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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ㊺

英会話スクールに来た目的にビックリ!

待ち合わせ場所のスクールの門が見通せる場所まで来ると既に3人の姿があった。みなを一目見てホッとした。それというのもフィリピンの高級レストランではドレスコードの基準が厳しいと聞いていたからだったが、普段着しか持って来ていないことで少しだけ気になっていたからだった。

挨拶を交わしているところへタクシーがやってきたので、乗り込んで目的地へと向かった。助手席には玉ねぎさんが座り私はご夫婦に促されて運転席の後ろに座ったが、明らかに私よりも先輩の方よりも上席に座ることに恐縮した。

タクシーは大通りに出てクバオ方面に向かった。車内ではご夫婦と会話をするでもなく重苦しい雰囲気の中で車窓を眺めていた。しばらくしてタクシーは大通りを左折して住宅街を抜けて教会の前に停まった。

この建物は写真で何度か見たことがあり、すぐにビノンド教会だと分かった。日本でマニラの英会話スクールを探している時に、この教会の近くにはフィリピンで最古のチャイナタウンがある事を知った。

それと同時に周りにはスラム街があり観光客は間違っても近づいてはいけない危険な場所と認識していた。

そしてジャムやマーガリンからもチャイナタウンにはSIOPAO(肉まん)や水餃子で有名なお店が並んでいるが、絶対に一人ではいかないようにとくぎを刺されていた。

我々はタクシーを先に降りて玉ねぎさんが車外に出てくるのを待って、一緒にオンピン通りという商店街を歩いて行き、20人ほどの列ができている通り沿いの中華料理店に入った。

店内には丸テーブルはなく4人掛けのテーブルが6つあるだけだった。その内の5つのテーブルでは楽しそうにフィリピン人の家族が食事をしていた。

店内を見まわしても派手な装飾はなくいたって質素で床もタイルなどは貼ってなく、ただごつごつしたコンクリートがむき出しになっていた。

なぜ玉ねぎさんはこんな店を選んだのだろうか?

玉:「シゲ、ここまで来てくれてありがとう。あ~たのパードンのパフォーマンス、ウケたわ。」

鍵:「いや~。ウケて貰ってよかったです。今日は誘っていただきありがとうございます。」

玉:「あら、自己紹介がまだでしたわね。私は、サオリだけどチャックって呼ばれているわ。あーたもそう呼んで。そして、こちらは安田さん夫婦で、ご主人がマサシで、奥様がショウコ。」

マ:「安田です。よろしくお願いします。マサシと呼んでください。」

シ:「ショウコです。よろしくね。」

鍵:「お話しするのは初めてですね。シゲと呼んでいただけて嬉しいです。チャックって口が堅いのですか?」

玉:「違うわよ。ただおしゃべりだから、口にチャックしたらって言うのよ。失礼でしょう。でもあんがい気に入っているのよ。ふっふっふと笑った。ところで、シゲ。この店は、飲茶やむちゃが美味しいのでいつも頼んでいるのですわ。あ~たもそれでよろしいかしら?」

鍵:「はい。お任せします。」

玉:「あ~た、アルコールは?シゲ。」

鍵:「大好物です。」

玉:「あら、ビールでよろしいかしら?」

鍵:「はい。お願いします。」

店主らしいご夫婦がテーブルまで来てチャックに深々とお辞儀をした。3人は何やら話していたが多分タガログ語なので話の内容は全く分からなかった。

その後、若い女性がオーダーを取りに来て、チャックが注文をした。

会話は英語だった。

S:「Hello. サオリ。Are you ready to order?」こんにちは。サオリ。ご注文はお決まりですか?

玉:「Yes, we are. Jamie. All four have the dim sum. And please give me two bottles of beer. 」

はい、ジェミイ。4人とも飲茶。そして、瓶ビールを2本ください。

S:「Is it okay for beer to be Red Horse?」ビールはレッドホースでいいですか?

玉:「Yes, It is.」はい。それで。

S:「Thank you. I’ll bring beer first.」ありがとうございます。ビールは先にお持ちしますね。

玉:「please.」頼むわ。

ビールが届いたので、乾杯!

