翔滅のイグジストイド

翔滅のイグジストイド

【配役】
ニワ(性別不問)
日和零(ニワレイ)
超法規超常現象対策班TEN(テン)のエージェント。都庁上空に現れた巨大な顔を排除すべくサカキバラとの接触を図る。

エンジョウジ(女性)
円城寺莫々(エンジョウジナナ)
TEN所属の下級スタッフ。ニワの指示によりサカキバラのカウンセリングを担当することとなる。

ミゼル(性別不問)
宇宙意志の代理人を自称する正体不明神出鬼没の人間の形をした何か。ニワに様々な情報を内通させるがその意図は定かではない。

サカキバラ(男性)
榊原勵(サカキバラツトム)
十余名の若い女性を手にかけた殺人鬼。異例の早さで死刑判決が下り、その執行を待つ最中に、エンジョウジの面会を受ける。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

リポーター(ミゼル役が兼ねる):
東京都八王子市などで女性十二名が殺害された事件で東京地裁立川支部(とうきょうちさいたちかわしぶ)は強制性交殺人などの罪で問われたサカキバラツトム被告に先ほど死刑を言い渡しました。

その時のサカキバラ被告の様子ですが、椅子に浅く腰掛け、うっすらと笑みを浮かべながら淡々と話に合わせてうなづいておりました。

ニワ:サブローラーメン味噌味ください。麺も味も油も全部普通で。

エンジョウジ:えーと、サブローラーメンのラード味をオニ盛りで。
超硬めの味濃いめの油ドバドバで、トッピングは、ニンニクとニラとスッポンとそれから……大粒なっとうお願いします。

ニワ:おい。この後すぐに面会だぞ。エチケットを考えろ。

エンジョウジ:ミントタブレット持ってるから平気です。

ニワ:そういう問題じゃないだろ。

エンジョウジ:ブランチにサブローラーメンを選んだのはキャップですよ。ご馳走様です。

ニワ:奢るとはいっていない。

エンジョウジ:この後わたくしたちが面会するのって、この、今テレビに映ってる人ですよね。

ニワ:……ああ。サカキバラツトム。若い女性ばかりを狙った連続殺人犯だ。

エンジョウジ:なんか、フツーの大学生って感じですよね写真は。

リポーター:東京地裁はサカキバラ被告の責任能力を認め十二人の命を奪った結果は甚だしく重大で酌量の余地は全くないと、検察側の求刑通り死刑を言い渡しました。

エンジョウジ:警察でも司法でもないわたくしたちTEN(テン)が死刑囚と面会してどうするんです。あ、反魂(ハンコン)の術で、ご遺体を蘇らせるとか。
すいません。調子に乗りました。そんな目で見ないでくださいよ。

あっ、オニ盛りはこっちでーす。味噌はそっち。

キャスター(ニワ役が兼ねる):
はい、サカキバラ被告の判決は大変厳しいものとなりましたが、世間に与えた影響を鑑(かんが)みると当然とも言える結果かもしれません。

えー、たった今、速報が入って参りました。
都庁上空に突如として現れた巨大な……これは、女性の顔、でしょうか。

中年女性と思しき巨大な顔が出現し、新宿を見下ろしています。
果たしてこのようなことがあり得るのでしょうか。
現場から中継がつながっています。カサハラさん、お願いします。

リポーター(ミゼル役が兼ねる):
はい!こちらカサハラです。機材設備ともに不十分の中継となります、
お見苦しい点お聞き苦しい点どうぞご容赦ください。

エンジョウジ:キャップ!見てください。顔ですよ、顔!都庁上空に中年女の巨大な顔だって。B級ホラービデオみたい……。

キャスター:カサハラさん、女性の顔ということなんですがねえ、大きさはその、どのくらいなんでしょうか。

リポーター:都庁よりも遥かに大きいです。
ビルのずっと上からこちらを見下ろしています。

キャスター:そうですか、もっと近づくことはできますか。
カメラさんもっと寄って。寄れませんか!ねえ!

リポーター:すいません、規制線ギリギリです。

キャスター:これねえ、もうねえ。SNS(エスエヌエス)なんかでえらい騒ぎになってて。
あんまりにもリアリティがないからフェイク動画じゃないかって言われてるんですよ。
肉眼で視認できてますか、カサハラさん。

リポーター:はい。顔が、巨大な女性の顔がこちらを見ています。
今、目が。

キャスター:目が。
目がどうされました。

カサハラさんどうしました。
ちょっと、生放送中ですよ。カサハラさん。黙らないで下さい。

リポーター:……彼女と、目が合いました。

キャスター:目があった。

リポーター:はい。

微笑んで、ます。

キャスター:カサハラさん、それでどうなりましたか。

リポーター:(キャスターを遮るようにして)あっ!

キャスター:カサハラさん!カサハラさん!聞こえますか。

大変申し訳ございません、映像と音声が途切れています。お見苦しいお聞き苦しい放送になり申し訳ございません。

はい、ここで一旦CMです。

……ちょっと、これどうなってんのディレクター!

