夏と思い出と

褪せた外壁の家からかすかにピアノとバイオリンの音色が聞こえる。ときどきこの家の前を通っているけど、気がつかなかった。窓にはポスターが貼ってある。どうやら今月から音楽教室を始めたみたい。

2つの楽器が演奏しているのは、私が小学生のときに学級で合唱をした曲だった。懐かしいメロディーに私は思わず口ずさんだ。アルトパートでハモってみたりなんかして。
いま みらいの とびらを——
一度口ずさんでみると、体育館のひな壇に立っている景色が頭に浮かんできた。
じりじりと温かいスポットライトや、ござに座ってこちらを見ている小さな1年生の姿、一緒に練習してきた同級生の歌声が右から左から聞こえてくる。

決してそんなに遠い記憶じゃないのに、この気持ちはなんだろう。


この時間になると、どこからか炭が燃える匂いがする。昼の明るい時間にやるものだと思っていたけど、最近は夕方から夜にかけてやる人もいるみたい。昼間は暑いし太陽がきついし、夜のほうがいいのかも。安全にね。


暑くてだらけたくなる日が続いているけど、
「暑いね」
「涼しいね」
「肌寒いね」
「雪だね」
冬へのグラデーションは始まっていて、その向こうには夏がいる。
時間が"流れていく"とはこういうことなんだね。掴めないし、止められない。季節が繰り返されて、年も繰り返されて、それがちょっと不安になる。


「人を愛するためには、まず自分を愛するべきだ」
という言葉をどこかで耳にして、今はその準備段階にいる。
周りと自分との違いをポジティブに判断したり、今まで以上に柔軟な受け皿を持つようにした。
こういう試行錯誤を、これからも続けていきたい。