何種類もの飲茶に舌鼓を打ちながら会話は弾んだ。

玉:「シゲ。あーたの顔には、どうしてこんな庶民的な店を選んだのかって書いてあるわ。」

鍵:「いや~。図星です。そして、ビノンド教会の周辺は危険だと聞いていますから。」

玉:「そうでしょう。マニラ観光ガイドのどの本をみてもそのように書いてあるわ。スラム街も近いですから。」

シ:「しかしチャックが一緒だと安心よ。」

マ:「そうだね。ショーコちゃん、チャックはこの辺りに知り合いも多いしね。」

鍵:「どうしてですか?」

シ:「彼女はマニラに住んでいるのよ。」

鍵:「えっ、それじゃどうして英会話スクールに?」

玉:「そうね。一番の目的は日本語を話したいからですわ。」

鍵:「日本語を話すために英会話スクールに??」

マ:「私たちも聞いたときは驚きましたよ。」

玉:「そうそう。変ですわよね。私はフィリピン人の夫と暮らしていましたが、死別して今は一人ですのよ。」

鍵:「そうなのですか?それでも何故スクールに?」

玉:「我々のスクールは居心地が良いからですわ。食事も日本食だし掃除も洗濯してくれるし、日本人とも気楽に話が出来て楽しいですわ。」

鍵:「どれぐらいいる予定ですか?」

玉:「大体半年に一度来て1か月位いるのです。それが私のストレス解消法なのですわ。今回はスクールで知り合ったショウコと再会するために来たのですわ。おまけにマサシも来ちゃったけど。うふふ。あら、冗談よ。」

シ:「私は5年前に一人で来てチャックと知り合って。そして、今回はマー君も連れてきちゃったの。」

マ:「おいおい、なんだか僕は、本当にお邪魔虫みたいだな。」

玉:「そんなことなくってよ。マサシ。あーたは、お邪魔虫というより、おしりかじり虫って感じだわ。」

鍵:「いやあ。皆さんはとても良い関係なのですね。ところでマサシさんは、どうして英会話を?」

マ:「ホント言うと、英会話を勉強したいとは思っていないです。」

鍵:「えっ、じゃホントに奥さんのお尻にかじりついて“俺もいく”ってパターンですか?」

シ:「そんなことないわよ。私たち終の棲家を探しに来たのでから。」

鍵:「どういうことですか?」

マ:「私たちは、夫婦で入所できる高齢者施設をフィリピンで探しているのですよ。」

鍵:「フィリピンがとっても好きなんですね。」

マ:「いいえ、そんなことはありません。出来れば日本で暮らしたいですが、資金的に無理だと思うので。」

シ:「そうです。こちらでしか生きていけないと思うからですの。」

玉:「シゲ。ここなら年金だけで暮らしていけると思って沢山の日本人がこちらに移住して来ているのよ。日本は高齢者を輸出しているって問題になったこともあるぐらいなの。しかし、日本人が来てくれれば仕事も増えからと今では歓迎しているわ。」

鍵:「そうなのですか。知りませんでした。それで、気に入ったところが見つかったのですか?」

シ:「いいえ、まだ探しています。」

鍵:「日本にいる家族は賛成なのですか?」

シ:「私たちに家族はいませんのよ。若いころに話し合って子供を作るよりも二人の夢を実現することに人生を掛けようと決めたので。」

玉:「そうなの。そして、二人はスキー場でペンションを経営する夢を実現したのよ。やるわよね。」

鍵:「凄い!」

シ:「でも失敗しちゃった。」

マ:「それで家も何もかも全部なくしちゃいました。」

鍵:「そうだったんですか。大変な思いをされたのですね。」

マ:「でも全く後悔はしていませんよ。一度きりの人生ですからトライしたことに満足しています。」

シ:「私もですわ。若い夫婦にペンションを買ってもらえたので借金が残らなかっただけでもラッキーでしたのよ。」

マニラの施設に慰問に行きたいのでウクレレを教えて欲しい

マ:「それで、シゲさんに相談なのだけど、僕らにウクレレを教えて欲しいのです。それに、トークも。」

鍵:「私で良ければウクレレはお教えしますよ。しかしトークは無理です。それにしてもなぜ、ウクレレなのですか?」

マ:「高齢者施設に入所出来たら二人で練習して、他の施設に慰問に行ったりスラム街の子供たちに教えたりしたいのです。それをこれからの夫婦の共通の目標にしようと。ウクレレならお金もかからなそうだし。」

鍵:「素晴らしいですね。そういえば来週高齢者施設に慰問に行ってフィリピン人の方と一緒にウクレレ弾きますよ。良かったら参加したらどうですか?」

マ:「参加したいです。詳細情報をください。」

鍵:「はい、喜んで。」

玉:「安田さんご夫婦は羨ましいわ。夫婦の共通の目標っていいわ。私の主人は5年ほど前に亡くなってしまったけど、彼は毎日ボランティアで走り回っていて一緒に旅行にも行けなかった。今思えば彼の夢にももっと積極的に付き合ってあげればよかったと後悔しているのよ。」