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

エンジョウジ:サカキバラ死刑囚の護送、ご苦労様です。

それで、少し彼と話がしたいのですが。
はい。二人で、です。
宜しいでしょうか。

ご高配(こうはい)ありがとうございます。
面談が終わりましたらお声かけいたしますので。はい。

と、いうことで。
初めまして、サカキバラさん。
超法規超常現象対策班(ちょうほうきちょうじょうげんしょうたいさくはん)の
エンジョウジと申します。

サカキバラ:意外でした。面会者が女性だとは。

エンジョウジ:男性の方が宜しいですか。

サカキバラ:いえ。あなた初体験はいつですか。

エンジョウジ:は。

サカキバラ:初体験はいつですか。

エンジョウジ:質問の意図がわかりかねます。

サカキバラ:初めて男性とセックスしたのはいつかと尋ねました。

エンジョウジ:お答え致しかねます。
そもそも、初対面の相手に対して挨拶もなく尋ねることでしょうか。

サカキバラ:十五歳。

エンジョウジ:サカキバラさん。

サカキバラ:十四歳。

エンジョウジ:サカキバラさん。

サカキバラ:十三、十二、十一、十……。

エンジョウジ:いい加減にしてください。

サカキバラ:答えろよ淫売(いんばい)。

エンジョウジ:今なんて。

サカキバラ:インバイって言葉、ご存知ないですか。

エンジョウジ:サカキバラさん。
死刑判決が下りて、情緒不安定になっているのはお察しします。
ですがわたくしはあなたに侮辱されるためにここに来たのではありません。

サカキバラ:そう。じゃあ精神鑑定でもしに来たのですか。

エンジョウジ:あなたは心神喪失者(しんしんそうしつしゃ)ではありません。
責任能力があることは既に証明されています。

サカキバラ:では、自らの罪を悟り、殺されに来た。違いますか。

エンジョウジ:違います。

サカキバラ:神を信じますか。

エンジョウジ:……ええ。

サカキバラ:神はまさに目の前にいます。ほら、この、分厚いアクリル板越しに。
神の名の下に跪(ひざまず)き罪を明かして舌噛んで今すぐ死ねこのド淫売。

エンジョウジ:もういい加減本題に入ってもいいでしょうか。
あなたの下手な一人芝居にもいささか飽きてきました。

サカキバラ:あー、冷えっ冷えですねえ。
少しくらい付き合ってくれてもいいんじゃないですか。

エンジョウジ:そうですか。もう十分付き合ったつもりですけど。

サカキバラ:一人芝居とは心外ですが独善的であったことは認めます。お互いのことをよく知るためにはコミュニケーションが肝要(かんよう)ですものね。

エンジョウジ:世間ではそう言いますねえ。

サカキバラ:体験してみませんか。

エンジョウジ:何をです。

サカキバラ:縁もゆかりもないシリアルキラーに無惨にも殺害された女性の境遇です。

エンジョウジ:わー、ブラック。罪の意識ってありますか。

サカキバラ:どうでしょう。では始めますよ。

エンジョウジ:え、本当に始めちゃうんだ。

サカキバラ:人通りのない、小雨(こさめ)の降る薄暗い夜の帰路(きろ)。
犯人は善良なランナーを装い、まるでジョギングしているようなていで、後ろから距離を詰めて、女性の細い首に、指をかけました。

エンジョウジ:はあ。

サカキバラ:ほら、早く、悲鳴をあげて。

エンジョウジ:きゃー。

サカキバラ:ちょっとちょっとちょっとちょっと!
棒読みにも程がありますよ。稽古場なら灰皿が飛んできますよ。もう一回。ちゃんとやってください。

エンジョウジ:はあ。

きゃあ!

サカキバラ:そんな悲鳴など意にも介さず、通り魔は女性を引きずり倒し、古びたアパート横の茂みに連れ込んだ。はいさらに一言。

エンジョウジ:やめてー。

サカキバラ:危機感というものがおよそ感じられませんね。
帰り道、後ろから通り魔に首を絞められたことがないんですか。そんな生ぬるい情動では事足りませんよ。

エンジョウジ:なんの説教ですかこれ。
(深く息を吸い込んで)
やめてッ!

