どうにもならないこと

生きてるうえで、どうしようもない出来事というのは常々あるもので、私の生い立ちなんてのもその一つだと思っている。

私の父親は「活動家」「革命家」などと言いながら政治批判や原発問題、果ては世の中のあり方に物申すくせに、中卒でまともに働いたことがなく、借金浮気を繰り返しては親に尻拭いをさせ、その時にできた子どもは母親に責任を押し付けるクズのそのものだ。子どもは親を選べない、とはよく言ったもので、こいつが無責任にこさえた「負の連鎖」はこの代で終わらせるべきだと思う程に兄弟と腹違いが私にはいる。

その中の腹違いに私の実弟と数ヶ月違いの妹がいる。弟が生まれ離婚した頃にその腹違いは生まれたらしい。「らしい」というのは私は会ったことがなく話だけを聞いたからだ。
離婚したのに当日小学校低学年だった兄は父親の実家、祖父母の家によく出入りしていた、その時に赤子を抱いた女が家から出てくるのを見てしまい、子どもながらに「見てはいけないもの」と察したとのこと。不運でしかない。

そして、私は30年後にその時の女と対面したことが2度ある。
その女は簡単に言えば当時の浮気相手なのだ。
「俺とあいつの結婚生活は破綻している」という今なら使い古されてリサイクルにも回せないような言葉につられて浮気をし、子どもができたという。

その浮気相手は当時弁護士の卵で、あの男は「それを見越して」近付いたのだろうと今は思える。
とりあえず、その弁護士志望の浮気相手はあっさり私の父母を離婚させ再婚相手として「妻の座」を手に入れた。

弁護士に必要な倫理観もクソもない話で逆にウケる。

結局その妻二号の弁護士も他の女に浮気をされて離婚したのだとか…自分がしたことは自分に返ってくるとはこういう事をいうんだな、と聞いた当時は世界の真理を見た気持ちになったものだ。

さて、話が逸れてしまったが、私が30年越しにその弁護士に会ったのには訳がある。
当時の私はとても心が疲弊していた、正直病気が悪化しててこの厄介な病気の元を辿れば「こいつら2人が原因じゃないか!」とキレた、それだけだった。
完全なる八つ当たりといってもいい。

弁護士が浮気ってどんなアバズレgirlだ?という好奇心と刺し違えてもいいから文句のひとつでも言ってやりたいというどうにもできない物騒な憤り、その勢いで連絡先を手に入れた。
年齢のわりに落ち着きのない事である。

初めて会った時、彼女は銀座だか新宿だか、とりあえず都内に事務所がある、女性の人権に力を入れている女だけの事務所で働いているという話だった。

女の人権を踏みにじってた奴が女の人権を守るとか、ヤバいウケる(2回目)

そしてなんだかんだやり取りして都内某所で会うことになった。

第一印象は「普通のおばさん」だった。

化粧の仕方も知らない、服も地味で、だけど我が強いんだろうなって思うような「普通のおばさん」だった。
アイシャドーがズレてたのが凄い気になったがあえて口にはしなかったのは優しさ。

正直当時のMy Motherに比べたら完全に「弁護士」という資格と金を皮算用した結果選んだ女なんだろうなって思ってしまった。

彼女は心ない謝罪をした後は終始無言だった。こちらが録音してると思ったのか、記録に残ることは言わないといった様子。
「さすが弁護士」と思うと同時に世の弁護士がこんなのばかりなのかと事件事故と無縁の私は偏見を持ちそうになった。

黙ってる死んじゃう病のくせにコミ障や私は沈黙に耐えられず、うっかり浮気の経緯を聞いてしまった。
それが地雷だったようで、彼女はイライラしているようだった。

空気読めなくてサーセン。

彼女の地雷を踏み抜いてしまい、動揺と苛立つ姿を見て…私のよくないところが出た。
「飽きた」と思ってしまったのだ。そもそも熱しやすく冷めやすい、猪突猛進な性格だから単身乗り込んで文句を言えばそれで大体満足されてしまう。
実に省エネな性格をしているのだ。

だが、飽きたというより醒めたが正確な言い方かもしれない。
女が発した一言で「どうしようもない人」と思ったのだ。

地雷を踏んだ私に女は「私にとっても不倫は黒歴史なんです」と口にした。

この女は相手に家庭があることを理解した上で壊し、その家族を追い込んだくせに被害者面をしたのだ。

その瞬間に「この女は弁護士以前に人としてどうしようもないクズなのだ」とやっと気づいたのだ。なんて無駄な時間を過ごしたのだろう、と。

そもそも、この国には親の離婚で子どもが傷つこうが、心を病もうが、自殺しようが「親は親、子どもは子ども」というスタンスなのだ。
家族制度だ世襲制度だとパートナーシップは日本のあり方を変えるだとか「家族」という集団に拘りを見せるくせに、そのくせ都合の悪い「愛人問題」「嫡子問題」はないものとして扱うご都合国家であることを忘れていたのだ、そしてこの弁護士女もそれを承知の上で私に会ったのだということに気付いてしまった。

どうにもならない、今までの人生で嫌という程覚えた言葉を私は失念していたのだ。

うっかりにも程がある。

私がこれから一生呪いの言葉を吐き続けてもこいつらには擦り傷ひとつ付かない、そして私の存在を忘れ、弁護士女は今日もどこかで浮気をされたと泣いている見知らぬ女性を聖母のような心で助けているのだろう。
助けられた女性は目の前の女が浮気の果てに人ひとりの人生を踏み台にして生きているとも知らずに。

もしかしたら腹違いの妹さんは結婚して孫がいるかもしれない。お前の祖母はひとつの家庭を壊して今の幸せを手に入れているのだよ、とは教えないが…。

この世の中は、本当にどうにもできないことで溢れている。
そして、どうにもできない事に諦め慣れてこの先も私は1人で生きていくのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?