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夜明けのトップロード ーー ウマ娘RTTTのOPを「時の象徴」で読み解く①


RTTTマジで良すぎる……OPだけで何度見ても感動できるわ……

朝、昼、夕、夜……それにしてもこの OP、時の移り変わりがずいぶん激しいな……

ん、これはもしかして……?

……

そんな感じで気づいたことがあるので、「時」をはじめとする象徴的表現に着目してまとめていきたいと思います。


キービジュアルの時から「夜空を見上げるアヤベさん」「昼のレース場で客席に演技するオペラオー」「その狭間に立つトプロ」という構図が印象的でした。

OPでも時間はキャラクターの象徴として繰り返し出てきます……が、キービジュアルとは違い、朝昼はトプロ、オペラオーは夕方となっています。
うーむ、これは一体どういうことなんだろう。これだけ完成度の高い作品なんだから意図のある演出に違いない。……そういうわけで映像を最初から順番に見ていった上で、OP全体をまとめ、最終的には「ウマ娘ロードトゥザトップが一番描きたいものは何なのか」といったところまで解釈を掘り下げてきたいと思います。
是非はじめに埋め込んである『ぱかチューブっ!』公式のOP動画を見てから読んでください。理解が捗ります。
ウマ娘についてすでに知っている人向けの考察なので、各キャラの説明は割愛させていただきます。史実を含めたネタバレもご了承ください。


まずはイントロ。

(C) Cygames,Inc.  比較のためスクショ三枚を順番に並べて一枚に


夕陽に照らされる中山レース場、夜闇にライトアップされる東京レース場、そして降り注ぐ白い朝日の京都レース場……
続いて同じフラッシュカットで皐月賞、ダービー、菊花賞の表示が各競馬場に。
ファンファーレが終わり、頭サビに入ると特徴的な観客席の京都レース場に立つメイン三人の姿が映し出されます。オペラオー単独のカットに代わり、アヤベ、そしてトプロに移り、主人公である彼女が芝生を駆け抜けていくその軌跡ーー蹄鉄が見慣れたウマ娘のタイトルロゴに変わっていきます。
ここで一端、最初の演出解釈に入ります。
初見では朝昼晩のレース場が出てきたことくらいしか分からないでしょう。競馬ファンかウマ娘をやりこんでいる人でもない限り競馬場の形で判別することは絶対にできません。あれ、なんだったんだろう? と思う間もなく、次のシーンに意識が向いてしまいます。
しかし、レース場の知識まではなくとも、彼女ら三人が挑むクラシック三冠をどう分け合ったかは知っています。もしくは全四話を見終えた時点で知ることになります。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞のレース名が出てくる順番が
頭サビで出てくるオペラオー、アヤベ、トプロの順番に対応しています。
ここで

夕方=オペラオー=皐月賞=中山レース場
夜=アヤベ=日本ダービー=東京レース場
朝=トプロ=菊花賞=京都レース場

という象徴的な結びつきが生まれてきます。
アニメを見終え、あらためてOP冒頭の演出を見たとき、筆者のように競馬場の形まで覚えていない人でも、三人が凌ぎを削って得た『勝利でしか掴めない奇跡』を思い起こし胸を熱くすることができるわけです。

この夕→夜→朝=オペラオー→アヤベ→トプロというパターンはこれからもOPに出てきます。
はたしてAメロはどうなっているのか見ていきましょう。

(C) Cygames,Inc.  比較のためスクショ三枚を順番に並べて一枚に

……トプロ、アヤベ、オペラオーの順番で出てきますね。キャラ毎に三分割された画面の表示も頭サビの立ち位置とは全然違います。
これはどう解釈したらいいのでしょうか? 筆者は象徴的というよりも感情移入を優先したものだとまず考えます。映像作品ではシーンとシーンの繋ぎで最後に残った登場人物が次のシーンにもまず登場するように意識して作ります。
「時」について見てみましょう。

おそらく沖田トレーナーとともに薄紫の日のが差す朝、靴紐を結び練習を始めようとするトプロ。
口元に一本指を当てこっそり自撮りするカレンとともにまだ眠っているアヤベ……夜遅くまで星を見ていて遅くなったのでしょうか、アヤベを心配する描写の多いカレンからすると寮生の起床時間を過ぎても寝ているアヤベを気づかいつつも写真に収めているのでしょう。夜に部屋を明るくして勝手に撮るというのは違和感があります……よって時刻はおそらく朝だと考えます。
いつも通り慌てた表現の汗を飛ばすドトウと気持ちよく演技をするオペラオー、窓に見えるのは夕陽にも見えますが、アヤベのことも踏まえると朝だと考えてもいいかと思います。ふわふわの布団が好きなアヤベの特徴も踏まえて、夜の要素を引き継ぎつつ朝を描いたのでしょう。