鍵:「ご主人の夢って何だったんですか?」

玉:「彼はこの近くのスラムの出身でしたが、裕福な方から援助して貰って技能実習生として日本に行くことが出来たのよ。

そして、日本で農業を学んでフィリピンで事業を起こして成功して、中華料理店も経営したのよ。

彼は、同じ境遇で暮らしているスラム街の子供たちを支援したいと考えてボランティアで日本語を教えたり、技能実習生として日本や韓国に行けるようにサポートしていたのよ。それで、貧困から抜け出せた人達も多いのよ。そのうちの一人がこの店のマスターなのよ。」

鍵:「そうだったんですか。それで今日はこの店なんですね。納得です。」

玉:「彼は、私が生きてゆくのに十分なお金を残してくれただけでもありがたいのに、これから人生の生きがいまで残していってくれたので感謝しているのよ。

私に出来ることは少ないけど、彼が生きている時から我が家で働いてくれているメイドさん達に日本語や英語を教えているのよ。

日本語や英語が出来るメイドは賃金が高く貰えるから。日本語が喋れるようになったらもっと違った仕事に就くことが出来るようになるでしょう。

そうやって、人生を好転させた人達も多いのよ。」

鍵:「フィリピン人に英語を教えている?たしか英語は公用語ですよね?」

玉:「それが日本人の認識不足なのよ。スラム街の子供達の中には、十分な教育を受けられない子も沢山いるのよ。それが貧困の連鎖を生んでいるのよ。シゲ。覚えておいてね。日本ほど識字率の高い国はないんだから。」

鍵:「そういえば、僕はボランティアで日本語を教えていたけど、英語を喋れないフィリピン人の方もいたな。日本人と結婚して来日した方とかの中には多かった。

しかし、技能実習生で来ているフィリピン人の方々は、英語をしゃべっていましたよ。それに来日する前に日本語学校に通っていたということで日本語も少しだけ話すことが出来ていましたよ。」

玉:「そうなのよ。技能実習生として日本に行けるのは恵まれた人たちなのよ。先生からあーたがボランティアで日本語を教えているって聞いたから是非話をしたいと思ったのよ。彼らの日本での生活はどうなの?」

鍵:「詳しく知らないけど、ニュースで技能実習生制度の問題点について取り上げていますよ。」

マ:「良い仕事先に恵まれたらいいけど、ただ単に労働力として働かされる場合もあるようだし賃金トラブルなどいやいろいろな問題があるように聞いていますよ。」

鍵:「実習生の話だと、日本人との賃金の差はあるけどその中から仕送りしたり出来て満足しているし、日本に来て初めて貯金をする必要性を知ったと言っていました。」

玉:「そうでしょうね。フィリピン人は基本的に貯金をする文化がないから、手元にお金があれば欲しいものを次から次へと買いますのよ。

それにフィリピン人はお金を持っている人がサポートをするのは当たりまえという認識なので、お金に困っている仲間がいれば援助するし、自分が仲間を助ける代わりに自分が困った時もきっと誰かが助けてくれると信じているのですわ。」

シ:「それにフィリピンの家庭にはブレッドウイナーっていますよね。」

鍵:「なんですかそれ?」

玉:「そうね、日本語だと大黒柱ね。親はまず長男・長女を育て稼げるようになったら親の代わりに子供が大黒柱となり、家族の為に必死に働くのよ。

親は早々にリタイヤしてしまうけど年金制度が不十分なので子供に養ってもらうのよ。確りした大黒柱がいれば遊んで暮らせると思うから全く働かない人もいるのよ。

私の亡くなった主人は、自分がブレッドオーナーにされてしまって、最初の妻の家族の生活を支えることが嫌になって別れたのよ。」

チャックの話によると、フィリピンでは原則離婚は認められていないので、正式に離婚するには裁判するしかなく多額の費用と時間がかかる。

それでもチャックさんとご主人は時間を掛けて離婚手続きを完了させてから、結婚したという事だった。

今日はおいしい食事と楽しい会話で満腹になった。それにしても人生いろいろだなぁ。

安田さんのご主人は「僕らは落ち武者ですから」といって笑っていたが、人生を掛けてチャレンジしたという生き方、チャックさんの夫の思いを引き継いで生きてゆく人生、人間って面白いなぁ。

