ映画/バート・スターン、アラム・A・アヴァキアン監督)
作曲:ディジー・ガレスピー / 編曲:S.A.L. /ダンス振付:Rikako / ラップ担当:SE$IMON DIAZ

ラッパーのSE$IMON DIAZさんからコラボの要請があり、その後、電影と少年CQ単体でも歌うようになった曲が1942年のディジー・ガレスピーによるジャズのスタンダードナンバー『チュニジアの夜』のカヴァーです。
これも前項の『街の灯り』同様に後付けで映画題材を決めた曲となります。
実際の『真夏の夜のジャズ』では『チュニジアの夜』の演奏はありませんが、チュニジアの夜を想像したときの暑苦しさ、ちょっとしたエロス、そして深夜まで続くジャズパーティのイメージが『真夏の夜のジャズ』ぽいなと思いました。
基本的にミュージカル映画やそのサウンドトラックのイメージが強すぎる映画は題材映画を選ぶ際に避けているのですが、それがジャズというジャンルになると調理方法の自由度が高い故か選びやすいですね。
ユッキュン・ルアンはどのアイドルよりもジャズっぽい曲が似合うアイドルだと思うので、ジャズ映画特集でミニアルバム出したいところ。
電影と少年CQの1stアルバムにこの曲は収録されていないのですが、先んじてSE$IMON DIAZさんの名義でAppleMUSICなどで配信されておりますので、是非聴いてみてください。