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藤本タツキ作品はフランス料理 2022/04/12

みなさん、「さよなら絵梨」見ました?ジャンプ+で無料公開されてるんですけど、すごい色んな意味で面白かったんですよ。ちなみに、私は藤本タツキ作品の中でも『ファイアパンチ』、『ルックバック』だけは読了しております。

大丈夫?これ?林士平さんにエゴサされてないね?あの人めちゃくちゃエゴサしてるから引っ掛かりそうで怖いけど、大丈夫ね? 若輩で新兵卒でルーキーで半人前で青二才で洟垂れ坊主で白面郎な私ですがレビューさせていただきます!!!!!!!

でも、ちょっと前にも書いたけど、藤本タツキ作品ってオチが独特で意味が分かんない時も結構あるんですよ。ぶっ飛んでると言い換えても構わない。そもそも、オチに至るまでに大体は主人公周りの誰かが死んで、それでちょっと主人公がおかしくなりがちなんですよね。でも、今回は良い意味でも悪い意味でもその思考を追い抜かれたというか、なんというか。

タイトルの意味はそのままで、フランス料理ってムニエルとかポトフとかキッシュとかエスカルゴとか日本でも有名な料理あるじゃないですか。フランス料理って普段あんまり食べないけど、食べた時は結構味が淡泊で、それでいて上品なイメージがあるじゃないですか。藤本タツキ作品はクセ強いし、オチとかストーリーも意味わかんないけど、読後感として何故か得も言われぬ満足感があるんですよ。そこらへんがフランス料理だなって。フルコースとかっで前提知識とか経験とかが無い状態で、なんとなくで食べても美味いじゃないですか。もちろん、食べる側のレベルがあればもっと美味しく理論的に話せるんだろうけど。

これで人生の考え方が大きくガラッと変わることは恐らくないだろうけど、何かの場面では役に立つかもしれない地味なライフハックみたいな。ポトフとかキッシュを食べるより普通にマック食べた方が満足感はもちろんあるんだけど、食べたことが経験になるというか、階段をひとつ飛ばしてステップアップしてる感覚みたいなものもどこかにある気がする。

内容はネタバレになっちゃうから伏せるけど、全部で203ページあって、100ページごとくらいでちょっと時間空けて読んだけど、やっぱ重たいね。ペヤングのペタマックスくらいのカロリーがある気がする。でも、私としてはヒロインの「絵梨」は『ファイアパンチ』の「トガタ」みたいな良さがあったな。『チェンソーマン』の「マキマ」は優しいのか怖いのかなんなのか分からないし、あんまり掴みどころが無くて好みではなかったけど。でも、本当に恋愛感情が伴わないプラトニックな男女関係を描くのがお上手。キャラが確立されてるし流れが映画のワンシーンが前提だからこそ、日常の一部始終がドキュメンタリー調で映えるとこは素直に面白いし、綺麗な流れだなと思った。すごい。

ちょっとネタバレになるけど、トガタみたいなタイプの女性を描くのが好きなんだろうね。でも、『ファイアパンチ』は文明が退化してて、そもそも主人公との共通性が薄かったし、結果的に実質的なヒロインではなかったけど、今回は「映画」って共通点があって良かったな。伏線も色々とあったし。すごいストーリーが綺麗なんだよな。

でも、それを超えるオチの意味不明さ。今までが上等なフランス料理だったのに、味変でカレーをぶちまけたようなエキセントリックな手法。初見で見たらホントに目が丸くなってTwitterで「意味が分かんなかった」って悪口書いてるんだろうな。でも、何回か見てるとこれが味になってきて、スパイシーさを受け入れられるようになる。それを加味しても意味は分からない。そこだけは譲れない。

しかも、このオチのためにフロスロットルでフリを作れるのが本当にすごいところだよね。203ページある中の100ページくらいはラストシーンのフリでしかない。劇場型の犯行というか、視点を一緒に追うことで感情移入させることに時間を費やして、感動的になる直前でぐちゃぐちゃにされる。多分だけど、これは自分が砂場で頑張って作った砂山を完成する間際で踏みつけて破壊する感覚に近い。藤本タツキ先生は破壊と創造が性的倒錯だと考えて十中八九間違いがない。自分の作品でフェチズムを満たして恍惚としているに違いない。

意見をまとめると、個人的には面白い作品だと思ったけど、これを手放しに評価できないし、どこを評価すればいいのかもまったく分からない。これはモネが最初に作品をただのスケッチのようだと軽蔑されて「印象派」と揶揄され、その革新的な狼煙を多くの人間が見落としたのと同じ理屈なのかもしれない。

我々がその昔、モネ・ゴーギャンの「印象主義」やピカソの「キュビズム」やバンクシーの「グラフィティ」を理解できず、遠ざけたのと同じように、藤本タツキ先生の作品を遠ざけるのはもったいない。一歩踏み出せばまったく視点が変わる新天地が待っているかもしれないのに。

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