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9歳、夏、キャンプ場


息苦しかったバスから解放されて、荷物をテントの中に置いて外に出ると、「やっと自由になれる」とホッとした。
山の上のキャンプ場は、小雨が降り霧がかかっていた。
先に行けないように阻んでいる柵の向こうには深い森がある。霧がかかって少しだけ不気味にも見えるその景色に、吸い込まれるように釘付けになった。二段ある柵の下段に両足をかけ、乗り出す形で眺めていた。
なぜかここなら落ち着いて、呼吸ができる。湿気を含んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

「どこをみてるんだろう」
「あの子って不思議だよね」

後ろから声が聞こえた。
決して声はかけてこないけど、遠くから監視されてるような気がして
『やってしまった』
急激に恥ずかしくなって、いたたまれなくて、私はすぐにこれからの自分がすべき動きのことで頭がいっぱいになった。
このあとはみんなで夜ご飯のカレーを作るから、キャンプをやるから、1人で行動すると変だと思われるから、置いていかれないように集団の中に入らなきゃ。心臓がキュッとなるのを感じた。

小学生時代の習い事、地元のスポーツ少年団の活動は、私にとっては人間として生きるためのミッションだった。
友達もいなくて、いつも憂鬱で、行く前には何度も熱を測ったりして、苦しかったのに、どうして3年間も続けていたのか今でもわからない。
ただ、両親に変に思われたくない、がっかりさせたくない、そんな理由だった気がする。

集団の中に入ると、呼吸が浅くなる。ただただ人の視線が気になる。私がノロマで、誰かが怒ったりしないか、気持ち悪いと思われないか。
2人1組も勿論嫌いだ。バスでは自分の隣になった子に申し訳ない気持ちになる。
バスで隣になった子は通路を挟んで反対側の友達とずっと話していた。

森はただそこにあるだけだった。キャンプの間終始空は暗かった。虫の声、雨音、揺れる蝋燭の火、ランプを吊り下げた天井。施設の壁の四隅、いつできたのか痣だらけの自分の足。そんなことばかりを覚えている。

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