「遊戯王マスターデュエル」で流行っているエルドリッチデッキについての所感

※大事なことなので始めに言いますが、この記事の主題は「エルドリッチとかクソw」ではないです。デッキの中身についてはほとんど触れません。




はじめまして、しろがねです。
普段は「incitebrain.com」で遊戯王に関する情報をまとめています。種族ごとのカード紹介もやっているので、会ったことある人はいるかも……?

さて、本題に入ります。
2022年1月19日、前々から開発が進められていた「遊戯王マスターデュエル」が正式リリースされました。スマホ版はまだみたいですが、全世界で同時接続者数が25万人を突破したなんて話も聞こえてきます。筆者は世間に対して疎いのでそれがどれくらい凄いかはよく分かってませんが、Twitterで遊戯王の話題が四六時中見られるようになったことを鑑みるに、かなり多くの人たちがデュエリストとしての道を歩み始めているようです。もちろん、筆者も日々、ゲーム内のランクマッチの激流に揉まれております。

あっそうだ、言い忘れていましたが「遊戯王」はカードゲームの一種です。20年以上の歴史を持つ超老舗のカードゲームでしたが、いま世に出ているカードがそのまま全部ゲームで使える……というのは初めてのことでした。そういうわけで、普段は金銭的都合で手の届かないあんなデッキやこんなデッキを使いたい……と、既存のデュエリストも多くが電子世界でその夢を叶えているわけです。

そうして、多くのデュエリストの手に渡ったのが「エルドリッチ」の名がついたカードでした。今回は、この「エルドリッチ」デッキの流行について抱いた感想をちょこっとだけ語ろうかと思います。

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どれ、Google先生で調べてみればこの通り。沢山の人がエルドリッチを使い、または使われて思い悩んでいる様子が見えます。そもそもエルドリッチとはどういうものなのかについて、ほんの軽くだけ触れておきましょう。

カードゲームをやったことない人に説明すると「遊戯王」とは、最初にカードを40~60枚集めた束(デッキ)を作って、それを山札にして戦うゲームです。ドラクエを代表するRPGゲームのように、自分と相手でそれぞれターンを渡し合いながら、相手を出し抜いてモンスターで殴り勝つことを狙います。

ここで用意するデッキも様々です。「遊☆戯☆王」原作の主人公である武藤遊戯が使った最強の僕《ブラック・マジシャン》の関連カードをたくさん入れた「ブラック・マジシャン」デッキ、海馬瀬人が愛した《青眼の白龍》を戦術の中心にした「ブルーアイズ」デッキなどの他、「HERO」「スターダスト」「ホープ」とそれぞれデッキごとに特徴的な名前がついています。

「エルドリッチ」も、そのうちの一つです。モンスターカード《黄金卿エルドリッチ》というカードを中心にデッキを回していくため、皆から「エルドリッチ」デッキと呼ばれるようになりました。


それが流行りだした起点は知りませんが、その理由は大体分かっています。
「ゲーム内で簡単に手に入ること」「強すぎること」の2つです。


①ゲーム内で簡単に手に入ること
話をゲーム「遊戯王マスターデュエル」に戻します。このゲームでは、先述した通り、デュエリストは自分の好きなカードを使うことができます。大抵こういうものには課金が必要だったりするのですが、なんと「遊戯王マスターデュエル」においては、一つ目のデッキはほぼ無課金で作り上げることができるのです。

カード生成の仕組みとかは触れると話がこじれるので置いておきますが、こうなると「最強のデッキを作って戦いたい」と思うのがカードプレイヤーの性です。

先述の通り、遊戯王にはとにかくたくさんのデッキが存在します。中には、ゲーム内で高レアリティとなるカードが多く要求されているものもあり、いくらほぼ無課金でデッキを作れると言ってもそれなりに苦労するものもあります。
そうなれば、先程の願いに「手間をかけず」の文言が追加されます。

「手間をかけず、最強のデッキを作って戦いたい」。
そんな欲塗れのプレイヤーに応えられたのが「エルドリッチ」デッキでした。少なくとも「エルドリッチ」関連カードに高レアリティのものは少ないため、デッキの核となる部分を低コストで作ることができたのです。他に採用するカードは流石に高レアリティのものもありますが、ゲームを進めていく途中でそれらを揃えるだけのアイテムも手に入りました。

今ではインターネットもあるので「どのカードを採用しようか」と頭を悩ませる必要もありません。"最強の「エルドリッチ」"を作りたければ、ネットで調べたデッキレシピ(どのカードをどれくらい採用するかの表)をそのままコピー&ペーストするだけで、誰でも使えてしまうのでした。


