あのときのこと

多分私の人生で忘れることはない日となった
昔から、辛かったことをすぐに忘れてしまうところがある。
とあるオーディションで「これまでの人生で一番辛かったことは?」と聞かれて、咄嗟に答えられず、「ないならいいです。でも、そういうことは覚えておいた方がいいですよ。」と言われたことがある。
いのちを守るための防衛本能が強い方なんだと思う。

でも、あのことは忘れたくなくて、絶対忘れたくなくて、今、書いている。

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あの瞬間、身体から人格が分離して、空間の上の方から俯瞰して様子を見てるもう1人の自分が生まれた。
「ああ、これがお芝居だったらな。きっとすごくいい芝居をしてるかもな。」
「人って、こういうことを言う時は、こんなに無機質に言葉が出るんだ」
こんな時にそんなことを考えてしまう自分が滑稽で、そういう自意識にすら心底腹が立った。

みんなの顔は一瞬しか見られなかったけど、よく覚えている。心配をかけてしまった。自分もすごく辛いはずなのに。

謝るのは違うというのはわかっている。
それをすることで、これからそうなってしまった人、そういう状況の人を悪者にしてしまう。それに加担してしまう。でも、自分の気持ちのためにただ頭を下げた。どこまでも自分のことだった。

逃げるように外に出て、何も考えられない頭で電車に乗った。
平日の昼間の電車はとても空いていて、座っている人も、ゆったりとした時間が流れている感じがした。
そんな中マスクと長い前髪で隠して、足元を見ていた。涙が止まらないからだ。
「人目も憚らず泣くって、こういうことなんだ。」
私はつくづく弱い人間だと思った。私がもらった役は、とても強い人だった。
みんな、どんな帰路を歩んだのだろう。
私は1人だったから泣けたけど、泣くに泣けない人もいただろうな。きっと前向きに明るく、そう心がけてくれた人もいたろうな。皆平等に奪われたのに。
考えてるとどんどんおかしくなりそうで、とにかく帰る、家に、家に。

何度も足を運んだ場所からの帰り道は、オートマティックに体が動いていて、気付いたら部屋にいた。

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暑さや寒さがわからず、1日の流れがとてもゆっくりになった。
その日の夜、何をしていたか、もう既に思い出せなくなっている。ただ
「どんなに泣いても喚いても朝は来るのだ。」
そう思ったことだけは覚えている。誰にでも平等に朝は来る。時間は止まらない。残酷に時は過ぎる。ありきたりで、1000回聞いたようなフレーズが、初めて実感として身体に染み付いた

朝がくればお腹も空いてるし、猫は私の頭を器用に前足でちょんちょんして、ご飯を求めていた。
こういう時、猫というのは本当にありがたい存在で、本当にいつも通りすぎるくらいに振る舞ってくれた。私が布団に突っ伏していればゴロゴロと喉を鳴らして隣でお昼寝をしてくれていた。
お腹が空いていた。こんな時でもちゃんとお腹減るんだなぁと思った。

生活は続く。

奇しくも作品のテーマだった。
こんな形で実感しなくてはいけないなんて思わなかった。
幸いなのは何か大きな間違いをする勇気も全くなかったこと。だから、生活をするしかなかった。


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何もできない。でも、何かしていないとおかしくなる。それでオンラインゲームをした。ゲームの世界に居る時、しっかりと現実から目を背けることができた。それに付き合ってくれた友人に心底感謝している。
それでも、また夜が来ると、空が落ちてくるみたいな感覚に陥った。
もう1日前のことが、夢なのか現なのか判断できず、世界の時が止まったように感じた。
やっぱりあの時身体から魂が分離しちゃったから、どうしても今の自分のことだと思えない。どこか他人事のような自分がいた。でも夜は、しっかりとそのことを突きつけてきた。
お前さえいなければ。と話すあの顔は、いろんな人の顔をしていた。
こうしてこれを書いている自分に嫌悪感が湧く。どれもこれも嘘くさくてわざとらしい。でも書かずにはいられないと、いっている。

SNSを見るのは怖かった。
でも、やらなきゃいけないことが山ほどあった。
明るく振る舞おうとするみんなが、いた。
心が引き裂けるって表現をしてくれた人。
共感してくれる人。
私が言えることは何もなかった。
大変なことになってしまった。全部が悪い方向にいってしまった。

バラバラになった心は戻せるのだろうか。
この時は本当に、到底無理な気がしていた。
もう誰とも顔を合わせられない、そう思った。

それでも、やらなきゃいけないことが本当にたくさんあった。
過去の自分が詰め込んだ。
ここで折れたら2度と戻ってこれない気がしてしがみついた。稽古に参加して、WSに参加して、開催して。
忙しくしててよかったね。と声をかけてもらった。
たしかに、そうだったのかもしれない。
生活は続くから、止まったら、止まった時は、

なぜか、タオルケットはもう一度。を、もう一度プレイしたいと思った。こんどはしっかりと。


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この文章は2023年の9月頃に書いたものです。
備忘録としてここに記録します。
本当に忙しくしてよかった。関わってくれた沢山の人たちに感謝しています。
また再び向き合う機会を与えてもらって、嬉しくて、言葉にできないくらい嬉しくて、でも、正直にいえば、少し怖いです。
また奪ってしまったらどうしようなどと、考えても仕方のないことばかりです。とにかく気をつけて過ごす、それしかできないけど。
嬉しくて、怖い。この気持ちに嘘はありません。でも、嬉しいんです。
また皆に会えることが、怖くて、嬉しい。
どこかでまだ向き合うのにびびっている自分がいたから、思い切って、でもこっそり、こんなところで記すことにしました。
この怖いを、現場に持って行きたくないから。これは清算。次に進むためへの。
私にできることをやるしかありません。

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