サカキバラ:女性の嘆願が嗜虐心(しぎゃくしん)に火をつけてしまった。
通り魔は彼女の衣類を剥ぎ取り、歪(ひず)んだ衝動をその体にーーー

エンジョウジ:改めまして、わたくしエンジョウジナナと申します。

サカキバラ:おお、強制終了してきましたね。

エンジョウジ:超法規超常現象対策班(ちょうほうきちょうじょうげんしょうたいさくはん)通称TEN(テン)に所属しています。お見知り置きください。

サカキバラ:超法規超常現象対策班。

エンジョウジ:はい。

サカキバラ:もう一回言ってもらえます。

エンジョウジ:TEN(テン)。

サカキバラ:略さずにお願いします。

エンジョウジ:超法規超常現象対策班。

サカキバラ:もう一回お願いします。

エンジョウジ:超法規超常現象対策班。

サカキバラ:すごい。よく噛まないものですね。

エンジョウジ:すいません、いいかげん本題に入らせていただいてもいいですかねえ。

サカキバラ:エンジョウジさん。

エンジョウジ:はい。

サカキバラ:なぜ犯人は十二人も殺すことになったと思いますか。

エンジョウジ:はあ。多分ですけど、仲良くしたかったんじゃないですか。

サカキバラ:え。

エンジョウジ:こういう中学生みたいなやりとりを、やりたかったんじゃないですか。殺してしまった人たちと。

サカキバラ:いかがわしく爛(ただ)れた性癖だとか格差社会からの抑圧だとか、そういう見方はないんですか。

エンジョウジ:ここまでにそんな文脈ありましたか。それに。

サカキバラ:それに。

エンジョウジ:そんな曖昧な理由で人を殺してたら、あたり一面殺人鬼だらけでは。

サカキバラ:そうですね。そうかもしれないな。うん、そうだと思う。

エンジョウジ:ご納得いただけましたか。では本題に。

サカキバラ:エンジョウジさん。

エンジョウジ:今度はなんです。

サカキバラ:エンジョウジさんは処女ですね。

エンジョウジ:は。

サカキバラ:性交渉をしたことがない。

エンジョウジ:質問の意図がわかりかねますし、セクハラの次元を超えています。

サカキバラ:エンジョウジさんを見ても、なぜか惨殺したくならないんです。

エンジョウジ:あなたは女性を見ると惨殺したくなるんですか。

サカキバラ:処女以外は生きたまま皮を剥ぎたい衝動に駆られます。

エンジョウジ:だから、わたくしが処女であると。

サカキバラ:そうです。

エンジョウジ:(深いため息一つ)
こんなやり取りするために東大出たんじゃないのになあ。

サカキバラ:それで、何の御用ですか。

エンジョウジ:ええと、なんの御用でしたっけね。

サカキバラ:死刑執行をまだかまだかと待つ身です。
エンジョウジさんのことは気に入りましたから、お手伝いできることであれば。

エンジョウジ:そうですか。気に入ってくれちゃいましたか。そうですか。

なんか疲れちゃったんでもう単刀直入に言いますね。TENと司法取引してください。引き受けてくれたら、あなたの死刑は取り消しです。

サカキバラ:死刑を取り消す。ハハ。十二人の女性を惨殺した連続殺人犯ですよ。
死刑一回ではとても釣り合わないだけの罪を犯しています。その辺はどうお考えで。

エンジョウジ:上が決めたことですのでわたくしにはわかりかねます。

サカキバラ:はあ。絵に描いたようなサラリーマン根性だ。
ですがね、死刑を回避したところでこの国で生きていく場所はもうありません。

エンジョウジ:そうですね。
あなたは今、日本国民に最も嫌悪されている人間でしょうね。

サカキバラ:ええ。ですので取引するメリットがありません。

エンジョウジ:お手伝いできることであれば、って今さっき言ったじゃないですか。

サカキバラ:言いましたね。

エンジョウジ:言いましたよね。

サカキバラ:言いました。

エンジョウジ:もう翻(ひるがえ)すんですか。

サカキバラ:では取引内容を聞くだけ聞いてみましょうか。

エンジョウジ:我々の実験に協力して頂きたいんです。

サカキバラ:実験。心理実験ならやるだけ無駄だと思います。

エンジョウジ:いえ、違います。心理実験ではありません。

サカキバラ:では解剖実験ですか。それなら死刑が執行された後でも十分できますよ。

エンジョウジ:それも違います。
鏡張りの部屋の中で一分間、あることをしてもらうそうです。

サカキバラ:たったそれだけで死刑を取り消すと。

エンジョウジ:とのことです。

サカキバラ:怪しいですね。

エンジョウジ:ですよね。一周回って興味深いでしょう。

サカキバラ:ええ。

エンジョウジ:どうです。お力添えいただけませんか。

サカキバラ:いいでしょう。執行の日を待つのも退屈でしたので。

ただし、条件があります。

エンジョウジ:なんでしょう。

サカキバラ:死刑は取り消さないで下さい。

エンジョウジ:えっ、いいんですか。せっかくの無罪なのに。

サカキバラ:はい。予定通り執行してください。
それを約束していただけるなら、協力します。

エンジョウジ:上に掛け合ってみます。また、来ますね。

サカキバラ:エンジョウジさん。

エンジョウジ:はい。

サカキバラ:エンジョウジさんはルックスもスタイルもいいのにどうして処女なんですか。

エンジョウジ:はあ。どうしてでしょうねえ。

サカキバラ:厄介な性癖を拗(こじらせ)らせているから。

エンジョウジ:まあレディコミックスは嫌いじゃないですね。

サカキバラ:そのでっかいメガネが似合ってないから。

エンジョウジ:これねえ。朝弱いんでアイメイク面倒臭くて。

サカキバラ:どっちも違うかな。うーん、今度来たときに答えを聞かせてくださいね。

エンジョウジ:お断りします。
……面談終わりました。帰ります!

