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「100分deフェミニズム」備忘録

2023年2月5日深夜に放送されたNHK「100分deフェミニズム」の備忘です。

PART1 加藤陽子 『伊藤野枝集』

①不覚な違算

そして全くの他人の中での生活に、とし子は迫害され艱難に取りまかれた。けれど、すべては最初から覚悟していたことであった。彼女は本当に血が滲むほど唇を噛みしめても、その艱難に耐えなければならないと思った。その苦しい生活がもう二年続いた。そして、この頃とし子は自分の生活を省みるたびに、そこに余りに多くの不覚な違算を発見しなければならなかった。
ーー伊藤野枝・大杉栄『乞食の名誉』(1920)

②センチメンタリズム

足尾鉱毒事件の衝撃を受け、谷中村の惨状に憤る伊藤野枝に対して、
夫の辻潤は「幼稚なセンチメンタリズム」と冷笑
一方、大杉が「死灰の中から」でこう反論する:

僕は僕の幼稚なセンチメンタリズムを取り返したい。憤るべきものにあくまでも憤りたい。憐れむべきものにはあくまでも憐れみたい。そして、いつでも、虐げられたるものの中へ、虐げるものに向かって、躊躇なくかつ容赦なく進んでいきたい。
N子がY村の話から得たという昂奮を、その幼稚なしかし恐らくは何ものをも焼き尽くし溶かし尽くすセンチメンタリズムを、この硬直した僕の心の中に流し込んでもらいたい。
僕が彼女の手紙によってもっとも感激したというのは、要するに僕が幻想した彼女のこの血のしたたるような生々しい実感のセンチメンタリズムであったのだ。本当の社会改革家の本質的精神であったのだ。僕はY村の死灰から炎となって燃え上がる彼女を見ていたのだ。
ーー「死灰の中から」(『全集』第十二巻「自叙伝」)

③習俗打破!
法律、コンプライアンスが整備されている今。
しかし空気はまだ残っている。
空気を打破しなければ。
「ああ、習俗打破!習俗打破!」
すべてはこの一言に尽きる。

④主体性
「私の分も頑張ってください。」
「いいえ、あなた自身の解放はあなた自身でしかできません。」


PART2 鴻巣友季子 アトウッド『侍女の物語』『誓願』

①Reproductive Health/Rights
1972「優生保護法」中絶の経済要件削除案(後に女性たちの闘争によって廃案)
2022.6.24 アメリカ最高裁による判決で、女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄
←少数(権力を握る男性)による多数への抑圧

他人の体を使って自分の自由を追求するな!(上野)
・なぜ男性が女性の性と生殖へ介入したがるか?
「子供は財産」(労働力、戦争の兵員)、「妻と子は所有物」の思想が根深い
・ウクライナの代理母にまつわる倫理的問題
→人間には自分の体に対して自己決定権を持つ。
 他人の体を使って自分の自由を行使することは間違いだ。


PART3 上間陽子 ハーマン『心的外傷と回復』
①ヒステリー(語源:ὑστέρα=「子宮」)
ヒステリーの心的外傷説(フロイト):ヒステリーは幼少期に受けた性的虐待による心的外傷に起因する

②解離的体験
性的被害を受ける→(語れない)耐え難い苦痛→(生き延びるために)肉体から意識を切り離して、生きていく→肉体と意識の統合が取れなくなり(意識の不在)、生涯苦しむ

③心的外傷からの回復ーー語り合うこと
奪われた言葉を取り戻す。
語り合うことによって、体験を取り戻し、自分のものにすることは回復の第一歩となる。
※感想:映画『SHE SAID』
https://shesaid-sononawoabake.jp/
優位的立場にいる男性が、女性に性的暴行を行った後、口止め料を支払う条件として機密保持契約書を書かせる(性的被害を他人に話したら訴えてやると脅す)ことによって、被害者の声と言葉を奪い、回復不可能な状態に陥れる。