それに比べたら自分の人生がなんとも平凡に思えてきた。

こちらにいるうちにチャックさんと安田さんご夫婦の思いに少しでも寄り添って行きたいという思いが強くなった。 

そして安田さんがどのような終の棲家にたどり着くのかぜひ知りたい。

そしてチャックさんがご主人の遺志を継いでやろうとしている事にも興味がある。

それにしてもチャックさんの話を聞くだけの食事会だった。そして、ありがたいことに顎足あごあしつきで接待して貰った。

帰りのタクシーの中でスマホの電源を入れたら代官からのlineが沢山来ていたが、内容は猫だらけだった。

 今度は私が3人をご馳走したいけど、その場合もチャックの口は閉じないだろうなぁ。と思いながらチャックというニックネームは言い得て妙だと感心した。

日本で事業に失敗して、フィリピンに骨を埋める

 そう思いながら部屋に戻った。そして翌日、フルーツにも許可を貰えたので、今度の日曜日の高齢者施設への慰問には安田さんご夫婦も参加することになった。

 そのことは嬉しいのだが英会話スクールへの夫々の参加理由が私のイメージとはかけ離れていたことに驚かされた。

チエは韓国語を学びたかったがご主人の遺志を継いで、東京オリンピックでボランティアをするために勉強に来ている。

マサシさんは、英会話を学ぶつもりはないけど、奥さんに付き添う形でこちらに来ている。そしてフィリピンに骨を埋めるつもりで高齢者施設を探している。

チャックは、フィリピンに住んでいるのに日本語を話したいという理由だ。

そう言えばユリはなんで英会話スクールにどうして来たのだろうとふと思った、今度会ったら聞いてみよう。

彼女の事だから英語を一生懸命に勉強する気はないけど、暇だから来たのよって言いそうだ。

次の日の朝食はチャックに「Thanks for dinner.」夕食をありがとうというお礼からスタートした。

そして、チエとユリとは、昨日の情報交換を筆談で行ったがお互いに話すことが多すぎて時間が全く足りなかった。

食堂を出るとマニラ空港から一緒にタクシーできたケンが後ろから追いかけて来て、声を掛けてきた。

彼の話の内容としては、シゲは大企業の管理職であり取締役への就任が約束されていたのに、やりたいことがあるからと早期退職して起業。

そして上梓じょうししたビジネス本はベストセラーになりセミナー講師としても人気がある。そんな私に仕事で自分の夢を叶えるためにどうしたらよいのかを相談したいという事だった。

なんとも困ったものだ。取締役に就任できるなら会社を辞めなかったし、ベストセラー作家で講師として引っ張りだこならフィリピンに一月もいないと思いながら、心配した通り噂は “おひれはひれ” がついて私が知らない間に、日本経済新聞の私の履歴書の欄にいつ掲載されてもおかしくない人物になってしまっていた。

このままほっておくと次の1000円札の肖像画になりそうだといってユリとチエと笑ったが、彼の誤解は早急に解かないといけないし、それでも出来る限り彼の期待に応えてあげたいけど。

さて、どうしようか。

ジャムのレッスンは昨日のウクレレの練習会とクバオの一人旅の話題で、2時間を費やしてしまった。従ってレストランでの英会話とスマホの修理を頼む時の英会話レッスンは明日になってしまった。

レッスンが終わってスマホを見てみるとLineの着信が溜まっていた。殆どが代官からなので適当に返信しておいた。

昼食は、ユリとチエと筆談で情報交換をした。上級者テーブルには私と同年代と思おぼしき男性が若者たちと会話を楽しんでいた。

見るからに我々とは英会話に対する思い入れが違うタイプだと直感で分かった。しかし、彼と目が合ってしまったので軽く会釈を交わした。

元北斎の親(おや)魂(だま)は今どこ?

 その後急いで部屋に戻って桶まんから北斎の親魂の事を聞きたくて、いつものように奴を呼び出した。

鍵:「助さん、北斎の親魂の件だけど、どうだったのですかな?」

桶:「へい。それがまだ来ておりやせんでござる。時間がかかる時は、休暇中ではない可能性がたかいでござる。」

鍵:「なるほど、そういうことですか。」

桶:「その場合は、犬や猫ならラッキーでござる。人間の場合は、とても面倒くさいでござる。」

鍵:「人間だったら分かり合えると思いますが、どうしてですかな。」

桶:「ご隠居は、赤の他人にあっしとの事を説明して、おでこをくっ付けてくれって言えるでござるか?」

鍵:「そんなこと言ったら怖がられてしまうでしょうな。」

桶:「あっしもそうだと思いやす。しかし、犬や猫なら事情を説明しなくてもいいでござる。」

鍵:「本当にそうでございますな。飼いネコや犬なら好都合ですな。それでも爬虫類はちゅうるいは勘弁してほしいですな。会いに行くなら北朝鮮以外で台湾とかベトナムなどの東アジア地区が嬉しいですな。ヨーロッパやアメリカでも行く価値はありますぞ。」

