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宝塚歌劇宙組「王家に捧ぐ歌」新人公演(2015.6)

2015年6月23日
作・演出:木村信司
主演:桜木みなと、星風まどか
宝塚大劇場

 主人公ラダメスの桜木は2回目の新人公演主演、タイトルロール、アイーダの星風は初めての主演。
 星風は入団2年目での大抜擢ながら、前回宙組公演『白夜の誓い』で主役グスタフIII世の少年時代を演じて、さわやかで堂々とした立ち姿、声が驚きをもって迎えられた、娘役のホープだ。
 公演全体としては、主要な役でブレーキとなるような見劣りのする者が1人もなく、歌のうまい生徒が多いこと、そして人数の少ない新人公演で最も懸念されたコーラスに、本公演にも劣らぬほどの迫力があり、非常にレベルの高い、見ごたえのある新人公演だった。
 星風の演じるアイーダは、丸顔が初々しく、見た目はまずかわいいとしか言いようがないのだが、黒塗りの化粧が美しく(やや本役の実咲より黒くしているように思えた)、シャープさを補っていたようで、率直で正直な性格が役の上でよく表われていたように思う。ラダメスの思いを受ける喜びとかすかな戸惑い、父や兄らにラダメスとのことを追及され、逆に彼らをなじる場面、最後の石牢での場面など、振幅の大きい難役を、役から求められるままの大きな振幅で、悲しみ、喜び、決意、怒りなどの様々な感情を演じきったといっていいだろう。歌は地声の伸びが美しく、劇場を満たすボリュームを持っている。テクニカルな面での若干の難はこれからいくらでもカバーできるはず。抱き寄せられる時の背中や掌の表情、視線の強さなどに見られたように、演技もうまく、何より舞台映えがして1人で銀橋を渡る時でも大きな舞台を持たせることができていた。宝塚のヒロインとして最も重要だと思われる、見る者を切なくさせるようないとおしさを持っている。きっちりと育っていってほしい。

星風、桜木

 桜木は前回の主演、『白夜の誓い』に比べて、歌の安定感が格段に増し、表現力も深まった。声はもともと強く魅力的だったが、ブレスにやや不安定なところがあったのが、解決したようだ。本公演でも大きな役がつくようになり、男役としても成熟し、自信がついてきているのだろう。相手役が若かったこと、長の期(新人公演の最上級生、研究科7年)だったこともあり、包容力、リーダーシップの面でも長足の進歩があったことだろう、大ぜいの兵士を率いる姿、星風との場面での大人らしさがすばらしかった。

 見せ場となるのはやはり最後の石牢の場面だが、自分が死んでもアイーダが生きているから世界に希望を残せるといったん安堵し、その直後にアイーダの声が聞こえ、漆黒の闇の中、手探りで相手を見つけ、抱きしめ、愛を確かめるが、「もう、ここから出られない」と絞るように語りかけるシーンまで、この長く大きな感情の変化の表現が難しく思えるところだ。ここが全くわざとらしくなく、自然な流れとしてできており、説得力があった。

 アイーダの兄ウバルドの瑠風輝も姿、歌、演技いずれもすばらしく、見ごたえがあった。新人公演では難しいとされる、専科や組長らの役を演じた穂稀せり(アモナスロ)、留依蒔世(ファラオ)も非常に充実していて見劣りしない。アムネリスの遥羽ららは、本役の伶美とおなじく、やや歌が苦手のようだったが、熱演といえるだろう。少し似合わない役だったかもしれない。宙組の若手の充実がはっきりとわかる、いい新人公演だった。

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