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ある絵師のSkeb回顧録

Skebが好きです。
Skebとは、平たく言うとお金を貰ってリクエストを受けられるサイトです。
頼む方ではなく絵を描くクリエイター側で利用させていただいております。

https://skeb.jp/@sizuori07

そんなSkebについて少しお話させてください。


なんかツイッターで話題になってた


私がSkebを使い始めたのはサービス開始直後からでした。
「画期的な依頼募集サービスが始まった!」
と話題になっており、元々別のサイトでイラスト依頼を受けていた私は、ためらい無くすぐに登録をしました。それまで見る専用に持っていたTwitterアカウントをちょっとだけ整えて(Skebは登録するのにTwitterアカウント必須でした)いざ開始。
勢いよく登録はしたものの、その後何もせずにしばらく放置されます。
まあ依頼は来ませんし、宣伝して積極的に募集を掛ける気もありませんでした。「誰も依頼してくれない……。」なんて思うような多感な時代はとっくの昔に過ぎ去った後でしたので、全く気にもせず「来たらやろう」とただ開けたまま放っておく事だいたい半年。

今でも不思議です。そんなアカウントに最初の1件目の依頼を出してくれる方がいたことが。

当時はツイートゼロ、フォロワーは知り合いだけだった私を、いったいどうやって見つけてくれたのか皆目検討がつきません。
Skeb開発者の「なるがみさん」曰く、最初の一件目のリクエストを貰うのが一番の難関だそうです。難関をただの放置プレイで超えられたのはこの方が私を見つけてくれたからに他なりません。期待値も低かったでしょうに良く頼む勇気が、と他人事のように思っていました。
そんなわけでこの最初の一件目「虹裏メイドのジェダイさん」は私にとって大事な大事な思い出深いリクエストになりました。

アピールなる機能の実装


その後は何枚か虹裏メイドさんのリクエストを描かせていただき、だんだん虹メに詳しくなってきた頃、Skebにアピールなる機能が実装されている事に気づきました。
「依頼をくれ!」と自分からリクエスターに要請する、かなり積極的な機能です。面白そうなので送ったら本当に依頼をくれました。
驚きです。
何せこれまでSKIMA(依頼募集サイト)のリクエストに200件提案したら200件不採用になる世界で生きていたので、3件アピールを出して3件とも色好いお返事が返ってくるなんてもはや事件です。
そして焦りました。今までSkebで順番待ちが出るほど一度に依頼が来たことが無かったのです。私は基本的に全て来た順で作業しています。しかしそれが相手にわからない以上、自分からアピールしておきながら他の依頼を描いているように見えるはずです。それではリクエストをくれた相手が不満に思うかもしれません。それはできれば避けたい事態。
「順番にやるから待ってて下さい」と言葉でツイートするのは簡単です。が、文字だけで事務連絡をするのは何とも味気無い……更にそんなどうでも良い内容をわざわざTwitterで発信するのは嫌でした。
考えた末に描いたのが「Skeb待合室」です。

リクエストにやってきたキャラ達が、待合室で食事をしながら順番待ちをしている様子を描いたらくがきでした。
かなり有名なリクエストマスターさんなので、Skebをやっている人には誰に送ったのかすぐにわかりますね。
Skebは当事者同士の直接連絡は禁止ですがこっちから勝手に発信するのはオッケー。
私の経験則上、依頼人はクリエイターのTwitterを必ず見に来ます。見に来るというか、身も蓋も無い言い方をすればイラストを描き終わるまで絵師のTwitterを監視しています。なのでそれを見越して描きました。
私はどうしても描くのに時間がかかってしまう、でもせっかくだから楽しんで待っていて欲しい、私はあなたを歓迎しているし絶対に忘れたりしないから、伝われ……伝われ……!と思って描いた苦肉の策でした。
これは割りと好評で今もリクエストがくるごとに描くことにしています。

何故か名誉欲に溺れる


さて無事アピール分を描き終え、Skebにも程好く慣れてきた頃、だんだん欲が出てきました。
見て貰えばわかる通り私の絵は、面と向かって下手くそと罵られる事は無いものの飛び抜けて上手いかと言われるとそうでもないレベルです。
そんな私にリクエストをくれるのは
「憧れの押しイラストレーターに絵を描いて欲しい!」とお金を握り締めてやってくるような人ではありません。
「ふむ今日はこっちを試してみようかね」とワインのテイスティングよろしくクリエイターを横に並べて吟味し気が向けば依頼を出す。リクエストの酸いも甘いも嚙み分けた猛者リクエスター達です。もうすでに他のクリエイターから納品された珠玉のイラスト達が個人ページの画面いっぱいにそれはそれはたくさん並んでいます。
……悔しいじゃないですか、自分の描いたイラストが沢山のコレクションの内の一つになってしまうのは!
もし100枚のイラストコレクションがあって全部に順位をつけていったとしたら1番は君のイラストだよって言って貰いたいじゃないですか!
大変です、事ここにいたって敵が出来ました。
Skebの全クリエイター(今8万人超)と戦わなくてはなりません。プロもいるのに?!