その時着信音がなった、lineかと思ったら。桶まんへの通知だった。

桶:「ご隠居。届きましたでござる。」

鍵:「で、どうですかな。」

桶:「現在の居住地は、日本でござる。やりましたね、ご隠居。」

鍵:「ツイてますな。」

桶:「本体はどれどれ、え~っ。猫ですよ、ご隠居。」

鍵:「ここで全部の運を使い果たしてもいですな。まさか、飼いネコですか。」

桶:「えーと、トラ・・。」

鍵:「やりましたな。トラネコ。」

桶:「ご隠居。チョット違いやす。クマネコでござります。」

鍵:「クマという名前の猫ですかな。」

桶:「いいえ。違うでおま。和歌山県白浜に住んでいるクマネコでござる。」

鍵:「クマネコってどんな猫かググってみますかな。」

桶:「ご隠居。熊みたいにでっかい猫ですかい。」

鍵:「なんですと。熊猫と書いてパンダと読むそうですぞ。」

桶:「パンダってあの中国のでござるか?」

鍵:「そのようですな。パンダは和歌山にもいるんですな。誰か個人で飼っているか、野良のパンダという事になりますが。」

桶:「いいえ、パンダを個人で飼っているなんてありえやせんし、日本に野良のパンダがいるわけござんせん。パンダはアドベンチャーワールドというところで飼育されておりやす。

鍵:「アドベンチャーワールド?とにかく和歌山で暮らしているんですな。それなら帰国したらすぐに会いにいけますな。」

桶:「しかし、ご隠居。コンタクトは難しそうでござる。」

鍵:「そうですな。どうやってパンダとおでこをくっ付ければいいのですかな。考えてみると難しそうですな。」

桶:「あっしの方でそのパンダの事もう少し調べてみやす。」

マーガリンとスキンシップ

マーガリンとのレッスンは、「What did you do yesterday?」昨日は何をしましたか?で始まって、一日の出来事を翻訳機の力を借りながら英語で説明した。

そして英語の表現や発音の間違いを指摘されてその都度レッスンを受けた。

マーガリンのプロ意識の高さには感心させられるが、何もそこまで厳しくしなくてもいいのになあと思ってしまう。

私も彼女に「What did you do yesterday?」と聞いてみたら、午前中は教会に行き、午後はスポーツジム。そして、夕方からスピリチュアル研究会の仲間達との集まりに参加したという事だったがマーガリンの行動力は凄いと感心した。

その話を聞いていた桶まんが、突然声を掛けてきた。

桶:「ご隠居。チャンスでっせ。あっしの事をマーガリンに説明してくだせいやし。」

鍵:「どうしてですかな。助さん。」と室内を旋回している桶まんを目で追いながら話をした。

桶:「マーガリンならあっしらの事分かってくれるかも知れやせん。」

鍵:「分かって貰ったってしょうがないでしょう。」

桶:「スピリチュアルに興味のある彼女が分かってくれなければ、パンダの飼育員に分かって貰えるわけないと思いやす。ご隠居、Let’s tryでござんす。」

鍵:「そうですな。やってみましょう。」

マ:「Shige. Are you okay?」シゲ、大丈夫ですか?

と、私が桶まんと話しているところをみて不思議に思った彼女がつぶやいた。

鍵:「I’m okay. By the way, do you believe in souls?」私は大丈夫です。ところであなたは霊の存在を信じていますか?

マ:「Of course I believe.」もちろん信じていますよ。

鍵:「Don’t be surprised. I’m talking to my soul.」驚かないでください。私は自分の霊と話をしているのです。

マ:「Seriously? I’m surprised. If that is true, I’m so jealous of you.」マジですか?びっくりです。もしそうならあなたが羨ましいです。

鍵:「Would you like to experience it?」体験してみますか?

