東京事変 2022/04/09

私は東京事変が好きである。もっと言えば、椎名林檎氏も好きである。2012年の閏年から約8年間スリープしていたので、2020年の「再生」には本当に驚嘆したが、今の心境は「またどこかに消えてしまわないかな」と感じていて、私は今、泡沫の夢を見ているような気分で応援している。厳密には私が聴き始めたのは解散後のもっと後なのだが、事実として8年間の空白期間があったのだ。怯えるのも無理はない。

さて、私が東京事変と出会った時の話からしていこう。最初に拝聴したのは数年前で、「群青日和」、「透明人間」、「遭難」、「キラーチューン」など。東京事変としては初期~中期のものをYouTubeで聴いたのが切っ掛けだったろうか。そこからどんどん東京事変の深みにハマっていったが、その時にはこのバンドはもう既に蛻の殻だったのだ。

これには今まであった居場所への喪失感のような感情もあったが、だからこそ、2020年の「再生」には、これからまた0から築いていく意思表明であり、重い腰を上げようとするところだと、ワクワクしながら待っていたのだが、実際には同年から現在までタイアップや新曲などを破竹の勢いで作り続けている。怖すぎる。実は2019年に「三毒史」という”椎名林檎”名義で出したアルバムと東京事変が2021年にリリースした「音楽」は地続きになっていると本人が公言しているので、そこも併せてチェックするとより深みが増すかもしれない。

そして、私が東京事変に対して初めて感じたイメージとしては、「曲ごとに印象がまったく異なる」ということだろうか。時に「透明人間」や「閃光少女」のように明るいポップスのようなものもあれば、「遭難」や「能動的三分間」のようにバラードのように冷静沈着だが、リリカルでいてテクニカルな印象も見受けられる。しかも、椎名林檎氏は10代の可愛らしい少女のような姿を見せたかと思えば、次には妖艶で色香のある女性にも彩られるのだ。その指揮をしているのは紛れもなく他のメンバーである「亀田誠治・浮雲・刄田 綴色・伊澤一葉」によるものだ。その姿はまるで楽曲でドレスコードをしているようにも、シンデレラの手を引くプリンスのようにも思える。

とはいえ、どれもバラバラに離散や空中分解することは無く、曲としてまとまっているのだ。恐ろしいほどに。しかし、一点だけ気になる点があるとすれば、東京事変には「椎名林檎氏の主張があまり入っていない」ように感じるのだ。

もちろんこれは”椎名林檎”名義と比べた場合なので、それは当然なのだが、椎名林檎氏の我が儘で傍若無人で、それでいてターゲットを離さないような粘ついた恋愛感情や、強い自己主張やエゴイズムがそこまで如実に感じられず、東京事変では、もっとマイルドで淑女のような印象を受ける。

でも、冷静に考えれば道理としては明瞭なのだ。この5人で東京事変なのだから。椎名林檎氏も結成時から組んでいる亀田誠治氏へのリスペクトは当然ながら、その他のメンバーに多くの敬意を払い、そして他のメンバーも椎名林檎氏に多くのリスペクトを感じる。そのリスペクトが根幹にあるからこそバラバラではなく、音としてまとまるのだろうと私は邪推している。

私が個人的に好きな曲は「御祭り騒ぎ」・「ブラックアウト」「スイートスポット」・「FAIR」・「シーズンサヨナラ」・「ドーパミント!」・「風に肖って行け」・「孔雀」・「一服」辺りだろうか。全体的にスポーツの曲が多いような気もする。

私なりに堅苦しく、ポエティックに東京事変の魅力を伝えてきたが、最終的に一言で伝えるなら、東京事変は「亀田誠治・浮雲・刄田 綴色・伊澤一葉」が様々なアプローチで「椎名林檎」の120%を引き出そうとするバンドだと感じている。

もちろん、ボーカルを引き立たせるという意味では、この目標はどのバンドも同じだろうが、やりたいこと・方向性を自分たちで決めた上で、しかもソロでも才覚を十二分に発揮している「椎名林檎」の120%を引き出そうとするのは難しいことだろう。

椎名以外のメンバーが作曲する場合は常に曲先行で、椎名が歌詞を書く場合は出来た曲に後から当てて行く。普段、椎名はまず和声とメロディが浮かび、その時のイメージと音感で歌詞を連ねていくが、東京事変では曲を聞いてメロディだけでその作家が作曲した背景まで手繰って行き、"たった一つしかない正解”の歌詞を全身全霊を傾けて獲得しようと試みる。
浮雲の曲は楽器ありきでそこに声が乗っているというとらえ方が正しく、歌謡的要素がないので、そこを一番汲み取れる本人が歌詞を書くことが多い。浮雲が書いた方が自然な時はそうするし、歌謡寄りに持って行ってもいいのではと思えば椎名が歌詞を書くこともある。

Wikipediaから参照した作詞についての項目だが、椎名林檎本人も120%を出す努力をしていて、それでいて周りもそれをサポートしている姿がとても美しいのだ とやけに腑に落ちた。今回は好きなものなので、どうせなら詩的に楽しく書こうとしたが、長文になってしまった。それでは、そろそろお暇させていただく。

三分間でさようなら はじめまして Bon Voyage



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