④回復への道:本人が生きる力を取り戻すこと
・一番大切なのは、本人が生きる力を取り戻し、人との新しい結びつきを作ること。本人が主体となって回復すること。

・「治癒的関係」が孕む危険性:
治癒的関係(×)ーー被害者が怯えていて、動けなくなっているとき、小さい子供のように扱い、すべてを「私」が決定してあげる。(依存&支配的関係でもある)
←本人に決定させなければならない。本人に主体性を取り戻してもらわねばならない。そばにいて「私はあなたの味方だ」と。

⑤共世界
性暴力=つながりを断つこと
共世界:人は信頼できる、生きていても攻撃されない、信頼に基づく世界
Commonality

⑥なぜ沖縄に10代のシングルマザーが多いか
・同意なき性行為:基地=暴力 男たちが基地を見て、暴力を学ぶ
・避妊・中絶を嫌がる男:コンドーム、避妊リングを嫌がり、ピルを捨てる→バレたらどうしようという恐怖
・サンクション:共同体のつながりが強固であるがゆえに、共同体内部からの圧力・バッシングも強い→とりあえず産んでしまう


PART4 上野千鶴子 セジウィック『男同士の絆』
①性愛の三角形
レヴィ・ストロース:婚姻とは女性を媒介とした1つの交換の体系
三角形:報酬としての女と、ライバル関係にある二人の男
女は男同士の絆を維持する溶媒、女=男間の関係より、男=男間の関係のほうがより強固

②異性愛の男とは
ホモフォビア(同性愛嫌悪)を持っていて
ミソジニー(女性蔑視)を通じて
ホモソーシャル(男同士の社会的連帯)を持つ集団に成員資格を認められた男

③男の生きがい=男から男だと認められること(本当かい、、、?)

④半身で関わる
パワーゲームから降りて、組織に半身で関わる=正気の関わり方
→ホモソーシャルにおける承認はすべてじゃないことに気づく

人と人と編んでいく領域で生きることを実感する。

⑤マルクスの言葉
ーー階級と抑圧が廃絶された社会はどんな社会?
ーー知るか!
(その社会に生まれ育った人にしかわからない)
→そのような人たちを育てる責任は我々にある


◆読みたくなった本:
田中美津『便所からの解放』
カズオ・イシグロ『横の旅、縦の旅』
アトウッド『侍女の物語』『誓願』
ハーマン『心的外傷と回復』
上間陽子『裸足で逃げる』

◆行きたくなったところ:
沖縄、福岡今宿、後藤新平記念館

◆余談:
6か7年前、まだ学生だった私が参加した、上野千鶴子さん主催の映画上映会の時の話である。
とあるドイツ人の女子留学生が上野さんに質問した。「日本人のセックスレス問題についてどう思われますか」という質問であった。すると上野さんは質問に全く答えようとせず、とても不機嫌な口調で「それはあなたに何の関係があるの?あなた自身の問題を見つけなさい!」と言った。
その後、内容は覚えていないが、別の男子学生の質問に対しても、上野さんはやはり「あなたに関係ないでしょ」と一蹴した。

当時上野さんの言動にかなり困惑した私は、今になって彼女の真意が少し分かったような気がした。
「あなたには関係ない」は叱っているように聞こえるけど、同時に「あなたにとって大事な問題は別にあるはずよ。それを見つけていきなさい。」という励ましのメッセージでもあった。

無論、当事者でなければ関心を持っちゃいけないということではない。
ただ、当事者自身が覚醒し、苦渋な体験を抱えながら、敬意と権利を勝ち取るまで戦い抜かないと意味がない。
他人任せの闘争はいつも温情主義、パターナリズムになり下がる危険性を孕んでいる。たとえ一時的に成果を上げたとしても、いずれ失ってしまうであろう。
大事なのは、当事者性と主体性。

あなたにとって、本当に大事な問題とは何か?
上野さんが顔をしかめて、私たちに問いかけたのであった。


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