マ:「I definitely want to experience it.」ぜひ体験してみたいです。

鍵:「Okay. Now stick your forehead to my forehead. 」それでは私のおでこにあなたのおでこをつけて下さい。と、翻訳ソフトと使って説明しながら彼女のおでこに手を当てた。

 マーガリンは怪訝そうな顔をしながらも応えてくれた。

鍵:「・・・・・・」ほら、が霊見えるでしょう。彼が同時通訳をしてくれます。

桶:「初めまして、サブ魂の桶まんごろうでおま。よろしく。」

マ:「あら、こちらこそよろしく頼むわ。私にもサブ魂っているの?」

桶:「へい、勿論おりやす。」

マ:「私のサブ魂とあなたは話が出来るのかしら?」

桶:「担当している奴によりやす。どれどれ、マーガリンのサブ魂は、あぁこいつはダメでおま。」

マ:「どうしてかしら?」

桶:「こいつは、イグジットっていう奴で、別名シビルサーバントって呼ばれていやす。

決められたことだけ確りこなすタイプでやす。それ以外の事は興味もない奴らですござんす。

一番好きな言葉が“遅れず 休まず 働かず”でござんす。そして、ほとんどの人のサブ魂はこ奴でござんす。」

鍵:「そうなのか。それにしてもこんな格好は人に見られないようにしないと。

マ:「・・・・・・」そうだわよ。見られたら最後、噂はすぐ広がるわよ。シゲ。誰にも見られないようにしないとだダメよ。

鍵:「・・・・・・」そうしましょう。マーガリンの谷間が気になるなぁチョット触ってみたい。

マ:「・・・・・・」まぁ、シゲってエッチね。でも、少しぐらいなら触ってもいいわよ。

鍵:「・・・・・・」いや~。我慢するよ。その気になると困るから。

マ:「・・・・・・」1回ぐらいならOKよ。と言って、私の手を掴んで自分の胸に誘導した。

鍵:「・・・・・・」ひさしぶりだなぁ。この感触。

マ:「・・・・・・」あら、奥さんとのスキンしプはないの?

鍵:「・・・・・・」全然ないですよ。

マ:「・・・・・・」あらそうなの。一回ぐらいならいいわよ。私はもう妊娠しないしでもパートナーにばれないようにしないといけないの、彼は嫉妬深いから。

マーガリンはやっぱりサド!

鍵:「・・・・・・」パートナー?

マ:「・・・・・・」彼と結婚したいけど私には法律上の夫がいるのよ。実際には分かれていてもフィリピンには離婚制度がないから正式に離婚して結婚するって大変なので、この先もずっとパートナーのままなのよ。

鍵:「・・・・・・」どんな人なの?彼の事をイメージしてみて。

マ:「・・・・・・」いいわよ。

鍵:「・・・・・・」おう、彼は全裸だよ。それに傷だらけだ。30代?筋肉質で格好いいな。なには、で、でっかいなー。フィリピンバナナの様だ!

マ:「・・・・・・」ええ。恥ずかしいわ。私はマッチョが好き。でも、バナナは大きさだけじゃないじゃないでしょう。彼はテクニシャンなのよ。そして、彼はマゾ。そして、私はサドで相性抜群なのよ。あなたもマゾを経験してみたい?病みつきになるわよきっと。

鍵:「・・・・・・」ぼ、僕は遠慮しておきます。痛いのが嫌いなので。

桶:「これどうです?お二人の写真でござんす。」

鍵:「・・・・・・」こら桶まん!やめろよ。俺の裸の写真を消してくれ。

マ:「・・・・・・」シゲ。あらいいじゃない。でもポッコリおなかね。ジムに行った方が良いわよ。あら、あなたのモンキィバナナ可愛いじゃない。私嫌いじゃなくってよ。」

鍵:「・・・・・・」ほっといてくれ!マーガリン!美乳だね。それに腹筋が割れていて格好いい。それにボディビルのポーズが笑えるな。それにおっぱいとへそのところのチョウチョのタトゥーは可愛いね。それにアンダーヘアもチョウなんだね。

マ:「・・・・・・」「ジムで練習の後に鏡の前での決めポーズよ。彼は、チョウチョが好きなの。アンダーヘヤは毎日お手入れしているのよ。」

鍵:「・・・・・・」へえ~。彼の趣味ねぇ。

マ:「・・・・・・」そうよ。ところでシゲの奥さんはどんな人?」

鍵:「・・・・・・」こんな感じ。

マ:「・・・・・・」可愛いわね。犬なの?

鍵:「・・・・・・」いいえ、もう一度。こんな感じ。

マ:「・・・・・・」あら、エプロン姿が可愛いじゃないの。それにおっぱい大きいわね。彼女はこんなに魅力的なのに何故、スキンシップをしないの?

鍵:「・・・・・・」スキンシップなんて、いや~。10年以上していないなぁ。ハグもしないし、手もつながないよ。

マ:「・・・・・・」あら、手もつながないの?それで、奥さんは怒らないのかしら?フィリピンだったら毎日、ハグやキスしないと離婚だわ。

鍵:「・・・・・・」いや~。ホント?

桶:「おう。二人は前世でも会っているでおま。ピコピコピコ」

鍵:「・・・・・・」えっ、驚いたな。桶まん。ピコピコピコはなに?