サカキバラ:あーあ。行っちゃった。

(歌遊び)
あ〜かい目をした金の鳥、哭(な)〜いて啄(つい)ばむ孤児(みなしご)の、母(かか)の手指(てゆび)はやせほそり、影を踏む踏むイナの道〜。
(歌遊びここまで)

お母さん。お元気ですか。お母さん。お元気ですか。エンジョウジさんとお友達になりたいです。いいですか。エンジョウジさんとお友達になってもいいですか。お母さん。お元気ですか。

・・・・・・・

ニワ:サカキバラとの面会はどうだった。

エンジョウジ:予想を裏切る快活で饒舌な好青年でした。
十二人もの女性を殺害し死体を損壊(そんかい)したとは信じ難いほどです。

ニワ:サイコパスは概(がい)して人の懐(ふところ)に入るのが上手い。
籠絡(ろうらく)されるなよ。

エンジョウジ:されませんよ。

ニワ:たかだが十分程度の面会で、君はサカキバラに随分好意的な評価をしたが。

エンジョウジ:まあそうですけど。だからって。
そもそもサイコパスなんですか、彼は。

ニワ:十二人の女性を立て続けに殺せる人間に正気が宿るとは思いたくないな。

エンジョウジ:確かに!

ニワ:それで、どうなった。

エンジョウジ:引き受けてくれそうですよ。条件付きですけど。

ニワ:条件。

エンジョウジ:ええ。死刑は執行してほしいと。

ニワ:取引しないつもりか。

エンジョウジ:そのようです。ただし協力はすると。

ニワ:今更死刑を回避したところで、ということかな。

エンジョウジ:はい。そのように言ってました。

ニワ:社会というものを認識はしているようだ。

エンジョウジ:ええ。予想を裏切る快活で饒舌な好青年でした。
ちょっとウザいです。

ニワ:他にサカキバラと何を話した。

エンジョウジ:えっ。

ニワ:用件だけを話すには面会時間が長すぎたが。

エンジョウジ:それはほら、世間話とかを、ですね。

ニワ:だからどんな。

エンジョウジ:天気予報が外れた話とか。

ニワ:はあ。野球の話でもしたか。

エンジョウジ:そうです!野球の話もしました!

ニワ:エンジョウジ。君は何をしに行ったんだ。

エンジョウジ:だってわたくしを面会役に抜擢したのはキャップじゃありませんか。

ニワ:私の人選ミスだと言いたいのか。

エンジョウジ:それはそれで傷付くからやめてください。

ニワ:もういい。次の面会日を調整しておく。
先に本部に戻って面会内容をまとめておいてくれ。

エンジョウジ:承知いたしました。
あのー、キャップ。

ニワ:なんだ。

エンジョウジ:わたくしってその、魅力ないですか。

ニワ:エンジョウジ。

エンジョウジ:はい。

ニワ:お前どうした。

エンジョウジ:……なんでもありません。
報告書をまとめますので、失礼します。

ニワ:……なんだアイツ。

ミゼル:話は済んだみたいだね。
じゃ、入るよ。

ニワ:今度は君か。
毎度実家のような気易さで現れるな。
東京拘置所の最奥(さいおう)だぞここは。

ミゼル:前も言っただろう。我々に場所なんて関係ないと。
予定通りエンジョウジはサカキバラと接触したね。

ニワ:ああ。君の指示通りに、だ。
だが彼女はカウンセラーでもなければエンジニアでもない。
そこらの事務員に毛が生えた程度の能力しかない。
そんな彼女になぜ白羽の矢を立てたのか、今まさに分かり兼ねているところだよ。

