「いかにしてマッキンゼーはアメリカの中流層を破壊したか」"How McKinsey Destroyed the Middle Class" by Daniel Markovits, the Atlantic

初めての投稿がこれか(笑)Wabi-sabi。

"How McKinsey Destroyed the Middle Class" by Daniel Markovits

The Atlantic, February 3, 2020

なかなか衝撃的なタイトル。「マッ◯ンゼーなどのコンサルティング会社がアメリカの中流層を破壊した」という記事。2020年にブティジェッジが民主党予備選の大統領候補として話題になっていた頃のもの。

コンサルティング会社がしたことは、「株主の利益最大化」のお題目のもとに、それまでは企業内全体に分散していた管理職(&それに伴う報酬)をごっそり抜き取って会社の経営陣と山分けしたこと。
結果として、中間管理職以下の社員達は管理権限と共に収入を失い、社員達は社員の立場を失って非正規雇用となり、中流層が大打撃を被った。
この変革は、テクノクラシーへの移行だけでなく、イデオロギーの変化も意味する。それぞれの企業の多様な理念が失われ「株主の利益の最大化のため」という一つの目的に集約されることとなる。そして、人を限界まで切り捨てて目的を達成した経営者達と、その正当化も含め全てのお膳立てをしてきたコンサルティング会社が、冨と権力と称賛を独占する。


アメリカで「マネジメント(企業の管理運営)」の概念が発達しいわゆる管理職が生まれた20世紀半ば、管理権限は上層や中間層に集中していたわけでなく、労組という形で労働者層にも分散しており、報酬も応分に配分されていた。

  • 1939-50の労働者の収入の伸び率は、経営者の3倍

  • 1952年の調査ではCEOのうち2/3が勤続20年以上。

  • 労働者にも出世の道は確保されており、バーガーを焼いていたお店のキッチンからCEOにまで叩き上げたMcDonald’sのEd Rensi氏のようなサクセスストーリーは多かった。社員を管理職に就かせるための社内教育も充実していた。


しかし、1970年代からフリードマンの「株主第一主義」がもてはやされ始め、90年代にかけて加速し、この波に乗り波を増幅させたコンサルティング会社の躍進と共に、企業の構造は大きく変化した。

  • コンサルタントは中間管理職をターゲットにし、管理機能を上層部に移行すると共に、徹底的な組織再編を行いダウンサイジングを図った。
    AT&Tではこの時期管理職と社員の割合を1:5から1:30にすることを目標として掲げていた(単純計算で管理職の6人に5人が職を追われることとなる。)
    当然容赦ないリストラが行われた。景気も会社の好不調も関係なかった。IBMのある工場*では、レイオフの日に地元の銃販売店に臨時休業するよう地元当局から依頼があった。

  • 労組の解体も進み、60年代には全労働者数に対する組合員の割合が1/3であったのが、2016年には1/16にまで減少、当然労働者の権利も権限も、そして収入も縮小した。

  • レイオフされた社員の一部は非正規社員として再雇用されたが、当然権限は限定的で、一定の技能を提供するのみ。この究極の形がいわゆるギグワーカーで、彼らには権限は一切与えられず、収入や福利厚生も限界まで削られ、昇進の可能性もゼロである。

コンサルティング会社が行った再編とは結局、正社員から権限と収入を奪う一方で、経営陣に絶大な権限と報酬を集中させることだった。(そしてもちろん、あまりの権限の大きさ多様さに悲鳴を上げた経営陣がコンサル会社に助けを求めることも計算済みであるのは言うまでもない。)また、コンサルタント達はやがて大企業の経営陣にスライドし、彼らの影響力はますます増大する。


この記事は、ブティジェッジの立候補に疑問を呈している。当時、彼は「自分は(マッ◯ンゼー在籍中に)倫理的に問題のあるプロジェクトに関わったことはない」と発言していたが、筆者は、そもそも個人の倫理観を拠り所とすること自体、問題を個人の問題に矮小化し、経済格差の真の原因である構造問題から目を逸らさせ、結果としてその存続に加担するとしている。

そりゃマッ◯ンゼーが起こした問題をまたマッ◯ンゼーに解決してもらうて、泥棒に窃盗の裁判をしてもらうようなもんやもんねw


*Upstate NYの工場。2022年下院選挙で民主党候補が大苦戦、議席を失う可能性が高いと予想されているこのエリア。こんな歴史があるんだな・・・。
で、つい先日この工場にバイデンさんが来たらしい。こちらも大苦戦中の現職州知事Hochulさんの応援に駆けつけて、Hochul氏肝入りプロジェクトであるMicronの半導体工場誘致及び今後20年で1000億ドルの投資という案件の成功をたっぷり宣伝したついでに立ち寄ったってことかな。IBMもHudson Valleyエリアに今後10年で200億ドルの主に半導体関連の投資を行う計画を発表。Hochulとしては、ふるさとにRust Belt復活の錦を飾って優勝、の予定だったのが、不発に終わってしまっている状態なんじゃないかな。どうなるんだろうねえ、知事選&Rust Beltの未来。

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