マ:「・・・・・・」どんな関係だったのかしら?

桶:「ピコピコピコは、もうすぐエネルギーが切れるということでおま。二人は女王バチと働きバチでおま。」

鍵:「・・・・・・」俺は前世も働き者だったんだな~。

マ:「・・・・・・」私は前世から女王様だったのね。納得だわ。

桶:「いいえ、逆でおま。ご隠居が女王バチでござんした。」

えっ、そんなあほな、と言いながらおでこを離した。

マ:「I’m surprised. I could see your soul.」驚いたわ。あなたの霊がみえたわ。

鍵:「Is that so. Don’t tell anyone.」そうですか。誰にも言わないでください。

マ:「Nobody believes it. Don’t tell the Jam if you make a mistake. She has a big mouse.」言っても誰も信じてくれないわ。

鍵:「Sorry?」なんですって?

と聞いて、マーガリンが一瞬だけおでこをくっ付けてきた。

マ:「・・・・・・」間違ってもジャムに言ってはダメよ。彼女はおしゃべりだから。

桶:「ピィー」

マ:「His energy seems to be gone.」彼のエネルギーはなくなったようだわ。

鍵:「I guess so. You can say that again.」そうみたいですね。あなたの言う通りジャムに言ったらダメですね。

マ:「Let’s keep it a secret only for us two.」我々二人だけの秘密ということで。

鍵:「By the way, is he rich?」ところで、彼はお金持ちなの?

マ:「No, he isn’t. But just because you’re rich doesn’t mean you’re happy. 」

鍵:「Sorry? Please speak to this smartphone again. 」

マ:「Okay. No, he isn’t. But just because you’re rich doesn’t mean you’re happy.」いいえ、しかし、お金持ちだからといって、幸せとは限らないわよ。

鍵:「Yes, I agree.」はい。御意。

この日のマーガリンのレッスンでは、私が持参した本は1ページも進まなかったが、音読の宿題を出された。マーガリンはレッスンでもサドだった。今度宿題を出されたときは「Give me a break.」勘弁してっていちゃうぞ。

安田さんご夫婦のウクレレを買いにショッピングモールへ

レッスンが終了して、スマホを見るとLineが沢山届いていた。やっぱり殆どが代官だったがその中に連れ合いからのものがあったので、即チェックした。

 メッセージは「お父さんがソックスちゃんと会えなくって寂しいだろうと思って動画をアップします。散歩は私が毎日連れて行っていますので安心してください。そちらで楽しんでくださいね。」

 動画はソックスの食事シーンだった。それと言うのも、犬は大好きな飼い主が何日も家に帰ってこないと心配で食事をしなくなると聞いて心配していたからだった。しかし動画の中のソックスちゃんは、私の心配をよそにバクバク食べていた。

それを見て安心したというより少しがっかりしたというのが本音だったが、連れ合いのlineには、安心したありがとうという言葉とともに残念の絵文字を添付して返信した。

代官のlineはというと猫の写真が盛りだくさんだがその中に、日曜日の待ち合わせ場所を尋ねるものがあった。彼は、本気で来るつもりの様だ。夕食の時にフルーツに聞いてみることにする。

 夕食の時は、日本語が使えるので高齢者テーブルは何時ものようにとても賑やかだった。チエとユリの先生との観光の話も聞いていて楽しかったが、一番驚いたのは彼女らも私も同じ店で猫と遊んだということだった。

 マサシさんとショウコと話をしたら、明日の夕方にウクレレを買いに行きたいので一緒に行って選んでくれと頼まれてしまった。勿論、と言ってショッピングモールでの待ち合わせ時間をその場で決めた。

代官から楽しみにしているニャー

 そして、彼らは既に今度の週末のイベントチラシを手に入れていたので、それを写メさせてもらった。その場で代官にlineで写メしたチラシをポストしたら、すぐに、 “楽しみにしているニャー” という返信が届いた。

 Lineの着信音に反応してユリが私のスマホを覗き込んできた、私がすかさず “こっちもぴょん”と返信したのを見て、ユリが私のおでこに手をあてて笑った。

私は代官と出会う前は、Lineでそんなような返信をするタイプではなかったが、調子に乗って“夕食を一緒にしませんかニャー?”と送ったが、社会人としては、あまりにも彼に対して礼を失しているのではないかと心配していたら、代官から“うれピィニャー”という返信と猫のキャラクターが踊っている動画が届いた。

こんなやり取りをしている自分は今まで考えられない、これは彼の人たらしの術中にまんまとはめられたなと、にやにやしながら、ふと、上級者テーブルに目をやると英語が飛び交っていた。