ミゼル:それでいいんだ。サカキバラを引き入れるには彼女じゃなくてはならなかった。

ニワ:なぜだ。

ミゼル:ふふ、なぜだと思う。

ニワ:シンパシー。

ミゼル:どちらかというと逆だよ。彼女がサカキバラのことを親身に考えて面会をしていたらこの交渉は間違いなく失敗していただろう。

ニワ:エンパシー。

ミゼル:そこから、能動性を引くと。

ニワ:……レゾナンス。

ミゼル:そう。共鳴。あの二人は近しい振動数を持っているんだ。触れたグラスのわずかな震えが隣に伝染(うつ)るくらい。

ニワ:エンジョウジとサカキバラが似ていると。

ミゼル:面談を真横でずっと見ていた。二人を隔てる板はまるで鏡のようだった。

ニワ:ほう。

ミゼル:なんだい自分で聞いておいて。随分冷めてるじゃないか。

ニワ:大事の前の小事というものだ。
それから、三ヶ月前に神奈川県に出現した巨大な『指』の件だがーーー

ミゼル:イミューン。

ニワ:ああ。君がそう呼称する、巨大な人体についてもう一度確認したい。

ミゼル:どうぞ。

ニワ:あの指は自衛隊による火力攻撃を以(もっ)てしても排除することができなかった。

ミゼル:そうだね。地球上の物質ではイミューンを破壊することはできない。

ニワ:しかし出現の翌日、忽然(こつぜん)と指は消えた。なぜだ。

ミゼル:調整されたのさ。

ニワ:調整だと。誰が何を調整したというんだ。

ミゼル:宇宙が、この世界の終末を調整したんだよ。

ニワ:荒唐無稽(こうとうむけい)な空想を聞きたい訳じゃない。
わからないならばわからないと答えて構わない。

ミゼル:事実だ。イミューンは、ローカライズこそしているがその名の通り、君たちの言語で言うところの免疫(めんえき)だよ。
役目を終えた免疫は、自然消滅または回収される。だから消えた。

ニワ:では、仮に君の言う通り、宇宙がこの世界の終末を調整したとしよう。

ミゼル:頭が柔らかく執着が薄いな。素晴らしい美徳だ。

ニワ:ここでいう調整とは何だ。何を指し示す。

ミゼル:おそらく横浜駅での大規模自爆テロじゃないか。

ニワ:あのテロが指の消失に何の関係がある。

ミゼル:理不尽な無数の死によって現場近隣のカルマが調整された。

ニワ:カルマ。その言葉から強引に総括すると、イミューン云々は信仰や宗教絡み、ということか。

ミゼル:その解釈は先回りだ。
イミューン同様、君たちの言語の中で、一番近しい単語を選んだつもりだったが仏教や密教におけるカルマとは少し意味合いが違うんだ。

ニワ:意味合いはどうでもいい。都庁上空に現れた巨大な顔も、理不尽な無数な死があれば消滅するのか。

ミゼル:おそらくはそうなるだろう。ただし、横浜に現れたのは指だ。今回は、顔だ。

ニワ:指と顔とで何が違う。

ミゼル:調整に求められる質と量、だろう。

ニワ:君でも推論の域を出ないようだな。

ミゼル:うん。我々は宇宙意志の代理人だが、宇宙意志そのものではないからね。

ニワ:では宇宙の代理人とやらに尋ねる。
あの顔が消滅するのに必要な死は、どのくらいの量になると思う。

ミゼル:第二次世界大戦は優に超えるだろうね。

ニワ:それほどの被害を、サカキバラの命一つでまかなえるのか。

ミゼル:命ではまかなえない。魂(たましい)だ。
サカキバラの魂を磨り潰せば調整できる、かもしれない。

ニワ:なぜ彼なのだ。

ミゼル:うーん。
質疑応答の時間は終わりだ。ここから先は、自分で考えなさい。
ヒントは、さる修道女のいうところによれば、愛の反対だそうだ。

ではまた後ほど。

ニワ:殺人鬼の魂が、何の役に立つという。

……はいもしもし、イガラシか。ああ、まだ東京留置所にいるが。

観測部隊……観測部隊は現場に派遣したが、それがどうした。
連絡が取れないだと。わかった、すぐに本部に戻る。

・・・・・・・

エンジョウジ:お疲れ様です。

ニワ:遅くなった。現況(げんきょう)は。

エンジョウジ:観測部隊との連絡は完全断絶しました。GPSも反応ありません。

ニワ:現場(げんば)は西新宿だったな。
市ヶ谷(ここ)からなら歩いてでも一時間あれば着く距離だ。

エンジョウジ:現場保護のため先発した陸自隊員たちとも連絡が取れません。
まるで都庁一帯が現実から隔絶(かくぜつ)されたような有様です。

ニワ:イガラシはどうした。

エンジョウジ:わたくしと入れ違いに、出ていかれました。

ニワ:あいつ!相変わらず先走る奴だ。

ミゼル:存在のひずみが発生してるようだ。予想より早いね。

ニワ:……お前どこから!

