妄想執筆家と人形職人のおはなし
【私達の日常4】
私には変わった友人がいる。
優しいような厳しいような不思議な人。
「あー、書き終わらないよぉー…、づかれだよー…」
「クリスマスなのに忙しそうだな、彼氏でも出来たのか?」
月夜里さんが机に伏せる私に疑問を問いかけた。
だが、興味がないのかこちらをまったく見ていない。
さっきから月夜里さんは膝に乗せている白くてもこもこしたテディベアの手足を動かすのに夢中なようだ。
テディベアの左耳があるべきところにある赤い三角帽子、上半身を包む赤いケープはサンタをイメージさせる。
クリスマス、そう小さい頃は家族とパーティをしたりして楽しく過ごしていた。だが、今の私にとってクリスマスは締め切りとの戦いでしかないのだ。
「イベントが近くてね、今年はサークル参加だからさ」
「イベントってなんのだ?」
ちょっと興味を持ったのか月夜里さんがこちらを不思議そうに見ている。私は体を起こして、手短に説明した。
「自分の書いた作品をみんなに配布したり販売するイベントだよ」
「俗にコミケと呼ばれるやつか」
「それに近いかな、違うけど。あぁ…、印刷してる時間あるかなぁ…」
思い出しただけでなんだか疲れてきた。
私は今年で一番重い溜息をついた。
月夜里さんはそんな私を見て、こくりと頷いた。
「手伝ってやろう」
え…、月夜里さん、今なんと?
「手伝ってくれるの?」
「ほい」
視界が白くなる。顔面にぼふっと柔らかい感触がする。
これはさっきまで月夜里さんがいじっていたテディベアじゃないか。
え、なに?受け取れってことなの?
「…えっと」
「私がクリスマスに合わせて作った人形だ」
それは言わなくてもなんとなく分かりますよ、月夜里さん。
「うん…、そっか…。可愛い、可愛いよ。でも、え?」
疑問と苦笑いが混ざり合った複雑な表情を私が浮かべると自慢げに月夜里さんが答えた。
「忙しいときにこそ癒しが必要だ。それで癒しを得るといい」
あー…、そういうことですか…。
「うん、ありがとう…。ところで月夜里さん、月夜里さん自身が私に協力という名の救いの手を…、たとえば印刷の手伝いとかネタ提供とかはありえませんかね?」
「はぁ?」と言いたげそうな見下した目で私を見る。
「私がそんな面倒なことをすると思っているのか」
「ですよねー!うわーん、サンタさん私を助けてぇ!」
そんなことで日常は過ぎていく。
ちなみに原稿はなんとか間に合いました。
無料配布は全部配布出来ましたが、それ以外はからっきしでした。
うん、泣いてなんかないんだから。
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