②強すぎること
遊戯王のカード種類数は10000を超え、そこから捻り出された数多ものデッキが最強の座を賭けて日夜激しい戦いを繰り広げています。その中で「環境デッキ」と呼ばれるエキスパートたちは、その強さが認められて多くのデュエリストに使われています。自然と、ランク戦を勝ち抜いて上位へ上がっていけば、ある程度対戦相手のデッキが絞られていくわけです。

そうして生まれた上澄みの部分が「最強デッキ」の名を手にします。
ぱっと思いつくだけで3種類ほどのデッキしかたどり着けない領域――そこに「エルドリッチ」はいました。(筆者の中では他に「LL鉄獣戦線」「ドライトロン宣告者」があります)
どれくらい強いかというと、もう圧倒的です。ちょっとパック買っていい感じにデッキパーツ揃ったからやってみるか、程度では話になりません。

「エルドリッチ」デッキが得意とするのは、相手のプレイングの妨害でした。魔法カードを使えなくする、モンスターの効果を使えなくする、相手のカードを破壊する、やりたい放題です。不用意に相まみえれば最後、そのゲームでやりたいことは何一つさせてもらえず、苦労して出したモンスターもすぐに除去され、一発逆転の手も完封されるでしょう。

他のカードゲームをやっている方であれば、相手に嫌がらせをするタイプのデッキは、本来は上級者向けであることがなんとなく分かっているかと思います。相手のデッキの動きを封殺するには知識と経験が必要だからです。

しかし「エルドリッチ」にはそのどちらも必要ありません。するべきことはただ一つ「その時たまたま手札にあった罠カードを使う」だけです。あとは多少の経験を積めば誰でも相手を完封できます。勿論、同じ「エルドリッチ」デッキ同士では経験を積んだ方が優位に立てますが、そうでない他のデッキ相手では、初心者が熟練者を倒す「ジャイアントキリング」が可能となるのです。

簡単に、どんな相手でも倒すことができる。
それが「エルドリッチ」のパワーです。こんなデッキ他にはありません。



……「①ゲーム内で簡単に手に入ること」「②強すぎること」、この二つの理由があって、エルドリッチは「遊戯王マスターデュエル」内で大流行しました。そりゃそうです。勝利を目指す者の究極の理想は「誰にでも楽に勝つこと」ですから。
ひとたび「エルドリッチ」が強いと知れれば、多くのサイトで「初心者でも勝てる」「無課金でも勝てる」との触れ込みで紹介されます。おそらく、この記事を読んだ人もそういったサイトを見たことがあるはずです。ゲームで楽に勝ち進みたい、という欲望を叶えるべく、様々な攻略サイトがこぞって取り上げました。

今でこそ「エルドリッチデッキは簡単だからおすすめ」との風潮が作られつつありますが……筆者はあんまりこの状況をよく思っていません。

逆張りじゃ無いんです。
ここからが本題です。最近の流行について、ちょろっとだけ語ります。



エルドリッチが流行していることに関して僕が思うのは「ああ、もったいないなぁ……」という気持ちです。これは特に、初心者の方が使っているのを見た時に感じます。……何がもったいないのか? 
それは「見たもの全てが魅力的に見える新鮮さ」です。

カードゲームに限らず、何か新しいことを始めたばかりの時ほど期待に満ちている瞬間はありません。最初こそ不慣れながらも、少し経験を積めばできることが増えていって、もしかしたら自分はなんでもできてしまうのではないか……この全能感は一度過ぎ去ってしまえば、まず二度と、同じようなものとしては返ってきません。
「自分は最強かもしれない」と思っていても、徐々に知識と経験が蓄積されるにつれて、自分は組織の頂点ではなく、大衆の中の一人だと言うことを自覚させられていきます。誰もが通る道です。

初心者が「エルドリッチ」デッキを作るとなれば、十中八九攻略サイトを頼ることになります。それこそ「企業wiki」と呼ばれているような奴です。もしくは、Twitterで「エルドリッチおすすめ!」と宣伝している人の情報を見ることもあるでしょう。
しかしそこに、初心者なりに試行錯誤する暇が介入できるような場所はありません。自分で考えるのでなく、他人が「ああしたらいい」と言っているものに従うだけとなります。そりゃそうです、始めたばかりで何も知らないんですから、知っている人の意見を聞いてその通りにした方が勝てます。《灰流うらら》を使うタイミングも、ゲームを降参するタイミングも、すべて"知っている人"の意見に従えば、自分で考えるより遙かに効率良くランク戦を進められます。