エンジョウジ:ミゼル上官。いらっしゃったんですね。

ニワ:エンジョウジ、ミゼルを知っているのか。

エンジョウジ:えっ!やだ、何言ってるんですかキャップ。
ミゼル上官はTEN(テン)の特別参与(とくべつさんよ)じゃないですか。

ミゼル:ああ、そういう『こと』にした。あとは、察してくれ。

エンジョウジ:今何か言いました。

ミゼル:いいや何も。それで、ニワ君。

ニワ君。

ニワ:……はい。

ミゼル:どうやら事態は一刻を争うようだ。
サカキバラツトムの件、日を改めている余裕はない。すぐに始めよう。

ニワ:エンジョウジ、サカキバラの身柄引き渡しについて今すぐ法務省に掛け合ってくれ。速やかに市ヶ谷までの護送を。

エンジョウジ:承知いたしました。

ミゼル:彼女の交渉の邪魔になるといけない。我々は部屋の外に出よう。

・・・・・・・・

ニワ:エンジョウジはまるで君を知っているかのような口ぶりだった。
彼女の記憶を改竄(かいざん)したのか。

ミゼル:記憶の改竄だと。そんなまだるっこしいことはしないよ。
彼女の認識を少しばかり変えただけだ。

ニワ:認識を変える。そんなことができるのか。

ミゼル:できる。というか、君たちだってよくやっているだろ。
必要に応じて立場を変えて、吐いた唾を飲んで、てのひらを返すじゃないか。

ニワ:かもしれないな。
TENの本部にまで出向いたということは、相応の事態ということで間違いないか。

ミゼル:ああ。存在のひずみが発生した。

ニワ:存在のひずみ。

ミゼル:そうだ。
ときに、都庁は今、この日本国東京都新宿区に確かに存在するかな。

ニワ:存在するだろう。極論、都庁は不動産だ。元日でも大型連休でも都庁は存在する。

ミゼル:それが認識できなくなりつつあるんだ。

ニワ:何を言ってる。こうして私たちは都庁の話をしているだろう。
共通認識なくして会話は成り立たない。

ミゼル:今のところは、ね。
存在のひずみが限界を超えると存在がなくなる。

ニワ:急を要するのだろう。哲学ごっこをしている暇があるのか。

ミゼル:概念の話じゃない。本当に消滅するんだ。あの巨大な指が一夜のうちに消えたように。
イミューンの目的はつまるところ、それだ。

ニワ:存在がなくなることで何の実害がある。

ミゼル:局地的に発生した存在のひずみはやがて存在を消失させる。
存在の消失による空白は周囲の存在にヒビを入れ、また何かの存在を喪(うしな)わせる。
想定できる範囲ではまず、都庁に関連する概念が消失する。都道府県制もだ。ドミノ倒しに日本国の国体(こくたい)が崩れるだろう。

それに伴う大小様々な混乱がこの国を一気に襲う。誰もがその混乱を須(すべから)く受け入れるしかない。

ニワ:どうも要点を得ない話だ。

ミゼル:君の柔軟な頭脳でも突飛すぎたかな。
現象だけで答えれば、日本という存在がなくなるということだよ。それも、早ければ明日にでも。

ニワ:そんなことが起こりうるものか。

ミゼル:もし核戦争が起きて辺り一面焦土(しょうど)になろうと、気が遠くなるほどの時間が経てば、またそこに命は芽吹くかもしれない。それは焦土という存在がそこに残っているからだ。

ニワ:もしも存在が残らなければ。

ミゼル:なにもなくなる。在ることができなくなる。

ニワ:……ひずみが発生してどのくらいで存在は消滅する。

ミゼル:呑み込んでくれたかい。

ニワ:信じがたい話だが、そちらがそういうのならば、そうなのだろう。

ミゼル:都庁は多くの国民が認識しているから、完全に存在が消滅するまでいくらかの猶予はあるはずだ。今日の今日、完全に消失するということはないと思う。

だが、ひずみは加速度的に進む。悠長なことは言っていられないだろう。

エンジョウジ:お取込み中失礼します!

