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夜明けのトップロード ーー ウマ娘RTTTのOPを「時の象徴」で読み解く②

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さあ、いよいよサビです……が、このパートはレース表現を魅せるところなので、筆者が読み解ける部分がグッと少なくなってしまいます。
レースが始まり、最終コーナーを曲がった先頭の景色が見えます。ここの臨場感は本当にすごい。象徴表現としては、紙吹雪が前に舞って視界を覆うのが、直に声援を浴びる客席前までやってきたことを表しています。

(C) Cygames,Inc. 

Aメロ日常の描写で共に映っていた沖田トレーナー、カレンとドトウ、OPではここだけしか出番のないライス、ウララ、オグリキャップ、そしてトプロを応援してくれる級友たちと商店街のみんながいます。ライスやウララをOPでここにしか映さなかったのは、今回の主役は別にいるからですね。メリハリのきちんとしているところです。
紙吹雪=声援をくれるのがどんな人たちか分かったところで、レースのシーンに戻り、声援を左に浴びながら、駆け続けます。
思いっきり腕を振るう作画のトプロ、そしてオペラオー、アヤベと個別に映されてまたトプロに戻り、『誰にも譲れはしないから』とトプロの顔から瞳にクローズアップしていきます。

転調。競技場の足元低い位置を写し、駆け抜けていく三人の脚が誰が先頭か分からないほど、瞬間で交互に移り変わっていきます。
観客席からの映像と駆ける集団が同時に映るすごい構図です。象徴的に読み取れない作画については筆者も語彙を失ってしまいます。走りの力強さが人間というよりも車のようで、ゲーム内のウマ娘のレースを見る目も変わりそうです。
腕を上げて応援する勢いでよく見れないが徐々にレースの様子に近づいていきます。
先頭の三人が見えるとともに、時間が遅くなっていく演出に入ります。
口角を上げる笑みのオペラオー、
表情を和らげるアヤベ、
三人で走る姿からクローズアップしてトプロ、
時間が遅くなる演出では曇りのない輝く笑みとオデコが映ります。

アウトロです。ここでなんとこのOP中最も難解な象徴的表現が表れます。

(C) Cygames,Inc.  比較のためスクショ三枚を順番に並べて一枚に

紙吹雪が舞い、トプロの笑みから映像がまわり込んで三人の背に切り替わります。もはや彼女たちが走っているのはターフではない薄紫の軌跡です。光の粒子が上から落ち、斜めから伸びる色鮮やかな線が向かう一点に集中しています。その軌跡が一本の光になり、白い星のような輝きがいくつも煌めき溢れていく……最後になって急に演出が勢いだけのものに変わったな……などと思うのは早計ではないでしょうか(筆者は初見で愚かにもそう思ってしまいました)。
多少飛躍させないと何も語ることができないので、制作側の意図だと推測できそうなギリギリのところで解釈したいと思います。
鍵となるのはドラえもんのタイムマシンの中のような抽象的な背景です。この太い光の束は「ウマ娘のレースの歴史」、「ウマ娘のレースという概念」さらに進んでウマ娘というコンテンツが持つエネルギーの原点、「史実の競馬レース」だと筆者は解釈しました。競い合う三人のレース、それがまとまった軌跡が集約されているものだからです。だとすれば、放たれたいくつもの星の煌めきはそこから生まれた「私たちの感動そのもの」となるはずです。




(C) Cygames,Inc. 

最後、夜明けのような色彩の中、普段よりもあどけなく見えるトプロの笑みで映像が終わります。幼い日の憧れを叶えたわけです。髪飾りの輝く演出は、菊花賞の勝利がもたらしたものでしょう。ウマ娘の魅力は、一着を逃すことで失われるものではないけれど、それでも『勝利でしか掴めない奇跡』の瞬間があります。


それでは全体の解釈に入る前に、冒頭で見たキービジュアルの方を読み解いておきましょう。

客席に向かうオペラオー、反対に夜空ーー自分の抱えた妹への贖罪だけを向くアヤベ、トプロは人々に向かう心と内面の不安の狭間に立っているわけです。オペラオーも一話にほんの少しだけ弱さが描かれましたが、OPでは背中を見せる姿が強調されています。トプロと違って、オペラオーは一人でそれを乗り越えたわけです。
これはトプロが精神的に弱く描かれているというわけではありません。
素直で、才能に溢れ、それでも失敗することの恐怖ももっている。みんなのためにそれを隠そうとする。そういうナリタトップロードだから応援したいという気持ちにさせてくれるのです。

キービジュアルの象徴にはトプロが最終的にどうなるのか描かれていません。しかし、このOPは違います。それが意図されたものでしょう。

「時の象徴」ーー「夕、夜、朝」の順番。
これはウマ娘化された各キャラの象徴ーー例えば髪や衣装の色、アドマイヤベガなら星の名前に関連づけて夜ーーを踏まえて、史実のレースを並べた結果としてたまたまできたものでしょうか。
……何が言いたいのかというと、「夕、夜、朝」という連続性そのものに象徴的な意味合いが込められているのではないか。少なくとも制作側はそれを意識しているのではないかということです。

夕方=皐月賞はクラシック三冠の始まり、栄光の始まりとして黄金の夕陽。
夜=日本ダービーに臨むアヤベの内面が掘り下げられ、一着を逃したトプロの緊張や不安が表に出始めます。
朝=苦難の夜を抜けて、朝日の光そのもののような勝利をトプロが得ます。

敗北、敗北、また敗北それでも諦めずに挑み続ければ勝利する時が来る。人生のほとんどは一着になれない瞬間でできています。私たちが物語に触れようとすること自体、いつか自分にも訪れる勝利の日を信じる支えとするためだとも言えるでしょう。

ウマ娘ロードトゥザトップは、その「夜明け」の喜びに集約していきます。

OPにて前後のサビで出てきたレース場はどちらも京都レース場でした。全四話という一見物足りなくも見える構成はこの最後、菊花賞の勝利、夜明けの勝利を視聴者に味わってもらうために計算され尽くしたものです。

まもなく見られる四話が楽しみです。



蛇足の補足:象徴的読解について

今回は象徴によって読み解きましたが、このOPが人をこれほど感動させるのは、全ての面でクオリティが高いからなのでしょう。美しく可愛らしい作画の良さ、躍動感のあるレース時のウマ娘の演出、激しい転調の楽曲……全く知識がないのでそのくらいのことしか言えません……。
ただおそらく共通するのは膨大な情報量を、テーマによってまとめ、シンプルに見せていることでしょう。要素の緩急によって求心力とドラマ性を作り出しているはず。
象徴も同じです。
精神や観念的な変化を象徴によって視覚的に表現することで、映像作品は他の媒体にはできないほどの感動をもたらすことができます。しかし、ある物体にどういう意味を見出すかは本来人によって異なるものです。ですから象徴は同じものを形を変えて何度も繰り返し登場させることによって、誰もが同じ意味を見出せるものに変えていかなければならないのです。一から説明しろということではないけれど、作品外のお約束に頼らず、受け手の関心を引く形式の中に象徴的表現を潜ませることで感動は意図的に作り出せるものになります。
……まあ、それができれば苦労せんわという感じですが、筆者はウマ娘RTTTをそのお手本にしたいと思いました。


 以下は、これを作る前にイントロからアウトロまでOPに何が描かれているかまとめたメモ書きになります。これまでの内容と重複する上に、そもそもOPに出てきたものを文字に起こしただけなので、一気に確認したいけれど自分でやるのは面倒という人だけ買ってください。あるいは投げ銭のつもりでお願いします。

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