その中心に私と同年代のおやじがいて、ナオミやケンたちとジェスチャーを交えながら堂々と笑顔で会話を楽しんでいた。

その姿は私の目にはヒーローとして映ったともに、彼と話をしてみたいものだと思って、目を合わせて会釈しようとしたらケンと目が合った。

ケンと話をしようとして一歩近づいたら彼がゼェスチャーで私を制して、立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。

鍵:「Hi. Good evening, Ken.」こんばんは、ケン。

K:「Good evening to you Shige.」こんばんは、シゲ先生。

おいおい「To you.」なんて彼は本当に私に敬意を払ってくれているようだ。困ったものだ。

鍵:「Hi! Are you free this Sunday night?」日曜日の夜は時間ある?

K:「Yes, I am.」はい、あります。

鍵:「Would you like to eat out together on Sunday night?」日曜日の夜一緒に外食しませんか?

K:「Sounds good. Thank you, sir.」いいですね。ありがとうございます。

鍵:「Okay. I will inform you of the meeting place and time later.」良かった。待ち合わせの場所と時間は後で連絡します。

K:「I look forward to eating together.」一緒に食事をするのが楽しみです。

鍵:「Same here.」私もです。

K:「By the way, do you have a Line?」ところでlineは、使っていますか?

鍵:「Yes, I do.」はい、使ってますよ。

K:「If you like, could you make friends on Line?」もしよろしかったらlineで友達になっていただけませんでしょうか?

鍵:「Sure.」はい。と言って、Lineで友達になった。

  部屋に戻ってケンにテストメール代わりに、 “私はフィリピン人のメンバーと一緒にウクレレの弾き語りをします。都合がつけばイベントに参加しませんか”というメセージとともに、日曜日のイベントのチラシをlineにポストしてみた。 

 それに対して彼から “大変残念ですが日曜日の15時から16時は英語のクラスがあるので参加できません。夕食については17時以降でお願いします” というメッセージが届いた。それと同時に代官からの着信があった。

代官から高齢者施設の見学したいニャ~

 内容としては “フィリピンで高齢者施設の入居を考えているので、日曜日のイベントの前後に施設内を見学したいニャ~”というものだった。

 私は“高齢者施設の経営者に見学が可能かどうか明日の昼までに確認してLineするよ”というメッセージをポストした。

 代官からすぐに “かたじけニャ~” と返信が届いた。しかし、始めて会った成田空港での話だと、彼は定年後に日本人の妻と離婚して、フィリピン人かインドネシア人の彼女と暮らすと言っていたのに何があったのだろう?

 まあそのことは、あっしには関わりのねえことでござんすという、木枯しこがらし紋もん次郎じろう風の決め台詞ぜりふとともに脳裏から消し去った。

 しかし、夕食にケンというスクール仲間の若者を同席させる許可を得る必要を感じて、その旨をlineで送信したら“By all meansニャン”と多分、勿論結構ですという意味の返信をしてくれたので、ケンが私に相談したいという内容と彼に関して知っている限りの情報を代官に送信した。

 合わせて、ケンから食事会には私の友人も同席させる旨の許可をとり、代官の人となりを送信した。

 二人から彼に会うのが楽しみですと返信が来たので安心して、こちらも楽しみにしているという内容の返信をした。

 代官には、“たのしみニャン”で、ケンには“こちらも大変楽しみにしています。当日はよろしくお願いいたします。”と送信した。

 しばらくして、ケンから “シゲがニャ~って使うなんてびっくり!” というメッセージが届いた。そして、代官から“よっ、ビジネスマン。びっくりニャン!”というメッセージが届いた。

 どうやら両方に間違って送信したらしい。

 そのことに気づき慌てて間違えて送信したことを二人に通知したが、その後ケンとはこの一度のミス送信がきっかけで胸襟を開いて話が出来るようになったから不思議だ。と考えながら胸襟を開いてじゃなくって、フランクを使う方が今風だろう。いやいや、きみねぇ、今風なんて今時言わないよ。それを言うならナウいだろうと一人でボケとツッコミをしてみたがむなしい気持ちになった。

やっぱりこんな時は妻のツッコミが欲しい。これもホームシックというのかなと思いながらアルコールの勢いで早めに寝た。

翌日は、ジャムにスマホの修理を依頼する時とウクレレを買う時のレッスンをお願いした。そして、ジャムからスマホショップも紹介して貰った。

 そしてマーガリンから電話で予約の仕方、そして友人を食事に誘う時及びとレストランでの注文のレッスンを受けた。


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