ニワ:どうした。

エンジョウジ:サカキバラツトム、あと三十分ほどでこちらに移送されます。

ニワ:そうか。わかった。

ミゼル:では、始めようか。

エンジョウジ:あの、わたくしはどうすれば。

ニワ:君は……

ミゼル:エンジョウジくんにも臨席してもらう。すぐにセットアップを始めよう。

ニワ:ミゼル……上官。

ミゼル:ニワ君。これは命令だ。

ニワ:……はい。

エンジョウジ:あの、一体何をするんですか。
わたくしはまだ作戦の全容を報(しら)されておりません。

ミゼル:奥の専用エレベーターで地下に向かいなさい。
以後の指揮はニワ君が執(と)る。道がてら説明を受けたまえ。

・・・・・・・

エンジョウジ:こんな場所があったんですね。

ニワ:ああ。地下特別地区(ちかとくべつちく)だ。存在自体明かされていない。

エンジョウジ:ここでサカキバラさんに何をするんです。

ニワ:以前話した通りだ。彼には実験に協力してもらう。それだけだ。

エンジョウジ:どんな実験ですか。

ニワ:それも以前説明した。鏡張りの部屋の中で、あることをしてもらう。

エンジョウジ:実験の手順ではなく目的です。

ニワ:ごく簡単な認知に関わる実験だ。

エンジョウジ:明確に回答してください。わたくしも参画(さんかく)するのですから。

ニワ:そうだな。君の言うとおりだ。

ここで、この奥の部屋で、彼の魂を抽出(ちゅうしゅつ)する。

エンジョウジ:魂の抽出。

ニワ:無遠慮な知りたがりを煙(けむ)に巻くためのオカルトだと思うかい。

エンジョウジ:いえ。オカルトならもう都庁上空に。

ニワ:ごもっとも。
サカキバラの魂を具現化し、都庁上空に現れたあの巨大な顔を消滅させる。

エンジョウジ:そんなことが可能なのですか。

ニワ:らしい。

エンジョウジ:らしい、って。

ニワ:だから実験といっただろう。
成否と機序(きじょ)は神のみぞ知る。私たちは代理人の指示通り、魂を抽出するだけだ。

エンジョウジ:代理人って、何の代理人ですか。

ニワ:質問が二つになったな。

サカキバラ:お取込み中のところすいません。早くしてくれませんか。読書の途中だったんです。

エンジョウジ:サカキバラさん!いらっしゃったんですね。

サカキバラ:ああ、エンジョウジさんだったんですね。さっきはどうも。

エンジョウジ:お姿が見えませんが。

ニワ:彼はもう壁の向こうの箱の中にいる。

エンジョウジ:箱。

ニワ:正七角形の鏡張りの箱の中に彼はいる。

サカキバラさん、はじめまして。TENのニワと申します。この度はご協力に感謝いたします。

サカキバラ:ご協力、ですか。何の説明もなく手錠をつけたままで無理矢理ここまで連れてこられました。
これを協力というかはいささか疑問です、が。

ニワ:本来は任意でのご協力を仰ぐ手筈でした。一刻を争う緊急事態につきご容赦ください。

サカキバラ:そうですか。
それで、この鏡張りの部屋の中で、封筒の中に書かれた言葉を言えばいいんですね。

ニワ:そうです。護送車の中で説明があったかと思います。封筒の中に書かれた詞(ことば)を仰ってください。

サカキバラ:たったこれだけのために、奇術や手品の真似事のために、わざわざ死刑囚に司法取引を持ち掛けたんですか。

ニワ:そうです。

サカキバラ:大仰(おおぎょう)に移送までして。

ニワ:そうです。

サカキバラ:はあ。それは、ご苦労様でした。

ニワ:エンジョウジくん。コンソールデスクに着席し、画面を確認してくれ。

エンジョウジ:はい。都庁と、例の顔が中継されています。

ニワ:よし。そのまま注視していてくれ。

では、サカキバラさん。封筒を開けて中の紙に書かれた言葉を読み上げてください。

サカキバラ:はい。

(間)

お前は、誰だ。

(以下、兼役による声が響く。次の声は輪唱するように前の声を声音を変えては追いかける。問いかけは各々七度続く)

声1(ミゼル兼役):お前は誰だ。

声2(エンジョウジ兼役):お前は誰だ。

声3(ニワ兼役):お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

声1:お前は誰だ。

声2:お前は誰だ。

声3:お前は誰だ。

サカキバラ:(怒りに似た悲鳴を上げる)

サカキバラ少年のモノローグ(エンジョウジ兼役):
2ねん2くみサカキバラツトム。
ぼくのゆめ。ぼくのゆめはようふくやさんになることです。ぼくはぼくのおかあさんといっしょにようふくやさんをやります。ぼくとおかあさんはたくさんはたらいてまいにちたのしくくらします。

サカキバラ:誰だ。お前は誰なんだ。

男性とも女性ともつかぬ声(ミゼル兼役):
ツトム。ツトム。ツトム。ツトム。ツトム。ツトム。ツトム。

サカキバラ:お前がなぜそこにいる!

エンジョウジ:なに、これ。

ニワ:エンジョウジ、現況(げんきょう)は。

エンジョウジ:都庁前に、人影。巨大な大きな、黒い人が、居ます。

ニワ:まさか本当に顕(あらわ)れたのか。

サカキバラ:誰だお前は。入ってくるな、こっちにくるな。やめろ。

エンジョウジ:サカキバラさん、どうしました。

ミゼル:魂の器にひびが入った。

ニワ:ミゼル、これが。

ミゼル:ああ。イグジストイドだ。
あの男の魂に付着した、愛と憎悪が、漏れ出した。

サカキバラ:やめろ。そんな、そんな顔をするな。なぜ出てくる、今更なぜ出てくる!

エンジョウジ:サカキバラさんしっかりしてください。サカキバラさん!

サカキバラ:来るな!こっちに来るな。やめて、やめてよお母さんッ!
そんな目で、そんな目で見ないでお母さん。

ニワ:黒い人影が、空に浮かんだ。

ミゼル:影が触れれば、イミューンは消滅する。
だが、間もなくサカキバラの魂も擦り切れる。

ニワ:彼が人影を動かしているのではないのか。

ミゼル:違うよ。虚空は口を開けて全て呑み込むだけだ。彼は、そうだな……燃料と言ったところだ。

ニワ:エンジョウジ!彼に声をかけ続けろ!

エンジョウジ:サカキバラさん、しっかりしてください!サカキバラさん!

ミゼル:無駄だ。そんなことくらいでは魂の漏泄(ろうせつ)は止まらない。

だが安心したまえ。

サカキバラ:ああ!どうして!どうして繋がらない、繋がれない!どうしてこっちを見てくれないんだよお!

エンジョウジ:泣くんじゃないよ。このうるさいガキが。

ニワ:エンジョウジ。

ミゼル:保険をかけておいた。

サカキバラ:お母さん、お母さんお母さん!お母さん!