するとどうなるかというと……10000種を超える魅力的なカードで戦えるはずの「遊戯王」で、たった数十種類だけのカードとしか出会わないデュエリストライフを送ることになるのです。
あんなカードあるんだ、このカード使ってみたい、そういった興味の芽が芽生えることも殆ど無いまま、手元にある「エルドリッチ」という閉じた世界を抱えたまま死闘の場に臨むことになります。しかも、そのデッキが完成していけばしていくほど、後から他のデッキへ乗り換えることも難しくなってしまいます。(これは、ゲーム中のカード生成に必要なアイテムが枯渇するため、採用されるカテゴリ外強力カードの汎用性が低いために起きます)

そうなれば最後は、「遊戯王楽しそう!」と思って始めたはずのプレイヤーが、自ら殻に閉じこもってデッキを回すだけの機械になります。
そうしていつの日か「遊戯王マスターデュエル」より面白いものを見つけて、そちらに流れていくのです。おそらく帰ってくる可能性は高くありません。だって、"遊戯王"の記憶には、「エルドリッチ」で相手のカードを無効にし続けて殴り続けた景色しかないのですから。いつしか「エルドリッチ」ですらランク戦で勝てなくなったら、戻ってくる理由もなくなるでしょう。


最初に言った通り、僕は「エルドリッチ」というデッキを批判したいわけではありません。エルドリッチを使う分には何も悪いことではありません。批判するとしたら、その対象は「良かれと思って"助言"を行い、界隈の新参者から自由を奪う風潮」です。

どうも、最近は世間に溢れるコンテンツ量が多すぎるせいか、多くの人たちが効率的にコンテンツを消費しようとしている傾向を感じます。先程話題に上げた「企業wiki」を見れば、ゲーム中盤の内容について調べに来たのに、なぜか同じページに「クリア後について」「最新アップデート内容」が書かれているのです。
今の風潮が決して悪いことだと断定するつもりはありませんし、できません。でも、僕は昔から、一つのものを腰を据えてやる人だったので、それ結構寂しかったりしますね。

僕のいる界隈に初心者が入ってきたとき、こう接するよう意識しています。
いつもできてるわけじゃありませんが……
・「新しく界隈に入ってきた人はまず"見守る"」
・「いざという時に助けを求められるよう、手は差し伸べておく」

何も知らない人を目の前にしたら、何も聞かれていなくてもつい前のめりになって自分の持っている知識を教えたくなってしまいます。おそらく人間の性なのでしょう。しかしそれは、初心者から思考の柔軟さを奪うことになります。
しかし、放っておくのも良くはありません。はじめて界隈にやって来た人が周りをキョロキョロして、どうしたらいいか分からなくなった時に困らないように「もし分からないことがあったら聞いてね!」の一言をかけるようにします。初心者が知識を得ることを「能動的に」行えるようにするのです。

この二つを気をつけているからこそ、今回の「エルドリッチ」の件についてもやもやした部分があったのでしょう。最近になってエルドリッチ流行批判が一種のプチブームになりつつありますが、実際のゲーム的な話については他の人に任せようかと思います。僕も遊戯王5年以上やってるけどよくわからんし。

ということで、より多くの人が遊戯王に触れて、個々それぞれ魅力的な部分を見つけて長く続けてくれることを祈って、記事を締めさせていただきたいと思います。

では、今度はランク戦で!
その時は「チェーンバーン」で焼き払いますから、覚悟してくださいね!




……そうだ、最後に、もう既にエルドリッチを作っちゃった「初心者」のために、応援のメッセージをひとつ。

この記事では初心者がエルドリッチを使うことを肯定的には書いていないので、もしかしたら自信をなくしたり、不安になったりしたかと思います。その点に関してはごめんなさい。
でも、あまり不安になりすぎないで、とエールを送ります。

「エルドリッチ」はとっても良いカードです。「エルドリクシル」「黄金郷」カードの使いやすさも相まって、それ単体で戦えてしまうほどに強力なテーマであることには変わりません。

しかし、単体性能が優れている分、様々なデッキで活躍できる可能性を秘めています。今でこそ《スキルドレイン》《王宮の勅命》が相棒かも知れませんが、エルドリッチの相棒になれるカードは遊戯王の世界にたくさんいるんです!
将来的に、エルドリッチを軸にデッキをアレンジしたいのであれば「アンデット族」に関連するカードを探してみてください。テキスト検索で「アンデット族」と検索したら、きっとたくさんのカードが出てくると思います。

また、《スキルドレイン》等の罠カードを他のデッキでも使いたい、と思った方は……是非とも「クリフォート」デッキを触ってみてください。多くは語りませんが、あれはとってもいいものです。ソロモードでお試しできますし!

……ということで、ほんとのほんとにお別れ。
もし、筆者に聞きたいことがあったら、Twitterでよろしく!

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