Aメロが靴紐を結ぶトプロから始まるということも踏まえると、単なる日常の描写というよりも「始まりの朝」といった印象をこのパートは与えていると思います。

ただ、オペラオーに関しては次のシーンから考えて夕方でもおかしくありません。


(C) Cygames,Inc.  比較のためスクショ三枚を順番に並べて一枚に

夕陽の中、練習コースで走る三人が映ります。
まだ四話は公開されていませんがアニメ本編での関係性から考えて、これは実際にあった出来事というよりも日夜練習を続ける三人を表現した象徴的なシーンでしょう。頭サビで競技場にいたはずのトプロが誰もいない芝生を走り出していったのと同じです。
手前にはオペラオー、そして時間は夕方となれば、皐月賞レースの象徴となります。一つ前のシーンがオペラオーで終わっていたことから微かな疑問で感情移入を断ち切られずに、テンポを保ったままスムーズにここにつながっていきます。
次のカットは夜になっても練習コースを走る三人。白熱して全力の前傾姿勢となっています。
手前がアヤベになっていることから、これも日本ダービーに向けた三人の努力を表していると解釈して間違いないと思います。
最後に朝になっても走る三人。へとへとになって、もう走るというよりも歩くようですが、三人の表情にアップして終わるシーン終わりのカットでは、一様に爽やかな表情が浮かんでいます。ここも手前が切り替わり、トプロになっていることから菊花賞を意識しているものとなっています。
後述する「夜明けのトップロード」です。

ここまで見れば筆者が「時の象徴」と大仰なタイトルをつけた理由をなんとなく分かってもらえたと思います。

繰り返し同じ象徴が出てくることによって、象徴ははじめて象徴として認識可能なものとなり、受け手の心を揺さぶるものとなるんですね。
……しかし、このパターンがまたも崩されます。

次はBメロです。ここは象徴的表現が華やかでドラマチックなため人気のパートのようですね。

幼いトプロがトレセン学園の校門前に立ち、見上げるカット。

(C) Cygames,Inc. 

セピア調なことからも過去回想だと分かります。カットが切り替わり、成長して制服を着たトプロが進んでいきます。このBメロはそれぞれがレースにかける秘めた想いを描くパートなので、表情を見せないようにしているのでしょう。
ここで「時の象徴」から離れて、OPで重要なもう一つの要素に触れたいと思います。

トプロのカットが切り替わる前に、ひらりと落ちてくる「紙吹雪」……これは一体何なのでしょうか?

(C) Cygames,Inc.


色とりどりの紙吹雪は、冒頭のファンファーレが終わるときにも宙に放たれるカットがあり、頭サビで立つ三人に降り注ぎ、タイトルが消えAメロに入る際にも画面一杯を覆い尽くしていました。

筆者はこれを素直に「観客の応援」の象徴だと解釈します。

とするとBメロ、トプロのシーンでの「紙吹雪」はどうなるか。ここで流れる『Believe  dream 憧れはもう挑戦になったんだ』という歌詞に注目してみます。観客の応援、レースにかける想いを浴びるトゥインクルレースへの「憧れ」、それが入学によって実現が見えてきて「挑戦」に変わったということでしょう。紙吹雪の色が紫のものに限られていることから、これまでトプロを応援してきた人の想いを背負っている、という読み取り方もあるかと思います。
紙吹雪の色に注目してみると、どうやら紫、薄黄色、薄い緑、薄青色、薄桃色の五色ほどのようです。このトプロ=紫を考えると、薄青色はアヤベだったり、それぞれのウマ娘を応援する観客の想いがレース場に舞っているのだと解釈を進めることもできるでしょう。……実際の競馬場では白い馬券が舞うらしいのですが筆者は行ったことがないので分かりません。


話を戻します。トプロが校舎に入るシーンは「朝」といっていいと思います。続く二人もそれぞれを象徴する「時」ともに現れますが、今までの流れとは順番が違います。アヤベではなく、オペラオーです。