エンジョウジ:気安く呼ぶんじゃないッ!私を棄てて消えた男の子供が。

ニワ:エンジョウジ、一体どうした。

サカキバラ:どうしてだよ。半分は、この命の半分は、お母さんがくれたものじゃないのか。

エンジョウジ:お前に流れているのは女の尻しか考えてない猿のような男の薄汚い血だよ。

サカキバラ:それじゃあ、それじゃあ『これ』は、誰だ、この男は誰なんだ!赤い目の鳥は飛んだのに!母さんのためにこの手で弔(とむら)ったのに!話が違うッ!

ニワ:ミゼル。保険をかけたといったな。

ミゼル:ああ。

サカキバラ:開けろ!開けろ!ここから、出してくれッ!早く!

ニワ:これのことか。

ミゼル:そうだ。エンジョウジナナは精神感応性(せいしんかんのうせい)が著(いちじる)しく高い生粋(きっすい)のシャーマンだ。

流れ出たサカキバラの魂に感応し、彼女は試験紙のように振る舞いを変え、共鳴(ともなり)を起こした。

エンジョウジ:うるさいねえ。そんなだから誰からも愛されないんだよ。

ミゼル:こうして彼女は今、幻覚を共演し、サカキバラの人格の核に触れている。

彼女自身はその素養をつゆとも知らないがね。

エンジョウジ:お前みたいな子はね、知らない。知らないんだよ。
顔を見せるんじゃない。

サカキバラ:来る、こっちに来る!

ニワ:人影が、顔に触れた。

ミゼル:おめでとう。君たちの勝ちだ。

サカキバラ:お母さん。

エンジョウジ:消えろ。消えてしまえ。

サカキバラ:お母さん!

エンジョウジ:お前なんかいなくなればいい。

サカキバラ:お母さん!お母さん!お母さん!お母さん!お母さん!

エンジョウジ:お前は、誰だ。

(長い無音)

ニワ:顔が、なくなった。

ミゼル:ああ。イミューンもイドも消えた。何もない午後の青空だ。

最後に一つ忠告する。エンジョウジ君(くん)は君(きみ)が思うよりずっと優秀な子だ。事務員に毛が生えた程度、などとは決して言ってはいけないよ。いいね。

ニワ:エンジョウジ、おい。しっかりしろ。大丈夫か。

エンジョウジ:え。すいません。ボーっとしてました。

ニワ:いや、無事ならいい。

エンジョウジ:それにしてもTENの倉庫って、なーんでこんな地下にあるんですかね。

ニワ:倉庫。何を言ってる、ここは地下特別地区だぞ。

エンジョウジ:へ。キャップこそ大丈夫ですか、舌まわってないですよ。
地下特別地区じゃなくて地下特別備蓄室(ちかとくべつびちくしつ)です。言えますか。

ニワ:地下特別備蓄室。

エンジョウジ:そうです。

ニワ:そうだ、ここは地下特別備蓄室だ。エンジョウジ、君はここで何を。

エンジョウジ:何って、備品の棚卸(たなおろし)ですけど。
キャップこそなんでこんなところにいるんです。ひょっとしてサボりですか。

ニワ:私。私は、ここで、何を。

ミゼル:やあニワ君ここにいたのか。探したぞ。

ニワ:これはミゼル上官。ご足労おかけしました。

ミゼル:雨宮(あめみや)総理大臣から君宛に連絡が入っている。すぐに本部に戻りたまえ。

ニワ:はい。

エンジョウジ:あのー、キャップ。ちゃんと寝たほうがいいですよ。

ニワ:そうするよ。では、失礼します。

ミゼル:エンジョウジ君。

エンジョウジ:はい、なんでしょう。

ミゼル:今お付き合いしている人はいるかい。

エンジョウジ:あのー、ミゼル上官、今って性別関係なくそういうのうるさいんで。気をつけたほうがいいですよ。

ミゼル:そうか。それもそうだね。忘れてくれ。

・・・・・・・

ニワ:大変お待たせいたしました、ニワです。

アメミヤ(サカキバラが兼役):久しぶりだね。直接連絡するのは選挙以来か。

ニワ:はい。

アメミヤ:……イガラシくんのことだが。

ニワ:イガラシが何か。

アメミヤ:彼に内応(ないおう)の嫌疑がかけられている。直属の上司である君の耳には、入れておこうと思ってね。

ニワ:イガラシが。御言葉ですが、何かの間違いでは。

アメミヤ:私としてもそう願いたいところだ。だが、目をかけ過ぎたが故に己の器量を見誤ることもある。獅子身中(しししんちゅう)の虫という言葉もある。

ニワ:疑いは共和党との内通ですか。

アメミヤ:野党との仲良しこよしぐらいで目くじらを立てることはない。

ニワ:では……。

アメミヤ:今話せるのはここまでだ。ニワくん。イガラシから目を離すな。いいね。

(続く)

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