ここからは沼でした。
色々なことを考えては実行の繰り返しです。
イラストの上達は基本ですがそう簡単にヒョイヒョイ技術は上がりません。とにかく技術力をカバーする戦略が必要です。
リクエストをくれた相手のTwitterいいねや発言、pixivのブックマーク、これまで送ったSkebのブーストの反応を見て特に喜んでいるイラストをピックアップ、相手の嗜好を探ります。
Twitterを監視しているのが頼んだ側だけだと思ってたら大間違いです。こっちは裏垢もひっくり返す勢いであなたの性癖を探し回ります。深淵をのぞくとき深淵もまたこっちをガン見しています。
他のリクエストと同じようなテイストの絵を描いてしまえば私の存在が埋もれてしまいます。求められたリクエスト内容からは逸脱しないように、でも他とは雰囲気を変えて、時にはアレンジや衣装チェンジを駆使して、目新しさで差別化を図ります。
質で勝負出来ないなら量で押しましょう。オマケを沢山付けておきます。
作業の進捗が見られるのは喜ばれるようです、pixivファンボックスでイラストの進捗を発信しましょう。文章内容も研究を怠りません。絵の技術うんぬんより描いているキャラクターについて触れた方が喜んでもらえます。あとTwitterは元からやる方ではないですが、日常的なツイートをしようもんなら即気にする繊細な人が世の中に多すぎるので発言は控えめ。

……大盛りをサービスしてたら量が戻せなくなった定食屋みたいな状態になってきました、作業の手間がえらいことに……。

それでも気に入ってもらえているかどうかは神、いやリクエスターのみぞ知る事ですが、そんな小賢しい努力をするよりも圧倒的な画力で素早くぶん殴った方が強いのはわかっています。わかっていても何かしなくては収まらないのです。
リクエスターは札束でクリエイターを殴りますが、クリエイターは画力でリクエスターを殴り返します、それだけが武器です。あとはエスパーのごとき性癖察知能力でリクエスト文に書かれていない本音を見抜けたときは喜ばれますが、それもなかなか難しい……。
はたして私のイラストが誰かの1番になれる日は来るのでしょうか……。

今日も描く、求めてもらえるのならば


以上が、現在に至るまでの私のSkeb遍歴です。

「暇なときに好きな依頼だけを受ける」と言う気軽なSkebの本道からは若干逸脱しています。
が、それでもやっぱりSkebが好きです。
Skebはリクエストを無視して描いてもルール違反になりませんし、そもそも最初から「おまかせで!」と言うリクエストが多いです。依頼人の希望を出力するお絵描きマシンに徹していた頃より格段に描きやすくなりました。
さらに納品すればするだけ自分のページに作品が増えていきます、これまでの成果がハッキリ目に見えるのが嬉しいです。
リクエスターのページにこれまで頼んだ作品が並んでいれば「これよりもっと良い絵を描く!」と競争心が湧きますし、リクエストを己の趣味と性癖の美術館にしてしまうSkeb石油王の存在は「私にも描かせて!」とアピールしたくなってしまう不思議な魅力を持っています。
来たリクエストに承認を押す瞬間は、自分の絵の価値を承認された瞬間でもあり、中毒性の高揚感が有るのです。

個人でイラストの依頼をとるのはマッチングサイトの発展によりここ数年で格段にやりやすくなりました。
やりやすくはなりましたが、手間はかかります。それが当たり前でした。
でもSkebは依頼から徹底的にクリエイターの負担を削り、楽しく気安く絵を描ける依頼環境を作り上げてくれました、本当に感謝しています。
先日Skebは出来てから3周年を迎えたそうです。私のSkeb歴もほぼ同じでしょう。
ありがたいことに今は途切れること無く依頼をいただいています。筆が遅いのでとても量産は出来ず、納品ギリギリもしょっちゅうの素人ですが、リクエストを描く喜びは3年を経て増すばかりです。
今日もまた依頼してもらった絵を描き進めたいと思います。

次のリクエストを待ちながら。


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