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差し込む夕陽はオレンジというよりも黄金と表したくなるほど。置いてある冠を手に取り、豪華な幕が幾重に巡らされた部屋にて巨大な鏡の前に立ちマントを翻します。勝負服姿ですが、鏡に映っているのは制服のオペラオーです。鏡は秘めた内面を表すよく知られた象徴的な小道具ですね。演劇的な振る舞いは全てオペラオーが意識して取り組んでいるものーー。本編1話では怪我明けの不安を抱えながら目覚める印象的なシーンもありました。三話でのトプロは皐月賞、日本ダービーで勝ちきれなかったことで、一着にならないと観客の期待に応えたことにならないと苦しみますが、そうではないということをオペラオーのスタンスは示していると思います。人々は感動を求めているのだと思います。「勝利でしか掴めない奇跡」はたしかにあるけれど、終幕の感動は過程のドラマによって大きく変わるものだと思っているのではないでしょうか。
オペラオーのバックショットがさらにクローズで映り、表情の見えない横顔がこちらに振り向きかけます。期待感を煽られて、次のシーンへ。


(C) Cygames,Inc.

下方に伸びる指先、掌が優しく水面に触れて波紋を生む。穏やかな表情を見せる制服姿のアヤベ。一瞬、画面いっぱいに広がる波紋。立ち上がる、水の張った競技場に勝負服のアヤベ。波紋が広がり水面に映る影もぼやけている。カメラがそのまま上にパンするように星空へ。

……変化の多いシーンなので一気に最後までいきました。
ここの歌詞は『Believe yell 答えたい気持ちも抱きしめ』です。エール(声援)というとトプロを思い浮かべたくなりますが、アヤベは亡くなった双子の妹の走りたいという想いを継いで走っていることが明かされます。鏡と同じく水面に映った像も秘めた内面を表すことが多いのですが、この水面に映るぼやけた影は生まれる前に亡くなった双子の妹の象徴となっています。一瞬のカットで穏やかな表情の制服姿のアヤベが出てきたこちらが、妹に対する慈しみ、表のかたい姿の裏にある優しい気質を表しているのでしょう。同じく鏡の向こうで制服姿だったオペラオーと校舎に入るトプロの表情が見えなかったのに対し、アヤベの表情がしっかり見えているのは、普段は隠された内面を効果的に表すための演出でしょう。
鮮やかな映像美を感じる星空に浮かぶのは「双子座」です。ここの説明は不要でしょうね。
それぞれのレースにかける想いの強さを比較することはできませんが、「死」というもっともシリアスな要素をもったアヤベが最後に回されたのだと思います。


続いて次のパートに入ります。

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同時に踏み出される三人の一歩、勝負服の足元。
時間はアヤベの夜ではなく、夕方からとなっており、シーンのスムーズな切り替わりの定番を破っていますが、これは夕方、夜、朝へと連続して移り変わることに意味があるからこその順番だと思います。Aメロの練習コースとは違い、このパートはそれぞれがレースにかける想いを表しているようです。レースのその日にこれまでに歩んできた道のりを思い起こすように、歩む動きはそのままパドックの背景へと切り替わっていきます。
眩い夕陽の線と流れ星は時間の経過を示すものでしょう。ゲームでのアヤベの固有スキル『流星のディオスクロイ』や亡くなった双子の妹も想起できます。
観客の前に立つことを意識し、パドックを抜けた瞬間からオペラオーの表情が自然なものから自信に満ちた笑みに変わります。一方のアヤベは、変わらず凛々しい表情のままです。
オペラオー、アヤベときて、トプロ……そしてサビで明らかになりますが、ここは京都レース場です。パドックを抜けて真っ白な光に消える二人を立ち止まり後ろから見つめるトプロ、これはすでに皐月賞、日本ダービーを勝った二人の後塵を拝していることを表しています。

(C) Cygames,Inc.


吹き抜ける紙吹雪……普通に考えれば、風はレース場からきたものですが、筆者には背後からきたようにも見えました。もしそうだとすれば、声援がトプロを後押ししたということなのでしょう。
髪がなびくトプロの表情も憧れに輝いているように見えます。まだ勝ちのない菊花賞前ですが、心にかげりはありません。前傾、凛々しい表情に変わり、頭サビの時のように駆け出していきます。

(C) Cygames,Inc.

少し長くなってきましたね……。
ここで一旦切って、サビ以降と全体の解釈は次の記事で行いたいと思います。


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